コロナ後遺症による咳や息切れの割合や原因、治し方について【いつまでかかる?】

5類感染症になり軽視されつつある新型コロナですが、新型コロナには他のウイルスにはない問題がいくつか残っています。その1つが、新型コロナによる「後遺症問題」です。実際当院にも

  • コロナ後遺症による咳がいつまでも治らない
  • コロナ後遺症での咳がつらく、どうにかしてほしい

など、コロナ後遺症で来る方も大勢いらっしゃいます。実際、コロナ後遺症の咳はどうして起こってしまうのでしょうか。今回は、なかなか治らないコロナ後遺症による咳について、

  • コロナになり咳が残る割合
  • コロナの咳や息切れはいつまでかかるのか
  • コロナ後遺症の咳の治し方

を中心に解説していきます。他の後遺症については

もあわせて参照してください。

コロナ後遺症による咳や息切れとは?

簡単にいうと、コロナ後遺症での咳や息切れとは「コロナにかかった後、感染性はなくなったものの、急性期から持続したり、経過の途中から生じて出てくる『咳や息切れ症状』」のこと。

コロナ後遺症ではある程度長引いていることも診断基準の1つ。多くの論文では「4週間以上続く症状」をpost COVID19としていますが、WHOの定義によると「コロナから3か月たって、2か月以上続く新しい症状」のことをコロナ後遺症としていますし、論文によっては3週間で区切るケースもあります。

ではコロナになった後、どれくらいの割合で咳や息切れ症状が起こるのでしょうか?

2023年2月に行われた東京都の都民アンケート調査によると「新型コロナに感染してから2か月以上の期間、後遺症を疑う症状があった」と答えた方は25.8%となっており、20代~50代を中心に幅広い年齢層で認めています。

さらに、「後遺症としてどのような症状がありましたか」という質問に咳と答えた方は35.1%ということは、コロナにかかった後、咳症状として残る確率は約9%程度であることがわかります。だいたい10人に1人くらいが咳が長引くというのは、他の感染症と比較しても高い割合ですね。

また、後遺症での日常生活への影響力も非常に大きく、同アンケート調査では後遺症がある方の85%が「日常生活の支障があった」と回答し、そのうち50%以上の方が仕事や学校を休んでいますね。特に声を出さないといけない職業では、長引く咳はかなりつらい後遺症です。

また、コロナ後遺症の咳を扱ってくれる病院も少ないのも要因の1つ。当院に来院される方でも

  • コロナは見るけどコロナ後遺症は見ない
  • コロナ後遺症の咳はよくわからないから他の病院にいってほしい

などと言われたため、市販薬でも治らず当院に来院されたという方もよくいます。

(参照:(第116回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和5年3月30日)
(参照:新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 別冊「罹患後症状のマネジメント」第3.0版)

コロナ後遺症の咳や息切れの原因は?

どうしてコロナ後遺症の咳は起こってしまうのでしょうか?以下の3つのパターンが考えられます。

① コロナが呼吸器に影響を与えているから

もともと新型コロナは肺炎を中心とした呼吸器感染症。上気道から侵入し、下気道で増殖しながら、肺や気管支で増殖します。

ウイルスによる急性症状は自分の免疫や薬による治療で抑えられるものの、ウイルスが残したダメージはなかなか消えません。そして。咳や息切れなどの呼吸器症状を残し続けるということがあるのです。

実際、日本の26に及ぶ医療機関の多施設共同研究によると「急性新型コロナウイルス感染症の重症度が強ければ強いほど、長期にわたる咳や痰が発生しやすい」ことがわかっています。特に間欠的強制換気のような人工呼吸が必要になったケースでは、咳や痰が長引くやすいことも報告されていますね。

他の論文では、新型コロナから回復された方は一般人口と比較して、2倍の頻度で呼吸器症状がでてくることが報告されています。こうした外来患者を画像で詳しく解析したところ、肺の気流障害や血流障害などの異常所見が認められました。

このように、新型コロナによる呼吸器障害が長期間の咳や痰につながります。だからこそ、(特に重症化リスクが高い人は)初期治療が大切といえるでしょう。

② コロナが呼吸器にかかわる神経に影響が及ぼすから

実は、新型コロナは当初は「呼吸器感染症」として知られていましたが、現在は多くの臓器にダメージを与えることも知られています。

特にだるさや倦怠感が残りやすいことからもわかる通り「神経症状」が後遺症として残りやすいですね。有名な味覚嗅覚障害も神経障害が関わっています。そして、これは呼吸器にかかわる神経も例外ではありません。

2023年に報告されたコロナ後遺症と呼吸器にかかわる迷走神経障害との関連性によると、コロナにかかって12週間以上咳が長引いた方38人のうち、76.3%の方が呼吸にかかわる甲状披裂筋や輪状甲状筋の筋電図に以上をきたしていたとしています。

甲状披裂筋も輪状甲状筋の神経に異常をきたすと、感覚系にダメージが出た場合は咳やのどがくすぐったいような感覚が持続され、運動系にダメージが出た場合は声の疲労や発声障害が出ることがあります。

また、コロナ後遺症の咳を治療した他の論文では、「呼吸器系統のあらゆる投薬(鎮咳薬や吸入ステロイド薬など)で効果が十分ではなく、最終的に神経調節薬で治療した」と報告していますね。

このように、神経障害の一環として咳や息切れが出ているケースがあります。

③ コロナが全身に影響を及ぼし、全身症状として咳や息切れが出ているから

特に「息切れ」について言えることですが、全身症状の一環として咳や息切れが出ているケースがあります。

前述の東京都のアンケートでも咳症状よりも表れやすいのが、倦怠感やだるさであり51.6%もの人が経験しています。そして、だるさがあると当然息切れも生じてきて呼吸器障害として訴えるケースですね。よく

  • コロナにかかってから階段を上るだけでゼーゼーする
  • コロナにかかってから散歩する時間も短くなった

などといわれることも多いですね。この場合は、全身症状の一環として呼吸器障害を考える必要があり、別のアプローチをとることもあります。詳しくは新型コロナ後遺症による倦怠感の特徴や治療法について解説を参考にしてみてください。

(参照:Long-COVID severe refractory cough: discussion of a case with 6-week longitudinal cough characterization)
(参照:Long COVID: major findings, mechanisms and recommendations
(参照:Chronic cough in post-COVID syndrome: Laryngeal electromyography findings in vagus nerve neuropathy

コロナ後遺症による咳や息切れはいつまでかかる?

では、コロナ後遺症の咳や息切れははいつまでかかるのでしょうか。

2023年に報告された日本の他施設共同研究によると、発生時、3か月、6カ月、12カ月時点での咳や痰が残っている割合は次のようになっています。

  • 発生時:咳は52.3%、痰は32.8%
  • 3か月時点:咳は8.8%、痰は7.2%
  • 6カ月時点:咳は5.8%、痰は5.9%
  • 12カ月時点:咳は4.4%、痰は5.0%

このように見てみると、3か月時点で咳や痰が出る割合は大きく低下しているものの、6カ月、12カ月時点ではなかなか下がりにくいことがわかりますね。

一方、他の論文でのコロナ後遺症でCTをフォローした研究によると、3か月後には48.9%に異常を認めたのに対して、6カ月後には22.9%、9カ月後には11.8%、12か月後には6.3%と順調に回復しており、症状が残っている人の推移とは異なります。肺機能検査の推移にしてもCTと同様の推移を示していますね。

このことから、コロナ後遺症は一概に呼吸器だけの障害だけではないことがうかがえます。そのため、当院では(どうしても治らなかった場合)呼吸器内科に精査を依頼することもありますが、症状によっては他の科を紹介することもあります。

(参照:Cough and sputum in long COVID are associated with severe acute COVID-19: a Japanese cohort study

コロナ後遺症による咳や息切れの治し方は?

コロナ後遺症の咳に対する治療は、病態によって大きく異なります。そのため、同じ咳だったとしても全然病態が違っていることもしばしばです。

そのため、論文ベースで模索されている治療法も多種多様ですね。例えば、次のような治療法が模索されています。

  • 抗ヒスタミン薬:コロナ後遺症はコロナを追い出そうとする一種のアレルギーの状態であると考え、抗アレルギー薬として抗ヒスタミンが検討されることがあります。2021年の小規模臨床試験では、80%の方が有効であったと報告していますが、実臨床で抗ヒスタミンだけで治るのはまれです。
  • 抗ロイコトリエン拮抗薬:よくアレルギー性鼻炎で処方される薬ですね。しかし喘息などの呼吸器系のアレルギー症状を緩和し、気道の炎症を抑える作用があるとして知られています。2022年の32名を対象とした論文では14日間投与で咳などの症状を緩和したとありますが、実臨床として単剤でよくなる例はあまり見られません。
  • 吸入薬:気管支の収縮を抑える吸入のムスカリン拮抗薬や気道の炎症を抑える吸入ステロイドなども治療の一環で使われています。咳やカプサイシンに対する咳反射を抑える効果などが報告されていますが、いずれも小規模試験であり、有効性はまだ未確認です。また使用する際には適切に使用する必要があります。
  • 咳止めや痰切り:咳反射を抑える目的で、デキストロメトルファンやカルボシステイン、アンブロキソールなどが処方されます。市販薬でも使われますね。ただし、根本的な治療に至っていないので、これだけで治ることは少ないです。
  • 中枢性鎮咳薬や神経調節薬:神経調節を行う意味でガバペンチンやプレガバリンなどの神経を調節する薬が模索されています。まだ症例数も小規模であり、本来は疼痛緩和の薬なので、咳を緩和する薬として保険適応されません。

他には漢方薬が使用されることもありますね。いずれにせよ、ガイドラインでも「この治療が効果的」とわかっている治療法はありません。したがって、模索状態ではありますが、当院では呼吸機能検査やレントゲン検査、CT検査、血液検査などを組み合わせながら、病態に合わせて治療しております。

コロナ後の長引く咳でお困りの方はぜひ相談してください。また、コロナは初期治療がとても大切でコロナ後遺症でも大きく関わります。放置せずに早めに医療機関に受診するようにしましょう。

(参照:Approach to post COVID-19 persistent cough: A narrative review

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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