亜鉛不足は、さまざまな症状を引き起こす必要不可欠なミネラルの1つですが、採血しないと亜鉛不足かどうか正確にはわからないのがネック。
そこで、手軽に見れる所見として有用なのが、亜鉛不足に伴う「爪」の変化です。亜鉛不足になるとどんな「爪」になるのか、代表的な例を紹介していきます。
他の亜鉛の症状については亜鉛不足による「10の症状」について【皮膚症状・舌炎など】を参照してください。
動画でも解説していますので、あわせて参考にしてください。
Table of Contents
亜鉛不足による「爪の症状」は?
亜鉛不足に代表的な爪の症状としては
- 爪がかけやすくもろい
- 爪に横線がはいる(Beau’s線・Muechrcke’s 線)
- 爪の周囲が炎症しやすい
- 爪が縦に割れることが多い(爪甲縦裂症)
- 爪に白い半月状の部分ができる(Leukonychia)
などがあげられます。他にも、「爪半月(爪の根本の白い部分)が見えにくくなる」などの報告もありますね。
亜鉛は人体にとって欠かせないミネラルであり、細胞分裂や新陳代謝、免疫機能などさまざまな生理機能に関与しています。そのため、亜鉛が不足すると体の各所に影響が現れますが、特に爪にはその兆候が顕著に表れるのです。
まずは、代表的な5つの爪の症状についてみていきましょう。
爪の症状その①: 爪がかけやすくもろい
亜鉛は微量元素の1つですが、実は、爪のたんぱく質を作る時の必要な栄養素です。爪は主にケラチンという硬いタンパク質から構成されており、このケラチンの生成には亜鉛が欠かせません。
実際に、十分に亜鉛が摂取されていないと爪の成長速度が低下することが示唆されています。これは、細胞分裂やタンパク質合成に必要な亜鉛が不足することで、爪の新しい細胞が十分に作られなくなるためです。すると、爪自体の強度も低下し、通常耐えられるくらいの小さな衝撃でも容易に割れやすくなってしまうのです。また、慢性的な亜鉛欠乏に陥っている場合、爪が水平に割れて層状になる「爪甲層状分離症」が起こることがあります。
特に注意が必要なのは、甲状腺機能低下症と亜鉛不足が同時に起こっている場合です。甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を調節する重要な役割を持っており、その機能が低下すると全身の代謝が遅くなります。そして、亜鉛の吸収や利用効率も下がり、結果的に亜鉛不足が深刻化してしまうのです。したがって、甲状腺機能低下症と亜鉛不足が合併した場合は、重度の脱毛症や爪の発育不全といった症状が現れることがあります。
(参照:Zinc Deficiency Associated with Hypothyroidism: An Overlooked Cause of Severe Alopecia)
爪の症状その②: 爪に横線や溝が入る
あなたは「Beau’s線(ボー線)」という言葉を聞いたことがありますか?おそらく、爪に詳しくない方には馴染みのない用語かもしれません。
Beau’s線とは「すべての手や足の爪に1本の横筋が現れる線」のこと。Beau’s線は、単なる爪の変化ではなく、爪の成長が一時的に停止または遅延し全身的な影響があったことを示す重要なサインです。
Beau’s線が現れる原因はさまざまで、亜鉛欠乏や鉄欠乏といった栄養素の不足、レイノー病などの全身的な疾患が挙げられます。
「Beau’s線があるからといって必ずしも亜鉛欠乏が原因である」というわけではありませんが、Beau’s線が現れた場合、「体全体で何か不具合が生じた可能性がある」と理解することが大切ですね。
似たような所見として「Muehrcke’s線」(ミュルケ線)というのがあります。Muehrcke’s線は、爪の横方向に走る2本の白色線として現れます。
理由ははっきりとわかっていませんが、極度の低栄養状態や血液中のアルブミン(タンパク質)の低下が原因で生じるとされています。また、爪床(そうしょう)の血流異常が関与しているとも言われており、亜鉛欠乏によっても認められることがあります。
(参照:Nail as a window of systemic diseases)
(参照:Muehrcke’s lines)
爪の症状その③: 爪の周囲が炎症しやすい
私たちの爪には「甘皮(あまかわ)」と呼ばれる部分があります。これは爪の根元にある薄い皮膚で、「キューティクル」とも呼ばれます。
甘皮は一見すると小さく目立たない存在ですが、実は非常に重要な役割を果たしています。それは、爪の根元である「爪母基(そうぼき)」を保護することです。爪母基は新しい爪を生み出す部分であり、ここが損傷すると爪の成長に影響を及ぼします。甘皮はこの爪母基を覆い、細菌やウイルス、汚れなどの異物が侵入するのを防ぐバリアの役割をしています。
しかし、体内の亜鉛が不足すると、この甘皮が正常に形成されなくなります。亜鉛が不足すると、皮膚や爪の細胞の再生が遅れたり、質が低下したりします。その結果、甘皮が薄くなったり、乾燥して剥がれやすくなったりします。
甘皮が不完全になると、爪の根元が外部にさらされ、細菌や真菌(カビ)、ウイルスなどが侵入しやすくなります。また、亜鉛自体に免疫力を上げる作用があるので、亜鉛不足になると感染に対する抵抗力が低下します。そのため、爪の周囲に赤みや腫れ、痛みを伴う炎症が起こりやすくなるのです。
具体的には、爪周囲炎や爪郭炎(そうかくえん)と呼ばれる感染症を引き起こすことがあります。これらの症状は、放置すると慢性化したり、爪の変形を招く恐れもあります。
爪の症状その④: 爪が縦に割れやすい
爪が縦に割れる症状を医学的には「爪甲縦裂症(そうこうじゅうれつしょう)」と呼びます。
爪甲縦裂症の原因は実はさまざま。一般的に最も多いのは爪に対する外的な要因です。たとえば、除光液の頻繁な使用や過度のネイルケア、爪を硬い物で削ったりこすったりする行為が挙げられます。これらの行為は爪の表面を傷つけ、爪の層を弱めてしまい、その結果として縦に割れやすくなります。
また「爪の乾癬(かんせん)」や「扁平苔癬(へんぺいたいせん)」、爪の根本の腫瘍なども爪甲縦裂症の原因として知られていますね。
爪が縦に割れるメカニズムとしては、爪の根元にある「甘皮(キューティクル)」の発達異常が関与しているとされています。甘皮は新しい爪を生み出す爪母基(そうぼき)を保護する役割を持っていますが、その甘皮が正常に機能しないと、爪の成長過程で亀裂が入りやすくなるのです。
しかし、糖尿病や亜鉛不足といった全身の健康状態に関わる要因が、爪甲縦裂症を引き起こすこともあります。糖尿病では血液循環が悪化し、爪に十分な栄養や酸素が行き渡らなくなるため、爪が弱くなります。亜鉛は細胞の新陳代謝やタンパク質合成に欠かせないミネラルであり、その不足は爪の成長や強度に直接影響を及ぼします。
このように、爪が縦に割れる原因は多岐にわたるので、もしも局所治療で治らない場合は亜鉛を含めて全身状態をチェックするとよいでしょう。
(参照:日本皮膚科学会「爪が縦に割れる。中指の爪が先端で縦に割れて困っています。」)
(参照:Nail as a window of systemic diseases)
爪の症状その⑤: 爪に白い半月状の部分ができる(Leukonychia)
あなたは、爪に白い斑点や半月状の白い部分が現れている人を見たことがありますか?
これは「爪甲白斑(そうこうはくはん)」と呼ばれる症状で、爪の異常の一つです。この症状の原因は実にさまざまで、一概に特定することは難しいですが、その中でもいくつか代表的な原因があります。
一番多い原因は、外部からの刺激です。例えば、マニキュアやネイルアートの頻繁な施術、過度な爪の手入れ、爪を強くぶつけたり挟んだりする物理的な衝撃などが爪にダメージを与え、白斑を生じさせることがあります。
また真菌感染症、いわゆる水虫(爪白癬)が原因となる場合もあります。真菌が爪に感染すると、爪の色や形が変化し、白く濁った斑点や変形が現れることがありますね。
しかし、稀に亜鉛や鉄などのミネラルやビタミンの不足も、爪甲白斑の原因となることがあります。亜鉛は細胞分裂やタンパク質合成に関与し、鉄は血液中の酸素運搬に重要な役割を果たしています。したがって、爪に関わる栄養素が不足すると、爪の成長が正常に行われず、白斑や他の爪の異常が現れることがあるのです。
特にマニキュアなどをしておらず普段の食生活が偏っていて爪に半月状の白い部分があるのなら、一度亜鉛を測定してもよいかもしれませんね。
亜鉛不足による「爪の症状」についてのまとめ
いかがでしたか?亜鉛不足によって起こりうる「爪の症状」についてまとめてみました。再揚しますが、
- 爪がかけやすくもろい
- 爪に横線がはいる(Beau’s線・Muechrcke’s 線)
- 爪の周囲が炎症しやすい
- 爪が縦に割れることが多い(爪甲縦裂症)
- 爪に白い半月状の部分ができる(Leukonychia)
の5つが、なりやすい所見になります。ただし、最も大切なのは一人で勝手に診断しないこと。上記の爪の所見は、亜鉛不足以外の原因も十分考えられます。原因ごとに治療や対策も大きく異なるので、気になる方は一度皮膚科に受診してみてくださいね。
当院でも爪や亜鉛不足に関するご相談も個別に承っております。どうぞ気軽にご相談ください。
亜鉛不足と爪に関する動画はこちらからどうぞ
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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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