突然ですが「カビ毒」という単語を知っていますか?
それぞれの単語は知っていても、「カビ」と「毒」が組み合わさった「カビ毒」についてはあまり知られていません。
先日、日本でも2022年産の県産小麦「ナンブコムギ」から基準値を超える「カビ毒」が検出されました。このように、安心・安全に気を遣っていたとしても「カビ毒」は発生し、知らず知らずのうちに私たちにさまざまなカビ毒による症状を来すことがあるのです。
では、カビ毒による症状はどのようなものがあるのでしょうか。また、カビ毒に対して何か対策はできるのでしょうか。
今、問題になっている「カビ毒」について、わかりやすく解説していきます。
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カビ毒とは?
「カビ毒」とは、特定の種類のカビ (真菌) によって自然と作られる有毒な化合物の総称です。なので、カビが作る化学物質で、人間に悪影響が出るものは全て「カビ毒」といいます。海外では「マイコトキシン(mycotoxin)」とも呼ばれますね。
カビ毒を作る可能性のあるカビは、米や小麦、そば、トウモロコシなどの穀物、ドライフルーツ、ナッツやスパイス、コーヒー豆などの多くの食品で増殖します。
もちろんカビは、収穫前または収穫後、保存中のどの状態でも発生する可能性があります。特に暖かく、湿気の多い条件下で発生しやすくなります。
そしてカビ毒は収穫前と収穫後の作物 の カビ感染の結果、出現します。そして、感染した食品をたべたり、汚染された飼料を食べた動物から間接的に摂取して人体に影響を与えるのです。
カビ毒として確認されているものは、現在300種類以上報告されていますが、代表的なものは
- アフラトキシン
- オクラトキシン A
- パツリン
- フモニシン
- ゼアラレノン
- ニバレノール/デオキシニバレノール
あげられます。今回、岩手県産の小麦で問題になったのは「デオキシニバレノール(DON)」と呼ばれるものですね。しかもカビ毒は一度発生すると、調理過程や加工過程でなかなか除去されることはありません。
こうして食品管理の影響で食品からカビが生え、そのカビが有毒な物質を作りだし、加工や調理でもなかなか減ることはなく人体に影響を与える・・・これが「カビ毒」の実態なのです。
(参照:農林水産省「かびとかび毒についての基礎的な情報」)
(参照:東京都保健医療局「カビ毒Q&A」)
(参照:
カビ毒による症状は?
では、カビ毒に汚染されたら、どんな症状があるのでしょうか。「カビ毒の症状は『○○』です」と統一された記載も目にしますが、実際は発生する「カビ毒」の種類によって、人体への影響は異なってきます。代表的なカビ毒の種類と症状は以下の通りです。
① アフラトキシン
アフラトキシンは、汚染されたピーナッツミールを食べた、10万羽以上の七面鳥の死から判明した代表的な「カビ毒」の1種。主にアスペルギルス属のカビによって生成される毒素です。
アフラトキシンにもB1、P1、Q1など十数の種類がありますが、穀物、イチジク、油糧種子、ナッツ、タバコ、そのほか数多くの食品が自然汚染されますし、アフラトキシンで汚染された飼料を家畜が食べて、間接的に影響を与えることもあります。
アフラトキシンが最も人体に影響を与えるのは「肝臓」です。下記のように、アフラトキシンは肝臓にさまざまな影響を及ぼします。
- 肝細胞のDNA損傷 : アフラトキシンは肝臓の細胞DNAに損傷を与えることで、細胞の異常増殖やがん化を引き起こす可能性があります。
- 肝線維化と肝硬変 : 長期間にわたるアフラトキシンの摂取は、慢性的な肝炎により肝臓の組織が硬くなり、正常な機能が低下する肝線維化や肝硬変を引き起こす可能性があります。
1974年にインドで肝炎が発生し、100人が死亡したのは、アフラトキシンに重度に汚染されたトウモロコシの摂取が原因だったのではないかともいわれていますね。
特に、注目されているのが強力な「発がん性」であり、WHOは2016年に「アフラトキシンは既知の最も強力な変異原性および発がん性物質の1つである」と結論づけています。特にB型肝炎ウイルス感染を来している方は要注意である「カビ毒」です。
(参照:World Health Organization「AFLATOXINS」)
② オクラトキシン
オクラトキシンは、アオカビ属やコウジカビ属のカビによって生成されるカビ毒の一種で、A、B、C、TAなど複数の種類があります。
オクラトキシンも大麦、オーツ麦、ライ麦、小麦、コーヒー豆、その他の植物製品で見つかっていますね。また、汚染されたワインからも見つかることがあります。
オクラトキシンの主な標的臓器は「腎臓」です。多尿、尿糖、蛋白尿などの腎機能障害などがあげられます。もっとも顕著なのは腎臓ですが、肝毒性や胎児の発育・免疫系にも影響を与える可能性も指摘されており、発がん性も確認されています。
(参照:World Health Organization「Mycotoxins」)
③ パツリン
パツリンは、ペニシリウム属(アオカビ類)やアスペルギウス属(コウジカビ類)によって生成されるカビ毒(マイコトキシン)の一種です。パツリンは、特に腐ったリンゴ、ブドウ、ナシ、モモなどの果物から検出されます。
パツリンの人体への影響は、他のマイコトキシンに比べて強力な毒物質ではありませんが、細胞膜の膜透過性を阻害し、遺伝毒性があるとされています。
具体的な症状としては、急性の場合に吐き気、胃腸障害、嘔吐などの消化器症状が中心。慢性的に摂取すると消化管を痛めるので体重抑制につながるとされています。
よくリンゴ果汁に含まれていることから、パツリンの濃度が最大濃度50 μg/kgになるように推奨されています。
(参照:World Health Organization「Mycotoxins」)
④ デオキシニバレノール(DON)
2023年秋に小麦の中に混入された「カビ毒」として問題となった成分です。
デオキシニバレノール(DON)は、B型トリコテセンというエポキシ系のマイコトキシンの一種で、主に小麦、大麦、オート麦、ライ麦、トウモロコシなどの穀物に発生します。
アジア、アフリカ、アメリカ、ヨーロッパ、中東はすべて DON 汚染の影響を受けているとされています。DON は、環境変化によって容易に引き起こされる天然に存在する食中毒マイコトキシンであり、通常、収穫前、加工、乾燥、および保管プロセス (温度、湿度など) 中に穀物に存在します。
DON は非常に熱安定性が高く、170 ~ 350 °C の範囲の温度に耐えることができるので、非常に一般的な食品汚染物質の1つです。
他のカビ毒と比べて毒性は少ないものの、消化器症状、栄養素の吸収不良、内分泌異常などを引き起こす可能性があるといわれています。
特にヒトでは胃腸炎と関連があるとされていますが、長期的な影響は不明です。DON はタンパク質合成を直接抑制しますが、DNA および RNA 合成などにも間接的な影響をあるとされています。
このように「カビ毒」といっても非常に様々な種類があるので、「○○の症状がカビ毒によるものである」というのはなかなか断言することができません。
したがって、直前の摂取状況は現在のカビ毒の流行から類推することになるでしょう。
カビ毒に対する対策は?
では私たちに「カビ毒」を対策する方法はあるのでしょうか。残念ながらカビ毒が一度発生すると、調理や通常の加熱でなかなか除去することはできません。
ゆでても炒めても80%程度カビ毒はのこってしまいますし、食品加工での加熱や水洗いでも残ってしまいます。
ただし、例えば汚染されたトウモロコシ油を作る過程で、食品添加物のアルカリ剤を加えてさらに精製することで大半のカビ毒が除去されるので、製品によっては汚染されても加工過程で除去されるものもあります。しかし、逆に言えばカビ毒はこうした特殊な工程を経なければ除去されないのです。
いずれにせよ、一般の家庭でできることは「新たにカビを発生させない」「汚染されたものを食べない」ことにつきます。例えば次の通りです。
① 保存方法を徹底する
穀物やナッツ、果物などは適切な温度と湿度で保存することがカビの発生を防ぐ鍵です。
カビの発生には、温度、水分、酸素の3つポイント。
一般的にカビの発生しやすい温度は20℃~30℃。冷蔵庫の温度ではかなりカビの増殖はゆっくりになります。また、もちろん他の生物同様に、水分、酸素も必要不可欠です。
例えば、穀物やナッツ類は乾燥した冷暗所に保管し、果物は冷蔵庫で適切に保存するようにしましょう。真空パックのように酸素を抜いて補完することもとても大切ですね。
また、ジメジメしたところにカビが出てくるイメージ通り、湿気はカビを増やす一因になります。湿気が多い場所には補完しないようにしましょう。
② 食品の消費期限をきちんと守り、鮮度を重視する
ついつい安いものを買おうをして、消費期限が近くて割引されている製品を買いたくなりますよね。(私もそうです)
しかし、賞味期限や消費期限は食品の安全を保証するための大切な指標です。これを過ぎた食品は品質が落ち、カビが生えやすくなる可能性があります。特に消費期限は「期限を過ぎたら食べない方がよい」目安なので大切な指標となります。
消費期限が近い食材は必ずその日のうちに食べる。逆に過ぎた食材はなるべく避けるようにしましょう。
③ 食品見た目と匂いでチェック
食品にカビが生えているかどうかは見た目や匂いで確認できます。東京都の調べによると、人の目でカビが生えているもの、虫食いや変色があるものと正常であったもののカビ毒で汚染されている確率を調べたところ
- 見た目が正常だったもの:カビ毒に汚染されている粒が混在した確率が500粒中0%
- 見た目が変色していたもの:カビ毒に汚染されている粒が混在した確率が80粒中2.5%
- 見た目が虫食いにあっていたもの:カビ毒に汚染されている粒が混在した確率が100粒中12%
- 見た目がカビが付着していたもの:カビ毒に汚染されている粒が混在した確率が100粒中22%
とかなり大きな差がでたのです。人の目ってすごいですね。カビが生えた食品は、見えない部分にもカビ毒が広がっている可能性があるため、食べるのを避けるべきです。
知らず知らずのうちに摂取しがちな「カビ毒」。特に保存対策はしっかりしておいてくださいね。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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