プベルル酸とは?プベルル酸の毒性と紅麹との関係について

小林製薬の紅麹サプリメントで検出されたとされる「プベルル酸」。みなさんも聞いたことがない成分でビックリしたことでしょう。

今回、プベルル酸について

  • プベルル酸とは何か
  • プベルル酸の毒性はどれくらいか
  • プベルル酸と紅麴サプリメントに関係はあるのか

を含めて、様々な論文からわかりやすく解説していきます。

紅麹や紅麹サプリメントについては紅麹とは?紅麹の効果と危険性について【自主回収】を参照してください。

プベルル酸とは?

プベルル酸は青カビの一種の代謝産物から見つかった天然化合物です。黄色い粉末状の化合物で化学式は「C8H6O6」。マラリア治療のための有望な天然物質として、ペニシリウム・ヴィティコラ(FKI-4410)の培養液から分離されました。

分離実験の論文では、山梨県産のブドウを発酵させてできたカビを用いていますね。

マラリアの治療薬といえば「クロロキン」が有名ですが、クロロキン耐性マラリアが問題視されていました。そこで、ペニシリンがカビから発見されたように、治療薬開発のために数多くのカビの培養から治療薬の抽出が行われていました。

そこで、注目されたのが化合物の1つが「プベルル酸」。もともとは1932年に報告された化合物ですが、プベルル酸はクロロキン耐性のマラリア原虫プラスモジウム・ファルシパルムK1株に対して非常に強い抗マラリア活性を示したことから、注目されるようになりました。

(参照:In vitro and in vivo antimalarial activity of puberulic acid and its new analogs, viticolins A–C, produced by Penicillium sp. FKI-4410

プベルル酸の毒性は?

このように抗マラリア活性として脚光を浴びたプベルル酸ですが、大きな問題がありました。

実際、皮下投与によるマウスの実験では5 mg/kg × 2(0日目と1日目)の投与で、5匹中 4匹が 3日目までに死亡するという強い毒性があったのです。しかも経口投与ではプベルル酸は抗マラリア活性を示すことができませんでした。

そこで、プベルル酸をもとに様々な化合物が模索されました。例えば、「トロポン」「トロポロン」「ヒノキチオール」「7-ヒドロキシトロポロン」などですね。

このように、クロロキン耐性マラリアへの治療薬研究の礎として活躍した物質が「プベルル酸」だったのです。

(参照:In vitro and in vivo antimalarial activity of puberulic acid and its new analogs, viticolins A–C, produced by Penicillium sp. FKI-4410

(参照:Antimalarial troponoids, puberulic acid and viticolins; divergent synthesis and structure-activity relationship studies

プベルル酸と紅麹サプリメントとの関係は?

では、プベルル酸と紅麹サプリメントとは関係はあるのでしょうか。結論からいうと「プベルル酸と紅麹サプリメントに関連性は(本来は)非常に薄い」と言えます。その理由は以下の2つです。

① 紅麹とプベルル酸の培養過程は大きく違う

まず、紅麹の作り方は非常にデリケートです。実際、「種麹」と「製麹」の2段階を経て紅麹米は作られます。

【種麹の作成】

  • うるち米を18時間水に浸す。
  • 胞子を無菌的に接種し32度7日培養して、十分に胞子を着生させる。
  • 炊飯米と水を無菌的に添加して、32度、7日間培養して無菌的に「種麹」を作る。

【製麹の作成】

  • うるち米を18時間水に浸して、60分蒸し煮する。
  • 蒸米(24~37度)を麹窯にいれ、種麹(6%)を接種混和したのち、32度で製麹する。
  • 途中発酵による温度上昇があるため、「手入れ」を行い38度以下に下げる必要があることや、発酵の過程で水分量もへるため、水分を適宜補給するようにする
  • 以上の工程を6~7日間かけて行う。

このように紅麹の製作は非常に繊細で、水分管理や温度調節を厳密に行わないといけないわけです。もちろん紅麹を作る胞子はどの胞子でもよいわけではありません。紅麹にするための「胞子」があります。

一方、プベルル酸を精製するためには、プベルル酸の分離実験の報告によると「ブドウを発酵させて出た『FKI-4410』というカビを30リットルのジャー発酵槽にいれて培養」する必要があります。またプベルル酸自体は水やアセトンにわずかに溶ける程度です。

もちろん紅麹米にブドウは使わないわけですし、培養過程で「プベルル酸を産生するカビが付着する」のはあまり考えにくいですよね。

② 紅麹そのものにも「プベルル酸」は入っていない

それでも様々な過程で紅麹そのものにもプベルル酸が入っているのではないか?と思う人もいるかもしれません。

実際、紅麹サプリメントはものすごい種類の化合物が含まれています。モナコリン、色素 、有機酸 、アミノ酸 、ステロール 、デカリン誘導体、フラボノイド、リグナン、クマリン、テルペノイドなどその数は100種類に迫る勢いです。

しかし、これらの成分は全て同定されたものであり、その中にはプベルル酸は含まれていません。

(参照:Red Yeast Rice: A Systematic Review of the Traditional Uses, Chemistry, Pharmacology, and Quality Control of an Important Chinese Folk Medicine)

③ プベルル酸だけを分離するのには多くの工程が必要

もう1つの理由としては、プベルル酸だけを分離するのには多くの工程が必要というのがあげられます。

「FKI-4410」というカビがたまたま紅麹の製造で混入したとしても、カビからいきなり「プベルル酸だけ」が産生されるわけではありません。実際、プベルル酸を分離・抽出した論文によると、ブペルル酸の精製のために以下の工程が必要です。

  • 10日間培養したカビの培養液を遠心分離。
  • 上澄みを特定のカラムに通し、0.1% TFA水溶液で平衡させる。
  • 40%メタノール水溶液で洗浄後、100%メタノール水溶液で有効成分を溶出。
  • 溶出液を真空下で濃縮し、窒素ガスで乾燥。
  • 得られた物質をTFA水溶液で溶解し、別のカラムで精製。
  • 精製後の溶液を10%アセトニトリル水溶液で分画し、結晶を作成。
  • 結晶をHPLCで更に精製してプベルル酸を分離。

このように「プベルル酸だけを取り出す」というのはものすごい労力が必要なのですね。したがって、(もちろん紅麹サプリメントの製造に関わっているわけではありませんが)プベルル酸と紅麹の製造過程は非常に関連性が薄いことがうかがえます。

(参照:In vitro and in vivo antimalarial activity of puberulic acid and its new analogs, viticolins A–C, produced by Penicillium sp. FKI-4410

上記のように考えると、小林製薬の紅麹問題の件は、今までの紅麹サプリメントの問題とは違った側面がありそうですね。真相が一刻も早く解明されることを心より願っております。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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