突然ですが、
- いつも特定のものを食べたら、全身がかゆくなることがなり、吐き気が出ることがある
- 時々、特定のきっかけで喉がかゆくなったり、息苦しくなることがある
という方はいませんか?これらはいずれも「アナフィラキシー」の初期症状の1つかもしれません。
アナフィラキシーは、命を脅かす可能性があるアレルギー反応の1つであり、突然発症します。初期症状はしばしば軽度であるため、多くの人々が放置してしまいがちですが、放置すると重症になる可能性も十分あります。
そのため、軽度のアナフィラキシー症状でも適切に対処することが必要です。ではどう対処すればよいのでしょうか。
今回はアナフィラキシーの軽度の場合の症状の特徴と、放置した場合に考えられること、そしてその対処法について解説していきます。
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アナフィラキシーの軽度の症状とは?
アナフィラキシーとは、アレルギーの原因物質を体内に取り込むことで、数分から数時間以内に複数の臓器や全身に現れる激しいアレルギー反応のこと。
アナフィラキシーという時点で十分重度の状態なのですが、初期症状は軽度であることもあるのです。では、どんな症状が軽度と言えるのでしょうか。
2021年に発表された、アナフィラキシー症例を重症度分類した報告によると、軽度から重度までを5段階にわかており、各症状は以下のように言われています。
- 軽度の症状(グレード1):以下のうち、いずれか1つの軽い症状がある
- 軽い皮膚症状:限局した蕁麻疹や湿疹
- 軽い消化器症状:吐き気や下痢の症状が1-2回ある、軽い腹痛がある
- 軽い粘膜症状:顔面が腫れたり、鼻水が出る
- やや軽度の症状(グレード2):以下のうち、2つ以上の軽い症状か1つの中等度の症状がある
- 中等度の皮膚症状:全身のじんましんや湿疹が出る
- 中等度の消化器症状:3回以上の吐き気・おう吐や下痢がある
- 中等度の粘膜症状:食道咽頭部の腫れが起こる
- 中等度の症状(グレード3):以下のうちのいずれか1つの軽い症状がある
- 軽い心血管系の症状:動悸やめまいなど(幼児の場合は頻脈)
- 軽い神経症状:意識が盛ろうとする状態(幼児の場合は活気のなさや説明できないいらつき)
- 軽い呼吸器症状:呼吸困難や息がつまる感じになる
- やや重度の症状(グレード4):以下のうちの中等度の症状か重度の粘膜の症状
- 中等度の心血管系症状:失神や血圧の低下が起こる
- 中等度の神経症状:意識レベルの低下(GCS13-14)が起こる
- 中等度の呼吸器症状:新しい止まらない咳、低酸素状態、喘鳴などが生じる
- 中等度の粘膜症状:強い食道咽頭部分岐部の腫れ(通常は物も飲み込めないほど)
- 重度の症状(グレード5):重度の心血管系、神経系、呼吸器系症状が出る
このように考えると、アナフィラキシーの軽度の症状とは「軽い皮膚や消化器、粘膜の症状」くらいまでであり、神経や呼吸器、血圧などに与えている時点ですでに「中等度以上」ということがわかりますね。
したがって、冒頭の例でいうと、皮膚に関する症状や「吐き気がする」というくらいなら軽度ですが、「息苦しくなってきた」という症状は、もはや軽度を超えた症状であることがわかります。
そしてアナフィラキシーは「症状は軽いから」と甘く見ると、大変な目にあうこともあるのです。
(参照:Severity grading system for acute allergic reactions: A multidisciplinary Delphi study)
アナフィラキシーは軽度でも放置すると危険
アナフィラキシーは軽度の場合、皮膚や消化器、粘膜といった軽い症状から発症することがありますが、放置するのは得策ではありません。
これらの症状は急速に進行して呼吸困難や循環器系の合併症を引き起こす可能性があります。したがって、軽度の症状であっても慎重にみる必要があります。
アナフィラキシーの時間経過は、原因によって異なりますが、多くの場合「30分~60分以内」に出現します。あとは、原因物質により異なることがあります。例えば
- ハチに刺された場合:ほとんど5分~10分以内に出現
- 食べ物の場合: 30分以上たって出現することもある(消化管で消化吸収されるまで時間がかかるものもあるため)
- 輸血の場合:ピークは「30分以内」「30分から60分」。ほぼ全例で3時間以内に出現
- 生物学的製剤の場合:薬剤によって24時間以降に発症した例も報告されている
となりますね。特に以下の場合はアナフィラキシーを促進させる可能性があるので注意が必要です。
- 激しい運動をしていた
- 非常にストレスが強い
- 月経前状態である(女性)
- 非日常な活動をしていた
- 風邪などの感染症にかかっている
もちろん、喘息や蕁麻疹、アレルギー性鼻炎など、もともとアレルギーに関する病気がある方は要注意です。
また、1回症状がおさまったからと言って油断は禁物。「二相性反応」といって、アナフィラキシー発症から1-48時間程度でアナフィラキシーが再度発生する場合があります(半分は最初の6-12時間以内に発生)
そのため、アナフィラキシーにかかったことがある人やアナフィラキシーのような症状が出やすい人は必要に応じて医師からエピペン(アドレナリン)の筋肉注射を処方してもらい、指導を受けることが大切です。
(参照:日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン 2022」)
アナフィラキシーの主な原因は?
軽度でも放置すると危険な「アナフィラキシー」。その原因は何でしょうか。
日本アレルギー学会による767名のアナフィラキシー症例を集めた方向によると、以下のように言われています。
- 食物アレルギー:68.1%
- 医薬品によるアレルギー:11.6%
- 食物依存性運動誘発アナフィラキシー:5.2%
- 昆虫による虫刺されに対するアレルギー:4.4%
- 経口免疫療法によるアレルギー:2.5%
- 経口ダニによるアレルギー:1.6%
特に食べ物のアレルギー症状を見た別の試験によると
- 鶏卵:23.9%
- 牛乳:22.5%
- 小麦:16.6%
- 木の実類:12.8%
- 落花生:7.3%
- 甲殻類:3.6%
- 果物類:2.9%
- そば:2.7%
- 魚卵:2.3%
となっていますね。
また、天然のゴム製品に含まれるラテックスにもアレルギー反応をしめすことがあります。実はラテックスのタンパク質の構造とバナナ・キウイ・アボカド・メロン・マンゴーなどの果物のタンパク質とが似通っており、ラテックスアレルギーがあると、こうした果物にも反応を示しやすいことがいわれています。(ラテックス・フルーツ症候群)
アレルギーの原因を血液検査やパッチテストなどで確かめることができます。詳細はこちらを参照してください。
- 血液アレルギー検査(VIEW-39、RAST)について解説 【費用・原理・信頼性】
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アナフィラキシーの原因になりやすい薬は?
上記の通り、アナフィラキシー対策は食べ物も大切ですが、薬の対策も大切です。
アナフィラキシーを引き起こす薬剤は、以下の通りです。事前にアレルギー反応を起こした薬剤についてはメモしておいて、医療機関に伝えておくとよいでしょう。
- 抗生剤:特にβラクタム系と呼ばれている抗生剤での報告が最多ですが、他の抗生剤での報告もあります。
- 解熱鎮痛薬: 特にNSAIDS(ロキソニン@やイブ@)などのうち1剤に反応を示すこともありますが、複数剤にわたる方もいます。
- 局所麻酔薬: 自覚症状を訴える方は多いですが、麻酔薬自体のアレルギー反応は稀で、局所麻酔薬に含まれる添加物や血管収縮薬に反応する場合が多いとされています。
- 造影剤: 数千件に1件の確率でアナフィラキシーを起こすとされています。
- 筋弛緩薬: 全身麻酔中に起こるアナフィラキシーでは最も多いとされています。
- 輸血:赤血球製剤は87000件に1件の報告例があります。
アナフィラキシーの治療は?
アナフィラキシーの治療薬については以下の3種類に分かれています。(重症度によっても対処法は異なります)
① アドレナリン筋肉注射
アナフィラキシーの治療において第1選択薬になる治療が「アドレナリン」です。
アドレナリンは人の副腎で作られるホルモンです。心臓の働きを強め末梢の血管を縮めることで血圧を上昇させる作用があります。また、気管支を拡張する作用、粘膜の浮腫を改善する作用もあります。
さらに、アナフィラキシー症状を引き起こす体内からの化学物質が出てくるのを抑える働きもあります。アナフィラキシーの症状を抑える効果がでるまでの時間も5分以内。アドレナリン筋肉注射は、即効性が強く早急にすべき対処法なのです。
ちなみに、「静脈注射したほうが効果は早いのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、静脈注射した場合、不整脈や高血圧など有害な作用のほうが強く働くため、原則推奨されません。
② 抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、掻痒感などの皮膚や粘膜の症状や鼻や眼などの症状を緩和します。しかし、呼吸器症状は緩和しないので、アドレナリンが最優先です。効果までの時間も30分から3時間くらいで発現してきます。
③ 気管支拡張薬
交感神経のβ2受容体を刺激して、気管支を拡張する「気管支拡張薬」を吸入することがあります。15分以内に下気道の息切れや呼吸のしづらさを改善しますが、上気道閉塞や血圧低下を防ぐわけではないので、第一優先ではありません。
アナフィラキシーになったら、原因の除去はもちろんのこと、しばらく経過を見るために入院施設をさがしながら酸素投与を行い、必要があれば空気の通り道を確保が必要になります。
病院で注射された際、「息苦しさ」「ふらつき」「皮膚や粘膜の症状」「胃のむかつきが続く」などの症状が見られたら、繰り返しますが早めに医療スタッフにお声がけください。
(参照:日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン 2022」)
家や職場でアナフィラキシーが起こった時の対応は?
では、いざアナフィラキシーが起こった場合はどうすればよいのでしょうか。症状によりますが、特に中等度以上の場合は以下のことを行いましょう
① 救急車を呼ぶ
アナフィラキシーの経過は非常に早く、迅速なアドレナリン投与が生死を分かちます。まずは119番に連絡し、救急車を呼びましょう。
② 安静にする
まっすぐに寝かせましょう。吐いてしまったり意識がもうろうとしている場合は、気道を詰まらせてしまうことがあるので、横向き寝にしましょう。立ち上がったり歩き回らせないようにしてください。体位によって血圧が安定せず症状が悪化することがあります。
③ アナフィラキシーの原因をなるべく早く除去する
- 皮膚や眼にはいった場合:流水でしっかり洗いながしましょう。
- 食べ物の場合: 口に残っていればなるべく除去しましょう。口をすすぐ際には誤嚥に注意してください。
- 昆虫に刺された場合: 毒針にも毒液が残っているので取り除き、他のハチがいる場合は静かにその場から離れましょう。(マダニの場合は取り除かないほうがよいです)
④ アナフィラキシー補助治療剤の筋肉注射
アナフィラキシー補助治療剤(エピペン®)がもし手元にあれば、太ももの前外側になるべく早く注射してください。その際には、服の上から注射してかまいません。詳しくは、「エピペン®」のガイドブックを参照してください。(ガイドブックのURLはこちら)
(参照:「オーストラリア 臨床免疫学・アレルギー協会」によるアナフィラキシーの応急処置)
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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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