インフルエンザの潜伏期間と症状・新型コロナとの違いについて【隔離期間】

いつもは冬になると上昇する「インフルエンザ」。2023年は異例にも9月にインフルエンザが増加し、さらに新型コロナとの流行も相まって、非常に多くの方が感染症にかかる事態となっています。

医療者側も悩むインフルエンザと新型コロナの同時流行。私たちはどのようにして対処していけばよいのでしょうか。

今回はインフルエンザの特徴について

  • インフルエンザの潜伏期間
  • インフルエンザの主な症状
  • インフルエンザと新型コロナの違い
  • インフルエンザになった時の隔離期間

について、わかりやすく解説していきます。

インフルエンザとは?

(インフルエンザウイルスの電子顕微鏡写真:JSM Mycotoxins 65(2), 81 – 99(2015)より転載)

インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症のこと。一般的な風邪よりは重くなりやすい疾患であるため、区別して考えられています。英語名「Influenza」からわかる通り、流行や影響をあらわす「Influence」が語源です。

通常、北半球では1月~2月ごろ、南半球では7~8月ごろにピークが起きます。日本でも毎年11月下旬から12月上旬ごろから始まり、翌年の1月~3月頃まで患者数が増加し、4月ごろから減少するのが一般的です。

ただし、年度によっても流行入りする時期は格差があります。流行入りが一番早くて9月、一番遅くて1月から流行した年もありました。

そして、2023年は新型コロナの流行とともにインフルエンザも9月から流行が起こり、異例な状態になっています。

インフルエンザにもA型・B型・C型の2つの型がありますが、主に流行するのはA型とB型。突然変異をきたして大流行することもあり、1918年の「スペインかぜ」や1957年の「アジアかぜ」など特別に呼称されることもあります。(それぞれ39年間・11年間つづきました)

(参照:国立感染症研究所「インフルエンザとは」
(参照:厚生労働省「インフルエンザの発生状況」

インフルエンザの潜伏期間は?

では、インフルエンザの潜伏期間はどれくらいでしょうか。

アメリカCDCからの報告では「インフルエンザの潜伏期間や感染性」について下記のように言及しています。

  • インフルエンザにかかった人は、病気が始まってから最初の 3 ~ 4 日間が最も感染力が強くなります。
  • 症状が出る 1 日前から 発病後5~7 日以内に他の人に感染させる可能性があります 。
  • インフルエンザに感染してから症状が現れるまでの時間は約 2 日ですが、約 1 ~ 4 日の範囲である場合もあります。
  • 一部の人々、特に幼い子供や免疫力が低下している人々は、さらに長期間にわたって他の人に感染する可能性があります。

厚生労働省の資料では「数日」と記載されていたり「1~3日」と記載されていたり、「2~5日」と記載されていたりと一定としていません。

また、カナダで行われた316例によるインフルエンザの潜伏期間を調べた報告によると、感染してから症状が出るまでの期間の中央値は4日(2.6~6.6日)となっています。

このように、報告によって幅がありますが、少なくともインフルエンザに感染された方と長期間接触された場合は4日間は発病する可能性があると考えて行動した方がよいでしょう。

また、新型コロナの潜伏期間はオミクロン株で平均3.61 日 (3.55–3.68日)となっているので、もはや潜伏期間で鑑別することはほとんど困難になっていますね。

(コロナの潜伏期間については新型コロナウイルスの潜伏期間について解説【最新株・平均日数・オミクロン株】もあわせて参照してください)

(参照:Estimated epidemiologic parameters and morbidity associated with pandemic H1N1 influenza
(参照:CDC「Key Facts About Influenza (Flu)」
(参照:厚生労働省「インフルエンザQ&A」

インフルエンザの主な症状は?

(Arch Intern Med. 2000;160(21):3243-3247.より転載)

インフルエンザの主な症状は、アメリカCDCからの報告によると

  • 発熱(通常38度以上の高熱が主体です)
  • 頭痛
  • 筋肉痛や体の痛み
  • 咳や痰
  • 鼻水
  • だるさ
  • 嘔吐や下痢(成人よりも子供の方がよく見られます)

をあげています。のどの痛みをあげていないのが意外ですよね。確かに子供の症状でも後述するように、他の感染症よりもインフルエンザはのどの痛みを訴える確率が少ないと思います。

特に、インフルエンザで多くなる症状としては、急激な発熱と咳と鼻づまりです。

インフルエンザワクチン未接種の平均年齢35歳を対象した調査では、インフルエンザ患者は咳(93% vs 80%)、発熱(68% vs 40%)、鼻づまり(91%vs81%)、特にインフルエンザが地域で流行している場合、発症後48時間以内に咳と発熱の両方があった方は、インフルエンザに感染している可能性が高い(正の予測値79%)としています。

この論文は2000年の論文なので新型コロナ流行前に報告されたもの。しかし、これらの徴候があればインフルエンザも考えながら検査をすすめたほうがよいことになりますね。

また、個人的には発熱に伴う関節痛や体の痛み、頭痛なども頻度として多いように感じます。

(参照:Clinical Signs and Symptoms Predicting Influenza Infection. Arch Intern Med. 2000;160(21):3243-3247.
(参照:CDC「Key Facts About Influenza (Flu)」

インフルエンザの子供の症状は?

(Clinical Infectious Diseases, Volume 43, Issue 5, 1 September 2006,Pages 564–568より一部転載:日本語に改訂)

では、インフルエンザの子供の症状の特徴は何でしょうか。多施設臨床試験で募集された5歳~12歳の子供468人の小児を解析した症状の特徴は

  • インフルエンザは発熱しやすい:通常のかぜの2.67倍で38.2度以上の熱が出る
  • インフルエンザは咳がでやすい:通常のかぜの5.19倍
  • インフルエンザはのどの痛みを訴えにくい:通常のかぜの0.41倍
  • インフルエンザは筋肉痛を訴えにくい:通常のかぜの0.61倍

といえます。ただし、こちらも2006年の論文であり、新型コロナ流行前の論文のため注意が必要ですね。ちなみに、2022年の新型コロナ・オミクロン株による5歳から12歳までの代表的な症状は

  • 発熱:81.3%
  • 喉の痛み:33.1%
  • :30.6%
  • 頭痛:25.5%
  • 鼻水 19.4%

となっていますので、喉の痛みがあるかどうかは子供の新型コロナとインフルエンザを分ける鑑別ポイントになるかもしれません。ただし、新型コロナでも33.1%しか喉の痛みが出ていないので確実ではありません。

いずれにせよインフルエンザも新型コロナも検査が必要ですし、いずれかを疑う状況でしたらぜひ医療機関に受診してください。

(参照:Symptomatic Predictors of Influenza Virus Positivity in Children during the Influenza Season. Clinical Infectious Diseases, Volume 43, Issue 5, 1 September 2006, Pages 564–568)

インフルエンザと新型コロナの違いは?【2023年度版】

今後、インフルエンザと新型コロナの同時流行が懸念されています。子供の場合は前述いたしましたが、どのように見分けていけばよいのでしょうか?

両方を診察している身としては、個人的に以下のポイントがあげられると思います。(2023年で流行しているXBB、EG.5株とインフルエンザの比較になります)

① 潜伏期間から想定することは難しい

前述の通り、インフルエンザでは中央値4日、新型コロナでは今までは1~14日と長めに考えられていたものの、オミクロン株が主体になり3.56日くらいが平均となりますので、

インフルエンザと新型コロナを潜伏期間から想定することはできません。したがって、症状の特性などから判断することになります。

② インフルエンザの方が新型コロナよりも「典型例」が多い

インフルエンザは、前述の通り「高い温度での発熱」「咳」「鼻づまり」「筋肉痛」などを主訴とし、1週間くらいかけて徐々に回復していく疾患です。

一方、新型コロナは非常に多彩であり、ほとんど症状がない方もいる一方、喉の痛みが強くてご飯も食べられない方、呼吸が苦しくて息も難しい方など、訴える症状のバリエーションが非常に多いのが特徴。つまり、新型コロナの方が検査すべき対象とする方が広くなりやすい感染症といえます。

ただし、新型コロナもインフルエンザのような「急な高熱と筋肉痛や咳」で発症される方もいますので、その場合は症状のみで鑑別するのは非常に困難です。(XBB株・EG.5株になって以降、39度以上の高熱で来院される方も多くなっていると感じます)

そのため、両者の鑑別が困難と判断した場合は、当院ではあらかじめ「インフルエンザと新型コロナを同時に判別する診断キット」を使って患者さんへの負担が少なくなるように配慮しています。

新型コロナ感染症のEG.5株の症状の詳細については下記も参照してください。

③ 新型コロナの方が後遺症や罹患後症状で後まで続きやすい

インフルエンザにもインフルエンザ脳症などの合併症がありますが、後遺症の発現率は新型コロナの方がやはり圧倒的に多い印象にあります。

海外のデータからではオミクロン株による後遺症発現率は4.5%と約20人に1人は後遺症で悩まれています。実際、当院でもインフルエンザでは後遺症の相談をほとんど受けたことはありませんが、新型コロナになってから後遺症に関する相談を非常によく受けています。

中にはかなり重い後遺症も相談されますので、「罹らない」に越したことはありませんね……

オミクロン株での後遺症については新型コロナ「オミクロン株」 での後遺症の割合や症状・期間について【BA.5株】でまとめていますので、参考にしてください。

④ まれにインフルエンザと新型コロナが同時感染する可能性がある

インフルエンザと新型コロナが両方流行期に入っている場合は、インフルエンザと新型コロナが同時感染する可能性が稀ながらあります。

その場合、どちらかに感染している場合よりも強い症状で出やすく、特に重症化リスクが高い場合はより重症になる可能性があります。

ただし治療費の関係などもあり、必ずどちらも検査すべきというわけでもありません。

詳細については、インフルエンザと新型コロナの同時感染について解説【症状・薬・治療法】を参照してください。

インフルエンザの隔離期間は?

(インフルエンザ感染症の隔離期間:学校保健安全法施行規則に基づき著者作成)

インフルエンザ陽性になった場合の隔離期間は、原則「発症後5日間かつ解熱した後2日を経過するまで(幼児では3日)自宅待機」と学校保健安全法施行規則で定められており、勤務もそれに準じて出勤停止としている会社が多いと思います。

具体的には、インフルエンザ感染症での自宅待機期間は

  • 発症後1日目に解熱した場合:発症後6日目に登校可能
  • 発症後2日目に解熱した場合:発症後6日目に登校可能
  • 発症後3日目に解熱した場合:発症後6日目に登校可能
  • 発症後4日目に解熱した場合:発症後7日目に登校可能
  • 発症後5日目に解熱した場合:発症後8日目に登校可能

となります。新型コロナは2022年現在「発症日を0日として、7日間は自宅待機」であり、「無昭三で陽性の方は発症後7日後か5日目に陰性確認で解除」になっています。したがって、濃厚接触の規定を除けば、現在の新型コロナの自宅待機期間はかなりインフルエンザに近い形になっているといえるでしょう。

(参照:学校保健安全法施行規則第 19 条第 2 項)

インフルエンザについてのまとめ

いかがでしたか?インフルエンザ感染症の症状や新型コロナとの違いについて解説していきました。まとめると

  • インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、通常の風邪よりも重い疾患
  • インフルエンザは潜伏期間の中央値は4日で、高い発熱や咳、筋肉痛、鼻水などを中心とした症状。7日の経過でゆっくり軽快する
  • 新型コロナとは症状も多彩さなど異なる点もあるが、新型コロナもインフルエンザ様の症状を起こすこともあり、症状だけで見分けるのは困難
  • 新型コロナとインフルは多くの点で異なり、一概に比べることも難しい
  • インフルエンザの隔離期間は「発症後5日間かつ解熱した後2日を経過するまで(幼児では3日)自宅待機」である

といえます。よく「インフルエンザは軽い疾患」のように扱われがちですが、インフルエンザも死亡する可能性のある疾患の1つであり、新型コロナ含めて侮ることはできません。冬の感染対策をしっかりしていただきますよう、お願いします。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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