コロナは5類になったとしても、ウイルスの性質は変わりません。ウイルスの感染力は非常に高く、後遺症の発症率は他のウイルスよりも高い。基礎疾患や高齢者で重症化する恐れもあります。
その中で、「自分の『のどの痛みはコロナなの?』と心配される方も多いです。
非常に気持ちはわかりますが、咽頭炎の原因は多様であり、新型コロナ感染症ではないケースもよくみられますので、慎重に診断すすめる必要があります。
今回、のどの痛みが新型コロナである場合の特徴・新型コロナでない場合の喉の痛みの原因や喉のケアに至るまで、幅広く解説していきます。
新型コロナと他の症状との関係性については下記も参照してください。
- だるいのはコロナ?だるさや倦怠感について解説【原因・治し方】
- 痰が絡む咳はコロナ?痰の原因や対処法について解説
- 頭痛はコロナから?新型コロナ感染症による頭痛の特徴について解説【症状・対処法】
- コロナの下痢はいつまで続く?食事や整腸剤の改善法やコロナ後遺症との関係について
- 鼻水が止まらないのはコロナ?鼻水のコロナ以外の原因や対処法についても解説
また、現在の主流株である「KP.3株」については、コロナ変異株「KP.3株」の特徴について【最新株・症状・推移】を参照してください。
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のどの痛みは新型コロナ感染症で多い症状?
結論からいうと最近の変異株では新型コロナ感染症でのどの痛みがでることは非常によくあります。ただし「のどの痛みがあるから新型コロナ『だけ』を積極的に疑う」ということはしません。
当院で直近で新型コロナ陽性例132例を調べた結果によると次のようになっています。
- のどの痛み:75%
- 発熱:74%
- 鼻水:67%
- 咳・痰:53%
- 頭痛:41%
- 体の痛み:25%
- 息苦しさ:19%
- 倦怠感:11%
- 消化器症状:6%
- 味覚嗅覚障害:3%
このように、のどの痛みは発熱と並びトップに位置する「コロナでよくある症状」の1つです。
2024年6月後半に改訂されたCDCからの発表からでものどの痛みは、発熱や鼻水、咳や呼吸困難の症状とともに主要な症状の1つに位置付けていますね。
オミクロン株の時期に札幌で行われた16万人にも及ぶデータ解析によると、年齢によって大きく症状が異なっています。例えば、のどの痛みを訴える割合は、10歳以降では22%であったのが、10歳代~60歳代では63.5%~73.4%(20歳代がもっとも多い)、70歳では53.4%、80歳以降では35.1%となっています。
したがって、いわゆる働き盛りの世代であるほどコロナでのどの痛みを訴えやすいといえますね。おそらくKP.3株であってもこの傾向は変わっていないでしょう。
新型コロナ感染症かどうかは、臨床症状やワクチン接種状況、周囲の感染リスクなどを考えながら、PCR検査や抗原検査を使って総合的に判断するようにしています。
5類になってからもウイルスの感染力は変わりません。クリニックに受診する際には前もって電話で相談した方がよいでしょう。
(参照:CDC「Symptoms of COVID-19」)
(参照:Associations of COVID-19 symptoms with omicron subvariants BA.2 and BA.5, host status, and clinical outcomes in Japan: a registry-based observational study)
のどの痛みの新型コロナ以外の原因は?
では、新型コロナ以外にも「のどの痛み」として出るのでしょうか。
実は「のどの痛み」と一言でいっても、見分けなければいけない疾患は本当に多岐にわたります。大まかにわけるなら「のどに炎症があるかどうか」で分けられるでしょう。
① のどに炎症がある場合
簡潔にいうと「何らかの原因でのどに炎症として起こっているサイン」としてのどの痛みを感じる場合です。
のどは空気や食べ物が通る部分なので、多くの細菌やウイルス・刺激を受けやすい場所です。こうした刺激がのどの本来もつ免疫力を上回ってしまった場合、「のどの痛み」として感じます。咽頭炎を引き起こす代表的な原因は以下の通りです。
- 細菌性: 溶連菌・レンサ球菌・ジフテリア菌・マイコプラズマなど
- ウイルス性: インフルエンザウイルス・コクサッキーウイルス・アデノウイルス・EBウイルス(伝染性単核球症)など
- 日常生活に起因するもの: 空気の乾燥・ホコリ・タバコ・飲酒・声の使い過ぎ・寒い/熱い空気
- その他: カンジダ・川崎病・アレルギー(花粉症など)・喉頭異物(魚骨など)・喉頭がん
これらのうち、抗生剤が必要なケースは「細菌性」によるものです。(参照:厚生労働省 抗微生物薬の適正使用の手引き)特に溶連菌感染症はリウマチ熱や急性糸球体腎炎などの合併症に注意が必要であり、疑わしい症例に関しては溶連菌に関する「迅速診断キット」を用いて調べています。
(溶連菌感染症については子供も大人もかかる溶連菌感染症について【原因・症状・感染経路】も参照してください)
実際には「咽頭炎」といっても実際には病気の場所によって細分化されています。中には内科診察では見えにくい場所もあったり、「喉頭蓋炎」「扁桃周囲膿瘍」など早急な治療が必要な場合もあります。少なくとも、下記の症状がある場合は、早急に医療機関に受診したほうがよいでしょう。
- のどの痛みが非常に強い場合(特につばを飲み込むのも辛い場合)
- 発熱が強く出ている場合(38度以上)
- 声が出なくなったり、息苦しさも感じるようになった場合
喉頭蓋炎や喉頭がん・魚骨など、ファイバー検査や処置が必要な場合、耳鼻科と連携しながら治療させていただきます。
② のどに炎症がない場合
例えば食道炎や甲状腺の炎症で「のどの痛み」と感じることもあります。これらの場合は、通常の咽頭所見ではわかりません。
食道炎の原因で一番多いのは逆流性食道炎といって、胃酸がこみあげてくることで食道が荒れるケースです。逆流性食道炎の他の症状としては
- 胸がやける感じがする
- 酸っぱいものが込みあがってくる
- 食後に胸やみぞおちあたりが痛い
などがあげられます。逆流性食道炎での喉の痛みは、制酸薬や胃粘膜保護薬を使わないとなかなか治りませんので注意が必要ですね。
また甲状腺の炎症も喉自体に炎症がなくても「のどの痛み」として訴えることがあります。特に30代~40代の女性に多い亜急性甲状腺炎が一番多く、ウイルス性が最多です。亜急性甲状腺炎の他の症状としては
- 発熱や全身倦怠感:午前中より午後から夜の方が症状が強い
- 動悸・頻脈(脈のかずが多い):甲状腺ホルモンの分泌による
- 発汗:甲状腺ホルモンの分泌による
があげられます。亜急性甲状腺炎では甲状腺の超音波検査や採血検査を行い、症状に合わせて治療を行っています。(超音波検査については、超音波(エコー)検査でわかること【腹部超音波・体表超音波(甲状腺や乳腺)】も参照してください)
他にも、心臓神経症・椎骨動脈解離・心筋梗塞などの疾患でも「のどの痛み」として感じることもあります。
上記からわかる通り一言で「のどの痛み」といってもバリエーションに富んでおり、一筋縄ではいかないケースをよく経験します。患者さんの状態に合わせて診療を行っており、精査が必要な場合は適切な連携施設に紹介させてただきます。
当院で診た、新型コロナ感染症の「喉の痛み」の特徴について(第9波以降)
当院では、新型コロナ感染症の診断や治療も行っており、軽症の方中心にオミクロン株以降からも数百例以上の新型コロナの喉の所見を診てきました。
論文化はしていませんが、新型コロナと他の種類の感染症との違いについてオミクロン株中心に私見を記載いたします。(変異株の種類が変わり、臨床症状が変わった場合、アップデートいたします)(下記所見は、「抗原検査で陽性」「PCR検査陽性」かつ「のどの痛みがある方」を中心に紹介しております)
① 咽頭後壁の炎症が主体である
ファイバーでは見ておりませんが、炎症の中心は「咽頭後壁」であることが多いです。
従来のオミクロン株(BA.1株)は7割程度の方に咽頭中部後壁にリンパ濾胞が認められましたが、BA.5株以降からは咽頭上部中心に炎症が認められる例もでてきました。
2024年から猛威を振るっている「JN.1株」「KP.3株」であってもこの傾向はあまり変わりません。
そして、やはり症状が強いことに比例して、発赤の程度も強くなります
② 潜伏期間からは想定することはできない
従来の新型コロナでは潜伏期間が長いことが特徴でしたが、オミクロン株が中心になり症状発現までの日数は短くなっています。
例えば、2023年4月に発表された20,413人を対象としたフランスの報告によると、変異株よって潜伏期間は大きく変わっていることがわかりました。具体的なコロナの平均潜伏期間は以下の通りですね。
- アルファ株:平均4.96 日 (95%信頼区間: 4.90–5.02日)
- ベータ株・ガンマ株:平均5.18 日 (4.93–5.43日)
- デルタ株:平均4.43 日 (4.36–4.49日)
- オミクロン株:平均3.61 日 (3.55–3.68日)
国立感染所研究所の発表でも症状発現までの日数は2-4日であるとされており、BA.5株以降でも同様の傾向がみられています。この点より「潜伏期間が長いから新型コロナ感染症」と想定することはもはやできません。
おそらくオミクロン株が主体となり、ウイルスの増殖能が早まったためと考えられます。やはり、
- 近くの方がコロナに感染していた
- 家族がコロナ感染症になった
- 通っている保育園や学校なでクラスターが発生している
などは、非常に強く新型コロナ感染症を疑いますので、必ずお伝えください。
コロナの潜伏期間については新型コロナウイルスの潜伏期間について解説【最新株・平均日数・オミクロン株】もあわせてご参照ください。
③ 後からのどや咳の症状が強くなることがある
当院では、2023年5月まで新型コロナに感染して3日ほど目安に電話での診察をほぼ全例に行っておりました。その際、通常の鎮痛薬・抗炎症薬を使用しているのにも関わらず
- 「激しいのどの痛みがあり、まるで喉に針が刺さったようだった」
- 「咳に移行してきて、夜も寝られないくらい激しくなっている」
などの症状を訴えて追加で処方することがありました。(もちろん来院当初から「激しいのどの痛み」で来院されることもしばしばです)
5類になってから電話での診察は行っていませんが、やはり稀に「あの時はのどは痛くなかったのに、のどの痛みが辛くて眠れなかった。なんとかしてほしい」と患者さんの方から電話がかかってくることがありますね。
こうした現状から、当院では従来の対処療法薬よりも最初から量を多くしたり、抗ウイルス薬を追加したり、通常の風邪の治療薬と処方を変えて対処することもあります。
一方、通常の風邪でしたら一般的な市販薬でも3-4日程度で軽快することが多いです。(もちろん中には抗生剤などが必要な症例もあるので、「風邪」でも侮らず受診していただきたいです)
④ のどの痛みがかなり強い場合は、症状が長引くことがある
のどの痛みが強いということは、ウイルス量が多かったりウイルスに対して体が反応しやすく、強い炎症を起こしているということ。
当然ですが、最初の炎症が強ければ強いほど炎症が長引くことが想定されます。
ただでさえ、コロナは後遺症として咳や倦怠感が残りやすいウイルスです。したがって、炎症があまりに強い場合は(値段が高いのがネックですが)抗ウイルス薬をすすめることもありますね。(当然ですが強制はしません)コロナの治療薬に関しては、コロナで使われる薬について【一覧・種類・自己負担】を参考にしていただけますと幸いです。
上記が新型コロナ感染症の診療をしていてよく経験するのどの痛みの特徴ですが、多数の症例を経験した今でも「これが新型コロナ?」と思わされる場合もありますので、臨床症状だけで判断するには限界があります。(検査だけも同様です)
ほか、言語化しにくい部分もありますので、「コロナかな?」と疑ったら当院にもご相談いただけますと幸いです。
のどが痛い時の対処法は?
上記の通り「のどの痛み」と一言でいってもケアの方法は様々ですので、ここでは最も多い「咽頭炎」だった場合のケアについてお話していきます。
① 十分な睡眠と休息をとる
のどに炎症が起こっているときは、「これ以上炎症させないこと」が大原則。十分睡眠時間をとって休むようにしましょう。タバコや大声を出すなどの喉の負担をかけるようなものは、のどの痛みを長引かせないためにも、なるべく控えたほうがよいですね。
また、適切な休息を取ることは早い回復につながります。特にコロナでは強いだるさを伴うことがあり、無理して激しいリハビリをすることで後遺症が長引く可能性があります。休む時はしっかり休むようにしましょう。
② 刺激物を控え、水分をたっぷりとる
刺激物をとらないようにしながら、水分をとたっぷりとることで、炎症を和らげることが期待できます。また蜂蜜はのどの炎症や咳症状を抑えることがいわれており、CDC(疾病予防管理センター)でも推奨されています。ただし、1歳未満の子供には蜂蜜は与えてはいけませんで、注意してください。(乳児ボツリヌス症を発症することがあるため)
また、カフェインやアルコールはかえって脱水になる可能性があり、避けた方がよいとされています。もちろんカラオケで歌ったり、タバコを吸ったりするのも気道の炎症を加速させるのでNGです。
食べ物の刺激物の例としては、唐辛子・わさび・マスタードなどの「辛いもの」が代表的ですね。他にも「これを食べるとイガイガするな」と感じるものは控えたほうがよいでしょう。
(参照:Mayo Clinic HP: Sore Throat )
③ 炎症が強い時は冷たいものやトローチを使う
炎症が強い場合は冷やすと和らぎます。具体的には、冷たいゼリーやアイスクリーム・プリンなどものどの刺激が起こらない範囲で使用するとよいでしょう。
またトローチや飴も喉の痛みを和らげるのに有効です。ただし、飴は窒息の危険性があるので、4歳以下の子供には与えないようにしてください。
(参照:CDC「Sore Throat」)
④ のどを十分加湿する
気道の粘膜が乾燥すると、異物を追い出すために必要な「繊毛運動」が弱くなってしまい、ウイルスに感染しやすくなったり、症状が長引きやすくなります。もちろん、のどの炎症の再発予防にも効果的です。
ただし「加湿器肺炎」でも知られていますが、カビや細菌が繁殖しないように加湿器は定期的に掃除するようにしましょう。
⑤ 塩水でうがいする
当院でもうがい液を処方することがありますが、うがい液がない場合は、塩水でうがいするのも効果的です。コップ1杯(200ml)に対して、小さじ1/4-1/2杯くらいの塩水がのどに刺激を与えづらい塩分濃度といわれています。
(参照:Mayo Clinic HP: Sore Throat )
⑥ なるべく人との接触をさけ、マスクを着用する
マスクを着用することで、乾燥した空気に触れず、周りへの感染拡大を防ぐことができます。通常のウイルス性咽頭炎の場合、5日~7日で軽快することが一般的です。この間は感染拡大防止のためにも、他の人との接触を控えましょう。
⑦ 医療機関に受診する
新型コロナの拡大に伴い、なかなか医療機関に受診できずに「なんとか自分で治してしまおう」という方もしばしば見受けられます。
状態によってはかなり危険なことであり、命に係わることもあります。例えば
- のどの痛みが非常に強い場合(特につばを飲み込むのも辛い場合)
- 発熱が強く出ている場合(38度以上)
- 家族で同様の症状がでている場合
- 新型コロナの自己検査で陽性が出ている場合
- 典型的な「風邪」とは症状の経過が異なる場合(通常は喉➡鼻➡咳と症状が数日間続き、徐々によくなる)
- 喉の痛みだけが長く続いている場合
などの場合には、必ず医療機関に受診するようにしましょう。新型コロナが強く疑われる際には、事前に医療機関に電話することを忘れずに。
ご自身の大切な身体です。どうか「ふつうの風邪だから大丈夫だろう」と放置されないよう、早めの対処をお願いいたします。
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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。