インフルエンザワクチンの効果と持続期間や最適な接種間隔について解説

今年もインフルエンザワクチンが開始になります。2020~21年は新型コロナ流行の影響や入国者の規制もあって、インフルエンザは流行しませんでした。(これらの年は南半球でも流行しませんでした)

しかし、2022年からコロナの感染拡大防止処置の緩和とともに、徐々に流行しだすようになり、2023年には異例の「9月」から流行を見せるようになりました。

このように、さまざまな流行の様相をみせるようになった「インフルエンザ感染症」。その中でインフルエンザワクチンはどのように考え、接種していけばよいのでしょうか。

今回は、インフルエンザワクチンの効果や持続時間、ワクチンの最適な接種間隔を中心に考えていきたいと思います。

インフルエンザワクチンの効果は?

インフルエンザワクチンの効果発症予防効果はインフルエンザで医療機関に受診するリスクが40-60%低下。重症化予防効果もICU入室リスク26%減少、死亡する確率も31%減少

では、インフルエンザワクチンはそもそもどれくらいの効果が検証されているのでしょうか。インフルエンザワクチンの効果を簡潔にまとめると次の通りとなります。

  • インフルエンザワクチンの発症予防効果
    • インフルエンザで医療機関に受診するリスクが40~60%減少(アメリカ)
    • 高齢者施設では34~55%発症が予防される(日本)
    • 2回接種の場合は、1か月後77%、3か月で78.8%に上昇するが、5か月後50.8%に低下(日本)
  • インフルエンザワクチンの重症化予防効果
    • ICUでの入室リスクも26%減少し、死亡する確率も31%減少する(ニュージーランド)
    • 高齢者を対象とした研究では82%の死亡を阻止した(日本)

となっています。こうしてみると、かなり効果が高いワクチンですね。実際のデータもそれぞれ見てみましょう。

① インフルエンザワクチンの感染予防効果

アメリカCDCでの報告によると、「インフルエンザワクチンを接種をすることで、インフルエンザで医療機関に受診するリスクが40%から60%減少する」としています。

実際、新型コロナ流行前の最後のインフルエンザシーズンである2019年から2020年の間での解析結果でも、アメリカではインフルエンザワクチン接種により「推定750万人のインフルエンザ疾患、370万人のインフルエンザ関連の医療機関の受診、10万人のインフルエンザ関連の入院、および 6,300 人のインフルエンザ関連の死亡が防止された」とのことです。

国内の研究でも、65歳以上の高齢福祉施設に入所している高齢者については34~55%発病を予防したとのことです。人種に問わず似たような傾向が見られますね。

また、子供についての発症予防効果も検証されており、日本で行われた2015年の報告によると、「6歳未満の小児を対象とした、インフルエンザワクチンの発症予防効果は60%であった」としています。

また、2回接種での日本の方向では、「インフルエンザHAワクチンを3週間隔で2回接種した場合、接種 1 カ月後に被接種者の 77%が有効予防水準に達する。」としています。上記よりもやはり効果が高くなるようですね。そして、3か月後には78%にまで達します。

しかし、後述しますが、ゆっくりとワクチンの効果は低下します。2回接種の場合は5か月後には50%にまで低下していますので、2回接種でも永久に効果が持続するわけではないことに注意が必要です。

(参照:CDC「What is a flu vaccine?」
(参照:厚生労働省HP「インフルエンザQ&A」

② インフルエンザワクチンの重症化予防効果

2021年の論文によると、「インフルエンザワクチンを受けた方は、インフルエンザで入院になったとしても集中治療室(ICU)への入室リスクが26%低く、インフルエンザによる死亡のリスクが31%低くなった」としています。

他の2018年のニュージーランドの報告ではインフルエンザワクチンによるICU入室が59%低下し、ICU滞在期間もインフルエンザワクチン接種により4日短縮するという結果になりました。

つまり、インフルエンザワクチンは、他のワクチンと同様に、発症予防効果も重症化予防効果もあるということですね。

厚生労働省でも特にこの重症化予防効果を重視しており「インフルエンザワクチンの最も大きな効果は『重症化』を予防すること」と記載しており、国内の高齢者を対象とした臨床研究では82%の死亡を阻止した、とのことです。(ただしこちらは平成11年度の研究のため、やや古めのデータ)

また、子供についてもインフルエンザワクチンによる重症化予防効果が示されています。2022年の調査によると、「インフルエンザワクチン接種により子供の生命を脅かす重度のインフルエンザのリスクが75%減少した」と発表されています。子供は特にインフルエンザにより重症化しやすいグループの1つなので、生後6か月以上の子供にインフルエンザワクチン接種は特にオススメされます。

(参照:Influenza vaccine effectiveness in preventing influenza-associated intensive care admissions and attenuating severe disease among adults in New Zealand 2012–2015.
(参照:Does influenza vaccination attenuate the severity of breakthrough infections? A narrative review and recommendations for further research.)
(参照:厚生労働省HP「インフルエンザQ&A」

インフルエンザワクチンの持続期間は?

では、インフルエンザワクチンはどれくらいの間、効果を発揮するのでしょう。持続期間についてまとめると次のようになります。

  • 接種してから最初の最大14日間は十分効果が発揮できない可能性がある。
  • その後5~6か月は十分有効性が保たれる(54~67%)
  • ただし、1か月くらいをピークにワクチンの効果は徐々に減少していrく(7%から11%)

となります。もう少し詳しく説明していきます。

① ワクチンの効果が立ち上がるまで

イギリスNHS、アメリカCDCでも「インフルエンザワクチンを受けてから最大14日の間は、有効性が発揮する前にインフルエンザにかかる可能性がある」としています。

これはインフルエンザワクチンにより誘導される免疫システムが完全に構築するのに時間がかかるためです。そのため、インフルエンザの流行期よりも少し前に接種した方が望ましいでしょう。

(参照:CDC「What is a flu vaccine?」
(参照:NHS「Flu vaccine」

② ワクチンはそれなりに持続するが、ゆっくりと減少する

そして、一般的に「ワクチンの有効性はワクチン接種後少なくとも5~6か月は持続する」と考えられています。

65歳以上の方を対象にした、2014年に行われた分析からは、「0~180日の間に54%~67%の有効性が認められたものの、181日目から365日目までの有効性ははっきりしない」と報告されました。

しかし5~6か月の間、一律に効果があるわけではありません。

アメリカ「Influenza Vaccine Effectiveness Netwark」からの報告によると、「インフルエンザワクチン接種後、インフルエンザAに対しては1か月に約7%、インフルエンザBに対しては1か月に6-11%ずつ減少する」としているのです。

なので、インフルエンザワクチンの効果のピークが1か月後くらいですので、その後一律に効果があるわけではないことに注意が必要です。

これらの特性を踏まえたうえで、最適な接種間隔を考える必要がありますね。

(参照:Clin Infect Dis. 2017 Mar 1;64(5):544-550. doi: 10.1093/cid/ciw816. Epub 2016 Dec 29.
(参照:CDC「Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines-United States,2022-2023 Influenza Season」)

インフルエンザワクチンの最適な接種期間は?

では、インフルエンザワクチンの最適な接種期間はどれくらいでしょう?

ここまでワクチンの効果をみてみると「大事なイベントの1~2か月くらい前がよいのでは?」と考えられそうですが、あまりに接種を遅くすると次のような弊害が出てくる可能性があります。

  • インフルエンザワクチンを受けようと先延ばしにしてしまったら、インフルエンザにかかってしまった。
  • 病院にいったら、インフルエンザワクチンの接種が定員数に達していて締め切られていた。
  • インフルエンザワクチンを受けようと思ったら、別の感染症にかかってさらに先延ばしになり、結局受けることができなかった。

などです。在庫などの関係で、インフルエンザワクチンがなくなってしまうのは11月の下旬や12月であることが多く、1月まで接種を続けているところは稀でしょう。

このようにして考えると、大切なイベントの1か月前くらいに予定を決めておきながらも、10月~11月くらいの間に打っておいた方が無難だと思います。

医療機関によって「何月まで接種を続けているのか」は異なりますので、前もってかかりつけの先生や医療機関に問い合わせするのもよいでしょう。

また、下記に該当するようなリスクが高い人は、インフルエンザ罹患へのリスクが高いのでなるべく早く接種するようにしましょう。

インフルエンザワクチン接種が特にオススメされてる方は?

上記は「一般的な人」を対象としたもので、接種を多少前後させてもよいと思いますが、リスクが高い人はことなります。

確かにアメリカCDC・イギリスNIH・日本厚生労働省でも「生後6か月以上のすべての方が、毎年のインフルエンザの予防接種を受けることを推奨」としており、全員が対象となるものの、

日本感染症学会の報告では、特に下記の因子を有する方はインフルエンザに罹患した場合の合併症のリスクが高いことが知られており、特に早めの接種がオススメです。

  • 6か月以上5歳未満の方
  • 65歳以上の方(50歳以上とするものもあり)
  • 慢性呼吸器疾患を持っている方(気管支喘息やCOPDなど)
  • 心臓・血管系疾患を持っている方(高血圧だけの方を除く)
  • 糖尿病・肝臓・腎臓などの疾患を持っている方
  • 神経筋疾患を持っている方
  • 免疫抑制状態の方
  • 妊娠している方
  • 長期療養施設の入所者
  • 著しい肥満を持っている方
  • アスピリンの長期投与を受けている方
  • がん疾患の方

妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種により、母体および新生児のインフルエンザ感染を減らすことが可能です。妊娠中のワクチン接種の安全性も確立されておりますので、妊娠中もインフルエンザワクチン接種をなるべく受けるようにしましょう。

インフルエンザワクチンと他のワクチンの接種間隔は?

インフルエンザワクチンに関して、2022年9月から規定が変わっており、新型コロナワクチン接種と同時に受けられることになりました。

他のワクチンについてもインフルエンザワクチンは不活化ワクチンなので、他のワクチンと間隔をあけて接種する必要はありません。(生ワクチンどうしの接種のみ27日以上間隔をあけて接種ということになっています)

ただし、インフルエンザワクチン2回接種の場合は「1回目と2回目は4週間以上あけての接種が望ましい」とされていますので、ご注意ください。(あまりそれ以上の接種と

(参照:インフルエンザワクチンの添付文書
(参照:日本感染症学会「2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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