妊娠・出産は人生の一大イベント。胎児にはもちろん、おかあさんにとっても様々な体の変化が起こります。
- 今妊活中だけど、薬はこれまでで大丈夫なの?
- 妊娠中で風邪をひいた時に安全に使える薬はあるの?
- もともと薬を飲んでいるけど、妊娠中にも飲んでいいの?
- 授乳中に薬を飲むと、子供にも母乳を通して薬が入りそうで心配
など妊娠や授乳に関する疑問の方のために、妊娠中や授乳中でも安全に使える薬を中心に解説していきます。
目次
妊娠と薬について
妊娠の時期と薬の影響について
一言で「妊娠」といっても時期によって胎児を中心にさまざまな変化が出てきます。
① 妊娠4週未満:くすりの影響はほとんどありません
この時期は、赤ちゃんの器官形成がされていない段階です。この時期に妊娠中に禁止されている薬を飲んでいても、妊娠が順調に経過していれば薬の影響はなかったと考えてもよいでしょう。
② 妊娠4週から7週まで: もっとも薬の影響を受けやすい、重要な器官が作られる時期
赤ちゃんの脳や心臓など重要な部分が作られる時期です。奇形を起こすかというと最も過敏性が高い「絶対過敏期」といわれています。もっとも薬の影響を受けやすい時期なので、自分の判断で薬を飲まずにかかりつけ医に相談したほうがよいでしょう。
③ 妊娠8週から15週末まで: 薬を慎重につかった方がよい時期
赤ちゃんの重要な器管の形成は終わり、奇形を起こすという意味での過敏期を過ぎていきます。しかし、妊娠4か月までは薬の影響を比較的受けやすいので、自己判断せず慎重につかった方がよいでしょう。
④ 妊娠16週~分娩まで: 薬によっては影響を与える可能性があります
器官の形成は終わるため、奇形の心配はありませんが、多くの薬剤は胎盤を通して赤ちゃんに移行します。痛み止めなど、妊娠後期に影響を与えることがあるので、薬を安易に飲む前にかかりつけ医に相談したほうがよいでしょう。
(参考:日本産婦人科医会HP)
(参考: くすりの適正使用協議会HP 妊娠・授乳とくすり)
持病をお持ちの方と妊娠中の薬について
① 糖尿病の方
食事や運動療法でコントロールが良好であれば問題ありませんが、薬物療法が必要な場合の治療法は、インスリン導入になります。糖尿病をお持ちの方が妊娠された場合、治療方法が大きく変わることがあります。必ずかかりつけ医に相談しましょう。
栄養指導や運動療法についても大きく変わることが予想されますので、妊娠中の栄養指導や運動療法のアドバイスを受けるようにしましょう。
② 気管支喘息の方
妊娠に伴って、よくなる方・悪くなる方・変わらない方はそれぞれ1/3ずつと報告されています。
吸入ステロイドや気管支拡張薬・内服薬など、治療方法は妊娠前と基本的に変わりません。妊娠中の増悪のリスクも高いので、安定していれば妊娠前の治療を継続することが多いでしょう。
ただし、一部妊娠中に変更したほうが良い薬剤もあるので、安易に自己判断せずにかかりつけ医に一度確認しましょう。
(参考: アレルギー63(2) 155-162 2014 妊娠と気管支喘息)
気管支喘息については、成人の気管支喘息について解説【治療法や吸入の仕方・日常生活の注意点】も参考にしてください。
③ 甲状腺疾患の方
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)で使用されるチアマゾール®は妊娠初期に奇形症候群の原因となるため、妊娠5~9週は避ける必要があります。妊娠を予定している段階でチウラジール®に変更しますのでご相談ください。
橋本病(慢性甲状腺機能低下症)の方は、不妊や流産・早産・妊娠高血圧症候群などのリスクになるため妊娠前から甲状腺機能を正常に保つことが大切です。
妊娠すると甲状腺ホルモン必要量は約1.5倍に増えます。そのため妊娠がわかったら甲状腺ホルモン薬を開始したり、服用していた甲状腺ホルモン薬の量を増やすことがあります。
「甲状腺機能が低い」と指摘されている方は、妊娠がわかったら早めにかかりつけ医に相談しましょう。
④ 高血圧の方
妊娠希望があれば、よく使われている降圧薬は特に妊娠初期にはつかえません。(カルシウム拮抗薬も妊娠20週以降から使用可能になります)妊娠高血圧症候群のハイリスク群であり、産科への速やかな連携が必要になります。
(参考:厚生労働省委託事業 Mindsガイドラインライブラリ)
⑤ てんかん・精神疾患の方
なかなか症状が安定しない方も多く、薬を変えづらい疾患ではありますが、妊娠を契機に薬物の選択に注意が必要なものが多いのが特徴です。
一般的にバルプロ酸やカルバマゼピンなどの抗てんかん薬は赤ちゃんの神経疾患のリスク因子として知られています。また、抗うつ薬も安全性の高い薬物に変更することが予想されます。
必ずかかりつけ医に相談し、服薬指導を受けるようにしましょう。
妊娠中の急な病気の薬は?
妊娠中も様々なトラブルで薬が必要なこともあるでしょう。実際、ひまわり医院でも妊娠中での皮膚や体のトラブルを訴える方もおおくいらっしゃいます。
幸い妊娠中の方を対象にした臨床試験もすすみ、抗生剤も含めて妊娠中でも安全に使える薬が増えてきました。
ひまわり医院では妊娠中でも使えるかどうかチェックしながら診療しておりますので、気兼ねなくご相談ください。(重要なことなので、妊娠中であると医師にもお伝えいただけますと幸いです)
授乳と薬について

母乳は赤ちゃんの免疫能力をつけたり栄養面で優れているだけでなく、おかあさんと赤ちゃんのコミュニケーションとしても大切な役割を果たしています。
しかし授乳中にも、急な風邪症状や腹痛などが薬が必要な時もあるでしょう。その時、薬を飲んでいる間は授乳を必ずやめなければならないのでしょうか?
必ずしも「薬の内服中は授乳を中止する」というわけではありません。
母乳はお母さんの血液から作られ、お母さんが飲んだお薬は母乳中に分泌されます。
しかし、多くのお薬では母乳中に含まれるのはとても少ない量です。さらにお薬が含まれる母乳を飲んでも、赤ちゃんの血液に届くまでに薬の濃度は薄くなり、赤ちゃん自身にお薬の影響がでる可能性はとても低くなります。
月齢が大きくなって離乳食がすすんだり、ミルクとの混合栄養などで赤ちゃんが母乳を飲む量が減ると、お薬の影響はより少なくなるのです。
しかし、一部授乳中でも安全性が確立されていない薬もあるので、かかりつけ医に相談するとよいでしょう。ひまわり医院では、授乳中でも安全に使用できる薬を調べて提供しております。(大切なことなので、授乳していることを医師にも伝えていただけますと幸いです)
「自分が普段飲んでいる薬が授乳中でも安全に飲めるか知りたい」という方は、国立成育医療研究センターが「授乳中に安全に使用できる薬」の一覧表を提供しておりますので、確認するとよいでしょう。
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【この記事を書いた人】
一之江ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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