咳止めが不足している理由は?咳止め薬不足の現状について【厚生労働省】

インフルエンザウイルスや新型コロナをはじめ、多くの感染症が流行する中、深刻化してきているのが「咳止め薬の不足問題」です。

実際、ここ最近病院を受診して

  • 咳止めがないから、病院を2~3件たらい回しにされた
  • 咳止めがないので、あえて処方箋に咳止め薬を削除してもらった

などの方は多いのではないでしょうか。咳止めも咳で苦しんでいる人には大切な薬なので、なぜ薬局に咳止め薬が不足しているのでしょうか。

今回、咳止め薬が不足している理由・原因について、ジェネリック薬の問題点や厚生労働省での対応についてお話していきます。

また、咳止め薬不足に対する当院で行っている対応策についてもお話していきます。

どんな種類の咳止め薬が不足している?

「咳止め薬」と一言でいっても、西洋薬・漢方薬含めていろいろありますが、どの薬が不足しているのでしょうか。当院で咳止め薬として処方する薬のうち「薬局で不足している」といわれ処方できなかった経験のある薬は、例えば以下の通りです。(2023年11時点)

  • メジコン®(デキストロメトルファン)
  • アスベリン®(チペピジン)
  • アストミン®
  • レスプレン®
  • フスコデ配合錠®
  • カフコデ配合錠®
  • コデインリン酸塩®
  • ジヒドロコデインリン酸塩®
  • 麦門冬湯®

ですね。主に咳反射の中枢から咳の発作をさせない薬が不足していることが多くあります。これらの薬の大多数がないため、「代替え薬含めても咳止め薬が確保できません」と薬局から言われることも多々あります。

咳止め薬が不足している理由は?

では、なぜ咳止め薬が不足しているのでしょうか。その理由を大きく2つ分けると「咳止めを必要とする疾患が増加」と「ジェネリック医薬品の供給が不安定だから」の2つに分けられます。

① 咳止めを必要とする疾患が増加しているから

コロナが5類以降になり、新型コロナの蔓延だけでなく、季節外れのインフルエンザやRSウイルス、アデノウイルスなど様々な咳を伴うウイルス感染症の流行が確認されています。これについては、マスク着用率の低下や感染対策の緩和なども関係しているのかもしれません。

また、11月は喘息・咳喘息も悪化しやすい季節であり、感染症以外でも咳止めが必要になるケースも出てくるでしょう。

そのため、全体的に咳止めに対する需要が高まってきており、「相対的に咳止め薬の供給が追い付かなくなった」ともいえます。

② ジェネリック医薬品の不祥事問題で、生産量が減っているから

実は、数年前から他の薬にも「望んだ医薬品が手に入らない」というケースがたびたび見られていました。その一連の問題の発端となったのは、2020年12月に発覚した福井県のジェネリック=後発医薬品メーカー「小林化工」が製造した水虫などの真菌症の治療薬に睡眠導入剤の成分が混入した不祥事事件です。

その後、「日医工」「岡見化学工業」「久光製薬」「北日本製薬」「長生堂製薬」など、各地の製薬メーカーで品質試験の問題や国が承認した工程とは異なる製造を続けていたということで、行政処分が相次いで出されました。

このような数多くの不祥事から、ジェネリック医薬品、ジェネリック製薬メーカーの信頼性を失墜させる結果となったのです。

これらの状況を受けて2022年3月24日、「日本ジェネリック製薬協会」は、小林化工や日医工の問題以降、進めてきた会員企業の自主点検の結果を発表しました。そして、加盟する38社の8割を超える31社で国の承認書に記載のない製造手順などが見つかったとしています。

このようなジェネリック医薬品の状況から、厚生労働省では「主要な鎮咳薬(咳止め)の供給量については、新型コロナウイルス感染症の流行以前の約85%まで生産量が低下しています。去痰薬は新型コロナ以前と同程度であるものの、メーカー在庫が減少している状況です。」と発表しています。

このように「需要する疾患が増えて咳止め薬の必要性が増えてきているのにも関わらず、ジェネリック薬中心に咳止め薬の生産が低下しているため、咳止め薬が不足している」といえます。

(参照:厚生労働省「鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」
(参照:読売新聞「医療機関の74%「医薬品が不足」、せき止めなど1500品目…後発薬メーカーの不祥事影響」

③ 咳止めの薬価がそもそも低くて採算が合わないから

また、生産量が低下している理由として「作ってもあまり利益が出ない『不採算品』問題」があります。

例えば、咳止めの代表薬であるメジコンの薬価は1錠5.7円足らず。レスプレンも1錠5.9円。アスベリンも1錠9.8円しかありません。作ってもあまりに安すぎて採算が合わなかったのですね。

採算が合わないことと、国民にとって必要というのはもちろん別問題です。しかし、製薬会社も利益を追求する必要があります。そのため、必要な薬は「採算があう」と思える薬価づくりが必要になってくるでしょう。

咳止め薬の不足を受けて、厚生労働省での対応は?

こうした現状を受けて、10月18日の厚生労働省では、以下の発表が行われています。

  • 9月末に、初期からの長期処方を控え、医師が必要と判断した患者へ最少日数での処方とするよう、協力要請などを行っている
  • 更なる緊急対応として、鎮咳薬や去痰薬のメーカー主要8社に、供給増加に向けたあらゆる手段による対応を要請した。
  • その結果、年内は他の医薬品の生産ラインからの緊急融通、そしてメーカー在庫の放出等により、これらの社の出荷量について、現時点で鎮咳薬は、約1,100万錠、そして去痰薬は約1,750万錠の増加が可能となるなど、9月末時点よりも更に1割以上供給が増える見通しとなった
  • 今般の経済対策の中で、これまで増産要請に対応してきた企業に、更に増産に向けた投資を行っていただくための支援を講じる方向で検討を進める。
  • 令和6年度薬価改定において、供給不足が生じていて不採算品と考えられる品目について、薬価上の対応も検討する。

このように、当座は咳止めの供給量をあげるよう要請を出しながら、薬価修正の検討に視野に入れている最中です。

当院でも、こうした咳止め不足の影響を受けて、近隣への薬局に「咳止め薬がどれくらいあるのか」を事前に確認して処方するようにしています。

とはいえ、それでも「どの薬局でも咳止め薬がない」という状況もあり、みなさんに十分お渡しできないこともあるでしょう。

現場もかなり必死です。みなさんの状況にあわせた最善の診療を行ってまいりますので、どうかみなさんのご理解・ご協力をよろしくお願いいたします。

(参照:令和5年10月18日(水)「武見大臣会見概要」

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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