大人のヒトメタニューモウイルスについて【症状・検査・うつる期間】

中国でヒトメタニューモウイルス感染症が大流行していますね。

本来、ヒトメタニューモウイルスは小児に起こりやすい感染症。しかし、もちろん流行すれば大人にも十分感染します。日本でインフルや新型コロナウイルスが流行している段階で、ヒトメタニューモウイルスも流行すると「自分の症状は何からきているのかわからない」と思う人もいるでしょう。

そんな方に向けて、今回は大人のヒトメタニューモウイルス感染症について、症状から検査、うつる期間、仕事をやすむ期間などについて解説していきます。

ヒトメタニューモウイルスとは?

ヒトメタニューモウイルス(Human Metapneumovirus, HMPV)は、呼吸器感染症を引き起こすウイルスの一種です。このウイルスは2001年に初めて発見されましたが、血清学的な研究により、少なくとも50年以上前から人間の間で流行していたことがわかっています。

一本鎖RNAを持つエンベロープウイルスで、特に乳幼児においては下気道感染症の主な原因ウイルスの1つといわれていますが、実は大人にもよく感染してします

実際、2008年のアメリカの調査によると、成人における「ヒトメタニューモウイルスの感染が4年連続で3%~7.1%の間であった」と報告しています。これはRSウイルスの年間平均感染率(5.5%)と同程度であり、同じ期間の同集団におけるインフルエンザA(2.4%)よりも高い数値です。

また別の論文でも、市中急性気道感染のため一般診療所を受診した患者のうち、RSウイルスとインフルエンザウイルスが陰性の患者のうち2.2%でHMPVが検出されています。「よく調べるとしばしばヒトメタニューモウイルスに感染している」というわけですね。

しかし、ヒトメタニューモウイルス感染と入院との関係性も指摘されているので「ただの風邪」と安心するのも早計です。実際、2012年のアメリカの論文では「3年連続で冬季に50歳以上の成人の急性気道感染症による入院の4.5%をHMPVが占めている」と報告しています。

このように、大人でも調べてみると感染して入院にいたることもあるウイルス、それが「ヒトメタニューモウイルス」なのです。

(参照:Human metapneumovirus in adults
(参照:Rates of hospitalizations for respiratory syncytial virus, human metapneumovirus, and influenza virus in older adults

大人のヒトメタニューモウイルスの症状は?

フランスで2012年~2018年での3148人の患者のうち、ヒトメタニューモウイルス陽性だった90名(全体の3%)の症状の内訳は次の通りです。(女性1449人(46%)、平均年齢71歳、65歳以上1988人(63%)、慢性疾患2508人(80%))

  • 発熱:88%
  • :83%
  • 呼吸困難:84%
  • 倦怠感:14%
  • 頭痛:18%
  • 筋肉痛:21%
  • のどの痛み:9%

特に、インフルエンザ陽性の方908名と比較すると、ヒトメタニューモウイルス陽性の方では以下の特徴があるといわれています。

  • 呼吸困難を訴える人が多い
  • 倦怠感や頭痛、のどの痛みを訴える人が少ない

当院でも家庭内感染からヒトメタニューモウイルス感染症が強く疑われる方を診察する場面がしばしばありましたが、いずれものどの痛みは少なく、どちらかというと下気道症状を訴えやすい印象をもちますね。

また、同論文では「ヒトメタニューモウイルス陽性の方の方が、インフルエンザ陽性の方よりも、入院中急性心不全になる可能性が高かった」としていますので、もともと心臓のリスクをかかえている人は要注意でしょう。

(参照:Characteristics of human metapneumovirus infection in adults hospitalized for community-acquired influenza-like illness in France, 2012–2018: a retrospective observational study

ヒトメタニューモウイルスの潜伏期間とうつる期間は?

ヒトメタニューモウイルスの潜伏期間や感染経路、感染可能期間は以下の通りです。

① ヒトメタニューモウイルスの潜伏期間

  • 潜伏期間は、HMPVに感染してから症状が出るまでの期間を指します。
  • HMPVの潜伏期間は 4~6日 とされていますが、状況によっては 7~9日 になるケースも報告されています。例えば、病院や長期介護施設などの環境で集団感染が発生した場合、潜伏期間の範囲が広がることがあります​。

② ヒトメタニューモウイルスのうつりやすさ(感染力)

  • 感染経路:
    • HMPVは、 飛沫感染(くしゃみや咳による飛沫を介した感染)や 接触感染(ウイルスが付着した手や物を介して感染)によって広がります。
    • 唾液や鼻水、気道分泌物に含まれるウイルスが感染源になります。
  • 感染期間:
    • 感染者は、症状が出る 5日前 から症状発症後 1~2週間 の間、他者にウイルスを伝播する可能性があります。
    • 特に、子どもや免疫力が低下している人ではウイルスの排出期間が延びる可能性があります。
  • 感染力の指標:
    • 一部の研究では、無症状の成人が感染を広げる可能性があるとされています。ただし、無症状者のHMPV RNAの検出頻度は低く、主要な感染源は症状のある患者と考えられます。
    • ある家庭内感染の研究では、最初に発症した患者と接触した家族が 約5日後(中央値) に症状を発症する例が多いことがいわれています。

このように、ヒトメタニューモウイルスも他のウイルス同様、飛沫感染、接触感染が主体なので、手洗いやマスクの着用は依然有用になりますね。

(参照:Human metapneumovirus in adults

ヒトメタニューモウイルスの検査方法は?

ヒトメタニューモウイルスの検査方法には以下のようなものがあります:

  • 核酸増幅検査(PCR検査):ウイルスの遺伝子(RNA)を検出する方法で、最も正確です。
  • 抗原検出検査:ウイルス表面のタンパク質を検出する迅速検査で、結果が10分程度で分かります。
  • 血清学的検査:感染後に体内で作られる抗体を調べる方法です。ただし、診断目的よりも研究や流行調査で使われます。

ただし、これらの検査は基本的に6歳以下の小児を対象としており、健康保険の適用はありません。特に小児科のクリニックでは、簡便な迅速抗原検査が主流で、約10分ほどで結果が出ます。

一方、大人に対してはすべての検査が自費となります。その理由として、ヒトメタニューモウイルスに対する治療薬が現在保険適用外であることが挙げられます。そのため、診断を受けても治療方針に直接影響を与えるケースが少ないのです。

自費検査にせよ、検査するクリニックは限られていますので、事前に問い合わせした方がよいでしょう。(当院では原則大人に対する自費検査は行っておりません)

ヒトメタニューモウイルスで仕事に行っていいの?

ヒトメタニューモウイルスだったとしても、現時点では職場を休む規定はないため、体調が良ければ仕事に行っても構いません。

ただし、症状によっては呼吸困難などの症状が出現し、なかなか仕事にも行けないという人もいるでしょう。その場合は、ぜひクリニックに相談していただき、症状に合わせて仕事の負担を調整していただけたらと思います。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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