インフルエンザと比べても感染力が強い「はしか」。医学的には「麻しん」といいますね。はしかはコロナ禍でしばらく下火になっていたものの、再び世界的に流行し始めています。
そして、近年日本でも感染者数が増加しており、今後の動向が懸念されている状態です。
しかし、麻しん(はしか)と聞いても、「何となく知っているけれど詳しくはわからない」という方は多いのではないでしょうか?
今回は最近注目されている「はしか(麻しん)」にスポットを当てて、麻しんの症状、麻しんと風疹との違いなどについてお話していきます。
麻しんワクチン・麻しん風しん混合ワクチンの具体的な効果や費用などについては大人の麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)接種について【費用・効果・副反応】を参照してください。
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はしか(麻しん)とは?
麻しんとは、麻しんウイルスによる感染症のこと。麻疹のことを「はしかい」(ちくちく、ひりひりとかゆいの意味)から由来して「はしか」と呼ばれてもいます。
麻しんウイルスは空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染を経て感染します。そして、麻しんワクチンを接種せず麻しんウイルスに感染した場合は90%以上が発病し、不顕性感染はほとんどありません。
伝搬性も非常に高く、麻疹の免疫がないグループに1人の発症がいると、12人~14人の人が感染するといわれています。あの世界中で席巻した新型コロナウイルスよりも高い感染力と言われる程です。
では、これまでの麻しんの日本の流行状況はどうだったのか。
2008年では11,013人が麻しんになったと報告されていましたが、2009年には93%減少の732例、そして2015年には35人まで減少しました。この背景として、2006年6月から麻しん風しんワクチン(MRワクチン)の2回接種が開始されたことがあげられます。
そのため、一度2015年には世界保健機関(WHO)から「日本は麻しんがなくなった」と認定されました。その後、2016年には輸入例をきっかけとする麻疹の集団発生があったため、報告数は165人になり、2019年には744例に増加したものの、新型コロナの流行とともに輸入例が減ったため、2020年には10例に著明に減少。2022年も6例という報告数でした。
2022年まではほとんど麻しんはなくなっていた状況だったのです。
しかし、新型コロナの脅威が弱まり、海外規制がなくなった後、世界中で麻しんが流行しだしました。
WHOの報告によると、ロシアや中東アジア、アフリカなどを中心に、麻しんが流行している状態であり、これらの国々から渡航される人が増えると当然国内にも麻しんが広がる可能性が高くなります。
2023年には6例から28例になり、2024年にも麻しん患者も報告例がでています。今後増えてくる可能性が十分予想されますね。
(参照:国立感染症研究所「麻疹とは」)
(参照:National Foundation for Infectious Diseases「Measles」)
(参照:WHO「Provisional monthly measles and rubella data」)
(参照:国立感染症研究所「麻疹の感染症発生動向調査(IDWR)」)
はしか(麻しん)の症状は?
麻しんは麻しんウイルスによって引き起こされる感染症で、約10〜12日間の潜伏期間をへて、以下の症状が現れます。
①カタル期(前駆期)
麻しんの初期症状の時期のことを「カタル期」といい、主な症状は以下の通りになります。
- 38℃前後の発熱:2~4日間続き、体がだるくなったり、小さな子供だとイライラしたりします。
- カタル症状:咳や鼻水、くしゃみといった風邪のような症状(これをカタル症状と言います)が出てきます。また、目が赤くなったり光がまぶしく感じたりする症状が出てくることもあります
②発疹期
その後体温は一旦下がり、半日ほどで再び39℃以上の高熱が出ます。その頃には、皮膚に特徴的な発疹(赤い発疹)が出現します。(3~5日間)発疹は
- 口腔粘膜に麻疹に特徴的な白色点状のKoplik(コプリック)斑
- 耳の後ろや首、前額から始まり、次第に顔や胸、腕、そして手足まで広がり一部皮疹同士がくっつくような発疹
などが特徴的です。高熱と発疹が出る期間は、カタル症状も一層強くなり、しばしば下痢や嘔吐・腹痛などの消化器症状も出てきます。
感染力があるのは発熱による発症から発疹出現後4~5日と言われています。
③回復期
発疹が出始めてから3~5日後には、体温が下がり始め、体の調子もだんだん良くなってきます。また、カタル症状も徐々に軽くなります。しかし、発疹は暗赤色に変わり、しばらく皮膚に残ります。
このように、麻しんは発熱が長く続き、カタル症状が強く、回復に時間がかかる病気であり、元の状態に1か月くらいかかることもしばしばです。また、免疫力が低下するため、他の感染症にかかりやすくなります。
④ 一部の方は合併症へ
そして、後述する通り、麻しんの病気自体が重症化したり、肺炎や中耳炎などの合併症が出ることがあります。そして極めて稀に、中枢神経疾患である亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を引き起こします(1000人に1人程度)。
実際、海外の報告によると、ワクチン接種を受けていない方は5人に1人が麻しんにより入院を要するといわれており、麻疹にかかった人は最善の注意を払っても1,000人に1~3人は死亡するといわれています。
麻疹に対する抗ウイルス薬はありません。だからこそ、ワクチン接種による予防が感染対策が大切というわけですね。
(参照:National Foundation for Infectious Diseases「Measles」)
(参照:国立感染症研究所「麻疹Q&A」)
(参照:日本皮膚科学会「麻疹はどのような症状ですか?」)
麻しんと風しんの主な違いは?
よく麻疹と風疹は混同されやすいよね。実際、風疹のことを「3日はしか」と呼ぶこともあります。実際、麻疹と風疹はどのように違うのでしょうか。
① 感染経路の違い
麻疹と風疹は、まったく異なる感染経路です。麻疹の方が圧倒的に強い感染力を持ちます。
- 麻しん:麻疹は主に空気感染により感染します。感染者が咳やくしゃみをするとウイルスが空気中に広がり、他の人がそれを吸い込むことで感染します。ウイルスは非常に感染力が高く、空港や病院などの公共の場所で容易に広がります。手洗いや消毒、マスクの着用といった通常の感染予防策は麻疹の感染を完全に防ぐことはできません。
- 風しん:一方、風疹は飛沫感染と接触感染のみを通じて感染します。感染者が咳やくしゃみをすると、その飛沫中にウイルスが含まれています。これを他の人が吸い込んだり、ウイルスが付着した物に触れてしまうことで感染します。手洗い、消毒、そしてマスクの着用が風疹の感染予防に非常に有効です。
② 症状や予後の違い
麻しんと風しんはどちらも発疹がでる点は同じですが、症状の出方は麻疹の方が強くでてきます。
- 麻しん:麻疹は感染後10〜12日の潜伏期間を経て、初期症状として高熱と咳、喉の痛みなど風邪のような症状が現れます。そして3日ほど経つと、全身に鮮紅色の皮疹が現れます。麻疹の皮疹は癒合して拡大するのが特徴的です。症状は1か月ほどで完全に消えることが多いですが、合併症として肺炎や脳炎を引き起こす可能性があります。
- 風しん:風疹は感染後2〜3週間の潜伏期間を経て、頚部や耳の後ろなどのリンパ節が腫れ、全身に小さな紅色の皮疹が出現します。一部の人々は発熱しますが、半数程度は発熱せず、皮疹も3〜5日で消えることが多いです。また、風疹は麻疹よりも軽症であることが多いですが、妊娠初期に感染すると胎児に重大な影響を及ぼす可能性があります。
麻しんと風しんはどちらも「麻しん風しんワクチン(MRワクチン)というワクチンをうつことで予防することができます。
風疹の症状や麻疹風疹ワクチンについては、後述しますが大人の麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)接種について【費用・効果・副反応】も参照してください。
(参照:東京都感染症情報センター「風疹」)
(参照:東京都感染症情報センター「麻疹Q&A」)
麻しんの主な合併症は?
麻しんはしばしば重篤な合併症や後遺症を引き起こすことがある疾患であり、だからこそ疑わしい場合には積極的に検査をしていきます。
では、麻しんにはどんな合併症があげられやすいのでしょうか。順にみていきましょう。
① 肺炎
まず、最も一般的な合併症の1つが「肺炎」です。CDCの報告では子供の麻疹感染症のうち20人に1人は肺炎になるといわれています。
これは麻しんの病気が進行して肺に感染が広がり、呼吸に問題を生じる状態を指す「ウイルス性肺炎」や細菌が二次感染をおこして肺炎をおこす「細菌性肺炎」などさまざまです。
実は麻しんによる肺炎は、全ての合併症の約半数を占めます。特に注意が必要なのは、麻しんによる肺炎が、重症化する可能性がある「間質性肺炎」であり、これが原因で亡くなる人もいます。
② 中耳炎
細菌の二次感染により生じ、麻疹患者の約7%にみられる最も多い合併症の1つが中耳炎です。特に乳幼児の場合に注意しなければいけない合併症でしょう。
乳幼児では症状を訴えずに、耳から膿汁様の液体で出てきてわかることもあります。この場合は耳鼻科の受診が必要です。
③ 脳炎
脳炎とは、麻しんウイルスが脳まで感染してしまうことで、脳が腫れてしまう状態です。これは1000人中0.5から1人の割合で発生します。
発疹が出てから2〜6日頃に起こることが多いといわれており、半数以上は完全に回復しますが、運動能力や学習能力の遅れといった後遺症を残すことがあります。
さらには10〜15%の人が亡くなるとされており、脳炎は麻疹の合併症の中でも非常に怖い合併症の1つです。さらに脳炎の特異的な治療法もありません。
④ 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
さらに、麻しん非常に恐ろしい合併症の1つが、「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」です。
麻しんに罹ってから平均7~10年で発症し、知能障害や運動障害が徐々に進行し、錐体・錐体外路症状を示します。
錐体外路症状とは、筋緊張などを制御することができないためにおこる症状で
- 固縮:筋緊張が持続的に異常に亢進し硬くなる
- ジストニア:筋緊張が持続的に異常に亢進し全身がくねくね動くような反復する運動
などが特徴的ですね。
そして徐々に進行し、発症から平均6~9か月で死の転帰をとる進行性の予後不良疾患です。
麻しんウイルスの中枢神経系細胞における持続感染により生じるといわれていますが、原因ははっきりわかっていません。
麻しん初感染時の症状はほとんどが軽症で、その後もウイルスの一部の蛋白の発現に欠損が認められる欠損ウイルス粒子として存在し続けるからではないかといわれています。
麻しん風しんワクチンを打った場合の麻しんの症状は?
このように、麻疹は感染力も高く、合併症や後遺症も多く、抗ウイルス薬もありません。
だからこそ、ワクチン接種による免疫や感染予防対策が重要といえるのですが、ワクチンや免疫力がある場合はどういった転機が考えられるのでしょうか?
まず1回ワクチン接種をすると、麻しんの免疫ができる割合は約95%と言われています。血中抗体はワクチン接種後2週間から出現しますが、免疫のつかない5%の方は発症する可能性があります。
そのため、より確実に免疫を付けるために2回接種を行う場合もありますね。
そして、仮に不十分な免疫力であったとしても「修飾麻しん」といって、軽症で、一般的な麻しんとは少し異なる症状を示すことが一般的です。
修飾麻しんの特徴としては、以下の通りです。
- 潜伏期間が長くなる:14~20日に延長するとされています。
- 症状が軽くなる:「高熱が出ない」「発熱期間が短い」など症状が軽くなることが多いです。
- 発疹も軽くなる:発疹も通常と比べて「発疹が手足だけで全身には出ない」「発疹が急速に出現するが、融合しない」など軽くなることが一般的です。
- 合併症も少なくなる:通常の麻疹の状態よりも合併症率は低下し、経過も短くなるといわれています。
このため、修飾麻疹の症状は、風疹など他の発疹性疾患と間違われやすいですが、実は感染力があるので、他人にうつさないように注意が必要です。
しかし、修飾麻しんの場合、一般的な麻しんと比べて合併症が出にくい、という点は一安心ですよね。
(参照:厚生労働省「麻疹の現状と今後の麻疹対策について」)
(参照:東京都感染症情報センター「麻疹Q&A」)
麻しんについてのまとめ
いかがでしたか?今回は麻疹について症状から合併症に至るまで解説していきました。まとめると
- 麻しんの基本的な情報
- 麻しんは、高熱、咳、目の充血、発疹などの症状を引き起こすウイルス性の感染症。
- 麻疹ウイルスは空気感染、接触感染、飛沫感染を来し、感染力も非常に高い。
- 麻しんの合併症
- 麻疹はまれにさまざまな合併症を引き起こすことがあり、もっとも一般的な合併症は肺炎や中耳炎。
- 他にも脳炎や亜急性硬化性全脳炎など重篤な合併症を引き起こすこともあります。
- 約1,000人に1人の割合で脳炎が発生し、その半数以上は回復しますが、一部は後遺症を残すこともある。
- 修飾麻しん
- 麻疹に対する免疫が不十分な人が麻疹ウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがあります。これを「修飾麻疹」と呼ぶ。
- 修飾麻疹の症状には高熱が出ない、発熱期間が短い、発疹が手足だけで全身には出ないなど、全体的に症状がかるい。
- 麻しんに対するワクチンの効果
- ワクチン接種後の免疫保持率は高く、1回の摂取で95%は免疫力がつくが、5%は免疫がつかない場合がある。
- そのため、麻しん風しんワクチンの2回接種が望ましい。
といえます。麻しんに対しては残念ながら有効な抗ウイルス薬はありません。合併症が出てくると、かなり難渋する疾患の1つです。流行期には感染対策をしっかりして、ワクチン接種が不十分な方は、ワクチン接種も検討してみるといいですね。
麻しん風しんワクチンの詳細は大人の麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)接種について【費用・効果・副反応】を参照してください。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照して下さい。
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