便秘に対する漢方薬について【麻子仁丸・防風通聖散・大黄甘草湯】

女性や高齢者を中心に多くの方が悩まれている便秘。自分に相性のいい便秘薬を見つけるのはなかなか大変ですよね。

「色々な薬を試してみたけど、自分に合う便秘薬が見つからない」・・・そんな方は、一度漢方薬を試してみるのも良いかもしれません。

今回は、便秘に対する漢方薬について、その使い分けと代表的な薬剤である「麻子仁丸」「大黄甘草湯」「防風通聖散」などを中心にお話していきます。

あなたの便秘の原因は?

自分にあう便秘の漢方薬を知る上で大切なのが、あなたの便秘の「原因」です。便秘と一言でいってもさまざまな原因があります。例えば次の通りです。

  • 水分が大腸に十分届いておらず、宿便がたまってしまっている
  • 食物繊維や油などが足りておらず、十分の便のかさ増しと滑りが足りていない
  • 偏った食生活で腸内細菌叢が乱れており、便の調節が出来ていない
  • 腸の神経が刺激されておらず、便意をもよおすに至っていない
  • ストレスで腸の神経も乱れており、便秘型過敏性腸症候群になってしまっている
  • 直腸まで便がたまっているが、排便がうながされず便秘になっている
  • 基礎疾患や薬剤の影響で、腸の神経や腸内環境がおかしくなっている
  • クローン病や潰瘍性大腸炎、大腸がんなどで腸管自体が細くなってうまく通れない

などです。もちろんこの中には「漢方や投薬で解決できない問題」も含まれています。大腸がんや基礎疾患、薬剤などの場合には、むしろキチンと検査や投薬の見直しをした方がよい場合もあるでしょう。

そうではなく、普段の生活習慣やストレスなどで腸管の機能が異常になって便秘になっている場合、「自分は生活習慣のどこを見直すことで便秘を改善できるか」を考えてあげるのが、便秘解消の第一歩。そして、その機能を助けてあげるような薬選びが大切です。

生活習慣の改善と適切な薬。万病にいえることですが、これは「車の両輪」のようなものであり、どちらも非常に重要なのです。

そして、薬にも局所的に非常に効果的な「西洋薬」と体全体を整える「漢方薬」に分かれます。便秘については、西洋薬の方が豊富なエビデンスに裏打ちされた効果がありますが、漢方薬も有用なものがいくつかあります。

便秘の漢方薬の使い分けは?

では、便秘についても様々な漢方薬がある中、どのように考えればよいのか。例えば、次のように考えてみるとよいのではないでしょうか。

① 便自体がコロコロしているか(硬い便か)

例えば、便自体がコロコロしてウサギの糞のようであったり、便自体に異常があってスルッと出てくれそうにない場合は、便自体に水分や油分をおぎなう必要があります。

もちろん普段から食物繊維をとったり、水分や良質や油分をとることもオススメではありますが、漢方では「芒硝(ぼうしょう)」や「麻子仁(ましにん)」なども、便自体に水分や油分を与える作用として有効です。

そして芒硝が入っている漢方として「桃核承気湯」「防風通聖散」などが、麻子仁が入っている漢方として「潤腸湯」や「麻子仁丸」などがあげられます。

② 大腸が適切に刺激されているか

「便自体は正常なんだけど、全く音沙汰もない…」という方もいるでしょう。そうした方は腸管運動を促進させることが大切になってきます。

もちろん、普段から運動したりして腸管を刺激してあげることもとても大切。しかし、生活習慣の改善だけでも十分改善されていない場合は、大腸を刺激する作用のある漢方薬を利用するのも1つの手です。

漢方で大腸を刺激する成分といったら「大黄」であり、便秘の適応症をもつ漢方薬の多くに「大黄」が含まれています。

その中でも大黄の含有量が多いのが「大黄甘草湯」「桃核承気湯」「麻子仁丸」などになります。

ただし、大黄は西洋薬でいう「プルゼニド(センノシド)」などと同じ部類の薬であり、耐性や習慣性が確認されています。

そのため、ずっと飲み続けるのではなく、できるだけ頓用または短期間での使用の方がよいでしょう。

➂ ストレス性の便秘なのか

例えば慢性的なストレスを持っていて「普段は便秘だけど、強いストレスを受けると腹痛が起きてキリキリしてくる」といった方もいるでしょう。

もしかしたら、そうした方は単なる便秘ではなくて「便秘型の過敏性腸症候群」かもしれません。そうした場合は、むしろ腸の神経を整えて緊張を和らげることを中心とした漢方薬を使用します。

例えば、平滑筋の緊張をやわらげる「芍薬」が含まれている「桂枝加芍薬大黄湯」「桂枝加芍薬湯」だったり、神経や精神症状にも効果がある「厚朴」が含まれている「大承気湯」だったりですね。

他にも腸閉塞(イレウス)の治療にも使われる「小建中湯」や「大建中湯」なども使われたりします。

ただし、実際には西洋薬と組み合わせたり、生活習慣の指導をしたりして、様々な方法を組み合わせて治療することも多いです。また、便秘の中でも、そもそも漢方では治療できない便秘や検査が必要な疾患もたくさんあります。

ですので、1人で抱えこまず、まずはクリニックや病院などで相談していただいた方が望ましいでしょう。

それでは、便秘に使われる代表的な漢方薬を「麻子仁丸」「大黄甘草湯」「防風通聖散」についてご紹介します。

便秘で使われる漢方①:麻子仁丸

麻子仁丸は「高齢者や病後など体力中等度あるいはやや低下して、排便回数が減り、便が硬く、コロコロした乾燥した便が出る方」に使われる漢方薬。

高齢の方ややせ型の人で、体内の水分が不足気味の人や、通常の下剤でお腹が痛くなりやすい人にはオススメの漢方薬ですね。

生薬としては

  • 麻子仁(マシニン):アサの果実で油っぽいのが特徴。杏仁との組み合わせて腸を潤滑にする作用があります。
  • 芍薬(シャクヤク):花で有名な芍薬の根っこの部分。ペオニフロリンなどの有効成分により、腸の平滑筋を緩めて、炎症を抑える作用があります。
  • 枳実(キジツ):ミカンの「橙」や「夏ミカン」の未熟な果実の部分を半分に横切りにして乾燥させたもの。ナリンギンなどの有効成分で、胸腹部のつかえ感や腹痛、膨満感を和らげるとされています。
  • 厚朴(コウボク):ホオノキの樹皮。飛騨の郷土料理の「朴葉焼き」で有名ですよね。心を鎮めたり、鎮痛作用があります。
  • 大黄(ダイオウ):ダイオウの根茎です。主要成分は「センノシド」であり、多くの腸を刺激する下剤として西洋薬でも使われています。漢方での便秘薬の主要な成分です。
  • 杏仁(キョウニン):アンズの種の部分。杏仁豆腐でも有名ですね。麻子仁とともに、腸を潤滑にする作用があるとされています。

が含まれています。全体的にみると、「気のうっ滞も改善させつつ、腸全体を潤し、腸を刺激する作用」を持っているといえます。

実際、パーキンソン病患者さんに麻子仁丸の有効性を検証した論文があります。パーキンソン病は自律神経が乱れるため、便秘になりやすいのが特徴の疾患です。以前から下剤を使っていた例は麻子仁丸に切り替えて消化しています。

結果としては23例という少数の症例ですが、1か月後の有効率は78%で悪化例はないとしており、以前から下剤を内服していた方の有効率も8例の中の解析ですが、62.5%となっています。

ですので、特に芯が細い方の便秘に対する漢方薬として、麻子仁丸は使いやすい漢方薬ですね。ただし、大黄を含んでいるので、長期的に使うと習慣性や耐性が出てくるので注意が必要です。

(参照:パーキンソン病の便秘に対する麻子仁丸の有効性.日東医誌 Kampo Med Vol.67 No.2 131-136, 2016

便秘で使われる漢方②:大黄甘草湯

大黄甘草湯は「体力に関わらず使用できる、便秘、便秘に伴う頭重、腹部膨満・腸内異常醗酵・痔などの症状の緩和」に使われる漢方薬。なんと生薬は「大黄」と「甘草」の2つしかないシンプルな構成です。

  • 大黄:主要成分はセンノシドで大腸刺激性の下剤成分があります。
  • 甘草:便秘にともなう腹痛や排便時の痛みをやわらげます。

簡単にいうと「大腸を刺激しつつ、排便時の痛みを和らげる」作用がありますね。生薬が少ないほど、その生薬の薬効がシンプルに表れるので、純粋に大腸を刺激したい方はコチラの方がオススメですね。

また、体力に関わらず使用できる点も評価できます。実際、「便通異常症ガイドライン2023」では、大黄甘草湯を「便通に対する基本処方」として挙げています。

ここまで書くと「西洋薬のプルゼニドと同じなのではないか」と思われるかもしれませんが、そうではありません。

実際、酸化マグネシウムやセンナが効かなくなった患者さんに対して大黄甘草湯を投与した結果、患者さんの80%以上に24時間以内の排便がみられたことがわかっています。

その理由として、「甘草が大黄、つまりセンノシドの耐性獲得を回避させている」と考えられていますね。

ただし、大黄甘草湯は大黄の含有量が一番高く、甘草も2gとそれなりに入っています。どちらも長期連用は避けた方がよいので、「どうしてもしつこい便秘で大腸を刺激したい」時にしばらく使ってみるとよいでしょう

(参照:日本消化器学会「便通異常症診療ガイドライン2023」)
(参照:Efficacy of daiokanzoto in chronic constipation refractory to first-line laxatives. Biomed Rep
. 2016 Oct;5(4):497-500.

便秘で使われる漢方薬➂:防風通聖散

最後に紹介するのは「防風通聖散」です。「体力充実して、腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧や肥満に伴う動悸・肩こり・のぼせ・むくみ・便秘、蓄膿症(副鼻腔炎)、湿疹・皮膚炎、ふきでもの(にきび)、肥満症」に使われる漢方薬で、よくダイエットで飲まれている人も多いのではないでしょうか。

実は、この防風通聖散の中には18種類もの生薬が含まれています。

  • 麻黄(マオウ):発汗作用
  • 川芎(センキュウ):血行促進
  • 芒硝(ボウショウ):利尿作用
  • 桔梗(キキョウ):抗炎症
  • 荊芥(ケイガイ):発汗作用や解熱作用
  • 芍薬(シャクヤク):鎮痛作用や抗炎症作用
  • 連翹(レンギョウ):解熱作用や抗炎症作用
  • 大黄(ダイオウ):下剤作用や抗炎症作用
  • 滑石(カッセキ):体内の水分調節
  • 生姜(ショウキョウ):発汗作用や抗菌作用
  • 防風(ボウフウ):鎮痛作用や抗炎症作用・健胃作用
  • 石膏(セッコウ):解熱作用や鎮痛作用
  • 山梔子(サンシシ):利尿作用や抗炎症作用
  • 黄芩(オウゴン):抗菌作用や抗炎症作用
  • 甘草(カンゾウ):他の生薬との調整や抗アレルギー作用
  • 白朮(ビャクジュツ):健胃作用や抗炎症作用
  • 当帰(トウキ):血行促進や鎮痛作用
  • 薄荷(ハッカ):鎮痛作用や抗菌作用

実際、ダイエット効果もある程度認められていますので「肥満で便秘も解消したい」という方はオススメでしょう。

ただし、こちらも「大黄」が入っているので、長期連用はさけることと、「山梔子」という成分が5~10年服用すると「腸間膜静脈硬化症」稀な疾患を発生させる可能性があるので、ダイエット目的に使う際も長期連用は避けておいた方が無難でしょう。

便秘に対する漢方薬のまとめ

今回は、便秘に対する漢方の使い分けと、代表的な漢方薬を3つ紹介しました。まとめると

  • 便秘といっても様々な原因で起こるため、自分の便秘の原因を知ることが大切である
  • 「便自体の異常があるのか」「便を出す刺激が足りないのか」「ストレスにより便の腸がおかしいのか」によって、それぞれ漢方薬を使い分けてみるとよい
  • 代表的な漢方薬としては「麻子仁丸」「大黄甘草湯」「防風通聖散」があり、それぞれで使うべき人(=証)が異なる。いずれも大黄が含まれているので、長期間の連用を避けた方が望ましい。

といえます。実際、ここでは紹介していない漢方薬を処方することもありますし、そのほかの薬と組み合わせることもありますので、ぜひ気軽にご相談ください。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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