最近、健康や美容に関心のある方々の間で「ミドリムシ」、正式には「ユーグレナ」という名前をよく耳にするようになりましたよね。
スーパーの食品売り場やドラッグストアのサプリメントコーナーでも見かける機会が増え、「体に良さそうだけど、実際どんな効果があるの?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
一方で、インターネット上には「効果はうそ?」「白髪にも効くって本当?」といった様々な情報があふれており、何を信じたら良いのか分からなくなってしまうかもしれません。
そこで今回は、最新の科学的な研究論文(医学論文)で報告されている内容をもとに、ユーグレナが私たちの体にどのような影響を与えるのか、みていきましょう。

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ミドリムシ(ユーグレナ)とは?

まず、「ミドリムシって、あの理科の実験で見た微生物のこと?」と思いますよね。その通りです。ユーグレナ(和名:ミドリムシ)は、淡水に生息する単細胞の微細な藻類の一種です。
ただ、このユーグレナ、実はとてもユニークな存在なのです。
① 植物と動物のハイブリッド
ユーグレナの最大の特徴は、植物と動物、両方の性質を併せ持っている点です。 植物の性質として、葉緑体を持ち、光合成によって栄養を作り出すことができます。
さらに、動物の性質として 鞭毛(べんもう)という尻尾のようなものを動かして、自ら水中を動き回ることができます。
このような珍しい特徴から、生物学の世界でも特別な存在として扱われていますよね。
② 栄養素の吸収率が高い
私たちが野菜を食べたとき、その栄養素が100%吸収されるわけではないことをご存知でしょうか。
これは、植物細胞が「細胞壁」という硬い壁で覆われているため、消化がしにくいからです。しかし、ユーグレナにはこの硬い細胞壁がありません。その代わりに「ペリクル」と呼ばれるタンパク質性のしなやかな膜で覆われています。
ミドリムシは細胞壁がないので、その分、栄養素は非常に消化されやすく、その消化率はなんと93.1%にも達すると報告されています。
ミドリムシは、たった1つの細胞の中に、私たちの体に必要な栄養素をバランス良く含んでいて、ビタミン、ミネラル、アミノ酸(全9種類の必須アミノ酸を含む)、不飽和脂肪酸など、報告によれば59種類にも及びます。
まさに「天然のマルチサプリメント」と呼べる存在かもしれません。
③ ミドリムシの独自成分「パラミロン」
さらに、ミドリムシの健康効果を語る上で欠かせないのが、特有成分である「パラミロン」です。
パラミロンは、グルコース(ブドウ糖)がたくさんつながってできた多糖類の一種で、構造的には「β-1,3-グルカン」として知られています。私たちの体内では消化されないため、食物繊維のような働きをします。
近年の研究で、このパラミロンがユーグレナの持つ健康効果の多くを担う、主要な機能性成分であることが分かってきました。
ミドリムシ(ユーグレナ)の主な効果は?

では、ミドリムシを摂取することで、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。ここでは、ヒトを対象とした臨床試験で、科学的根拠が比較的しっかりと示されている3つの効果をご紹介します。
① 免疫のサポート(風邪症状の軽減)
季節の変わり目になると、体調を崩しやすくなりますよね。ミドリムシは、私たちの体を守る「免疫」の働きをサポートしてくれる可能性が示されています。その主役となるのが、先ほど登場した「パラミロン」です。
パラミロンは、私たちの腸にある免疫細胞(マクロファージや樹状細胞など)の表面にある「デクチン-1」というセンサーに認識されます。
これがスイッチとなり、免疫システム全体が活性化され、ウイルスなど外敵への備えが強化されると考えられているのです。
実際に行われた、健康な成人男女を対象とした信頼性の高い臨床試験(ランダム化二重盲検プラセボ対照試験)では、毎日1000mgのユーグレナを8週間摂取したグループは、偽薬(プラセボ)を摂取したグループと比較して、風邪をひいたときに風邪症状が6日ほど、有意に減少したことが報告されています。(ミドリムシ群:15.9日 vs プラセボ群:21.3日、p=0.032)。特に試験の後半では、倦怠感、鼻づまり、喉の痛みといった症状の重症度も有意に軽減されていますね。
また、唾液に含まれる免疫物質「IgA抗体」の濃度を高めるという報告もあり、体の入り口である粘膜のバリア機能を高めることで、私たちを守ってくれているのかもしれません。
② 腸内環境を整え、便量を増やす
「腸活」という言葉がすっかり定着しましたが、ミドリムシもまた、腸内環境を整える「プレバイオティクス」としての働きが注目されています。
プレバイオティクスとは、腸内にいる有益な細菌(善玉菌)のエサとなり、その働きを助ける食品成分のことです。あるヒト臨床試験では、毎日2gのミドリムシを30日間摂取したところ、腸内細菌の中でも特に健康への貢献度が高いとされる「Faecalibacterium(フィーカリバクテリウム)属菌」の割合が有意に増加したことが実証されました。そして、排便回数と便の量が増加したとされています。
つまり、便秘の人にとってはミドリムシは有用ということになります。
Faecalibacterium属菌は、「酪酸(らくさん)」という短鎖脂肪酸を作り出す主要な菌です。酪酸は、大腸の細胞のエネルギー源になったり、腸の炎症を抑えたり、免疫のバランスを整えたりと、私たちの腸の健康維持に欠かせない重要な物質です。
また面白いことに、この腸内環境を改善する効果は、主成分であるパラミロンとは別の成分によって引き起こされることが分かっています。
つまりミドリムシは、パラミロンによる「直接的な免疫刺激」と、他の成分による「腸内細菌を介した間接的な健康効果」という、少なくとも2つの異なるルートで私たちの体に働きかけていると考えられています。
腸内フローラ検査をすると、「自分にどんな菌が不足するか」がわかるので、あわせてしてみるとよいかもしれませんね。詳しくは、【医師が解説】腸内フローラ検査(腸内細菌叢検査)の方法や費用についてを参照してください。
③ 疲労とストレスの軽減させ、睡眠の質をあげる
毎日忙しく働いていると、身体的な疲労だけでなく、精神的なストレスも溜まっていきますよね。ミドリムシの摂取は、こうした日常的な疲れやストレスを和らげる効果も期待されています。
66名の健康な成人を対象とした臨床試験では、パラミロンを含む食品を4週間毎日摂取したグループで、偽薬グループと比較して、身体的および精神的な疲労感が有意に軽減されました。
そのメカニズムの一つとして、体の抗酸化能力の向上が関わっている可能性が指摘されています。
私たちはストレスを感じると体内で活性酸素が増え、これが疲労の一因となりますが、ミドリムシがこの酸化ストレスを和らげるのに役立つのかもしれません。
さらに、別の臨床試験では、ミドリムシの摂取が精神的なストレス下での自律神経系のバランスを整え、いらだちや緊張感を緩和することが示されました。
この作用は、入眠までの時間が短縮されるなど、主観的な睡眠の質の向上にもつながっています。 腸内環境、免疫、そして神経系は互いに密接に関わり合っている「腸-免疫-神経ネットワーク」を形成しているといわれています。ユーグレナは、このネットワーク全体に働きかけることで、私たちの心と体のコンディションを総合的に整えてくれるのかもしれませんね。
(参照:Effect of Food Containing Paramylon Derived from Euglena gracilis EOD-1 on Fatigue in Healthy Adults: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Parallel-Group Trial)
(参照:Effects of Euglena gracilis Intake on Mood and Autonomic Activity under Mental Workload, and Subjective Sleep Quality: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial)
ミドリムシ(ユーグレナ)の肝臓への効果は?

では、ミドリムシの肝臓への効果はあるのでしょうか。
結論から言うと、ユーグレナの肝臓への効果については、非常に有望な研究結果が出ていますが、まだ動物実験の段階です。
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)という病気のマウスを使った実験では、ユーグレナの粉末、または分離したパラミロンを与えることで、肝臓が硬くなってしまう「線維化」の進行が有意に抑制されることが報告されています。
肝臓が障害される時にコラーゲンを作り出して線維化の引き金となる「肝星細胞」という細胞の活性化されるのですが、ミドリムシは「肝星細胞」の働きを抑えることで線維化を抑えると考えられているのです。
しかし、NASHや肝線維化といった肝臓の病気に対して、ユーグレナの効果を調査したヒトでの臨床試験はまだ存在しないということです 。
したがって、「ユーグレナがヒトの肝臓病を治療できる」といった主張は、現時点では科学的根拠に乏しく、時期尚早であると結論付けられています 。今後のさらなる研究に期待したい分野ですね。
ミドリムシ(ユーグレナ)の効果の「うそ」についての検証

ユーグレナについて調べていると、「効果はうそ」といったネガティブな情報を見かけることもあります。これはいったいどういうことなのでしょうか。科学的エビデンスの観点から検証してみましょう。
① 誇張された、あるいは違法な主張がたびたびされる
まず、科学的根拠を逸脱した「誇張された主張」が存在することは事実です。
- 重篤な疾患の治療効果: 「がんやインフルエンザを治療・予防できる」といった医薬品のような効果を謳い、販売業者が薬機法違反で逮捕された事例も報告されています 。本記事で紹介した科学文献をみても、これらの主張を支持する証拠はありません。
- 極端な減量効果: 「1週間で12kg減量!」といった広告もみられますが、科学的根拠のない誇張表現です。動物実験で示されているのは、あくまで数週間にわたる穏やかな体重増加の「抑制」効果であり、「ダイエットにミドリムシが非常に有効」とされるデータはありません。。
- 新型コロナへの効果: パンデミックの際には、あたかも有効であるかのような主張が見られましたが、日本の公的な研究機関はこれを明確に否定しています。
こうした根拠のない主張が、「うそ」という印象を与えてしまう一因となっているようです。
②「効果が感じられない」のには理由がある
一方で、「試してみたけれど、効果が感じられなかった」という声が、「ミドリムシは効果がない(うそだ)」という話につながるケースもあります。しかし、効果を体感できないことには、以下の原因もあるでしょう。
- 摂取期間の不足: 腸内環境の変化や免疫系の準備状態の向上といった効果は、ある程度の時間をかけて現れます 。効果が確認された臨床試験の多くは、4週間から12週間という継続的な摂取を前提としています。
- 摂取量の不足: 摂取するユーグレナの「量」も非常に重要です 。臨床試験で効果が確認されている用量は、1日あたり500mg~2000mgが一般的です 。市販の製品を選ぶ際には、十分な量が含まれているかを確認する必要があるかもしれません。
- 個人差: 私たちの体は一人ひとり違います。もともとの腸内細菌の状態や免疫の状態、生活習慣などによって、栄養に対する反応は人それぞれ異なるのです 。
効果を体感できないことが、必ずしも製品が「うそ」であることを意味するわけではない、ということですね。
ミドリムシ(ユーグレナ)の白髪への効果

最後に、多くの方が気にされている「白髪への効果」はどうでしょうか。
結論を先にいうと、「ミドリムシが白髪を予防または改善できる」という主張を支持する科学的エビデンスは、現時点では皆無です 。
少なくとも「メラニン」や「メラノサイト(色素細胞)」といったキーワードで科学文献を徹底的に調査してみましたが、ミドリムシがヒトの髪の色や白髪化のプロセスに影響を及ぼすことを示した研究は、調べた限り、過去20年間には一切ありませんね。
もちろん、ミドリムシ自体はクロロフィルなどの色素を含んでいますが、これらは光合成に関連するものであり、ヒトの髪の色素形成には関与しません。
したがって、ユーグレナと白髪を結びつける主張には、科学的な根拠が全くないというのが現状の結論ですね。
ミドリムシについてのまとめ

今回は、ミドリムシ(ユーグレナ)の健康効果について、科学的なエビデンスに基づいて詳しく見てきました。最後に、その効果の信頼度を整理しておきましょう。
- ヒトでのエビデンスがある効果:
- 免疫機能の向上(風邪様症状の軽減)
- 腸内環境の改善(有益な腸内細菌を増やすプレバイオティクス作用)
- 疲労とストレスの軽減、睡眠の質の向上
- 有望だが、さらなる研究が必要な効果(動物実験レベル):
- 肝臓の健康サポート(NASHにおける肝線維化の抑制)
- 代謝の改善(内臓脂肪やLDLコレステロールの減少)
- 科学的根拠が全くない、あるいは非常に乏しい効果:
- 白髪の改善・予防
- 育毛促進(細胞レベルの基礎研究のみ)
ユーグレナは、私たちの健康を多角的にサポートしてくれる、非常に魅力的な可能性を秘めた食品です。しかし、その効果には科学的根拠のレベルに大きな差があることも事実で、「うそ」が紛れ込んであることもあります。
ぜひミドリムシを購入するときは、「どんな目的でミドリムシを摂取していきたいか」を考えて、とるようにしましょう。
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