みなさんは、こんな症状に心当たりはありませんか?
- 食後や横になったときに、胸のあたりが焼けるように熱くなる
- 酸っぱいものや苦いものが、のど元までこみ上げてくる
- はっきりした風邪でもないのに、咳や声がれ・のどの違和感がずっと続く
これらは「逆流性食道炎(胃食道逆流症/GERD)」のサインかもしれません。胃酸が食道へ逆流して、食道の粘膜に炎症や不快な症状を起こす病気です。実は日本人にとって決して珍しくない病気で、放っておくと生活の質を大きく下げてしまうこともあります。
今回は、逆流性食道炎の症状・原因からお薬、食べ物や寝る向きまで、最新の医学論文と診療ガイドラインのデータにもとづいて幅広く解説します。
逆流性食道炎とは?

逆流性食道炎とは、胃の内容物(とくに胃酸)が食道へ逆流し、食道の粘膜にびらん(ただれ)や炎症が起こる病気です。胸やけや呑酸(どんさん:酸っぱいものがこみ上げる感じ)などの症状を、胃酸の逆流によって起こす状態をまとめて「胃食道逆流症(GERD)」と呼びます。
GERDは大きく2つに分けられます。
- びらん性胃食道逆流症(逆流性食道炎):内視鏡で食道粘膜のただれが確認できるもの
- 非びらん性胃食道逆流症(NERD):症状はあるのに、内視鏡では炎症が見えないもの
日本人を対象とした内視鏡の研究では、GERD全体の有病率は17.9%で、その内訳はNERDが10.9%、びらん性食道炎が8.6%と報告されています。
また、日本人の成人で内視鏡上の逆流性食道炎がみられる割合は14〜16%、胸やけなどの典型的な症状をもつ方は人口のおよそ20%にのぼり、とくに60〜89歳の女性に多いことがわかっています。近年は食生活の欧米化などを背景に、日本でも増えている疾患なのです。
(参照:Systematic review of the epidemiology of gastroesophageal reflux disease in Japan, Journal of Gastroenterology, 2011)
(参照:Prevalence of endoscopically negative and positive gastroesophageal reflux disease in the Japanese, Journal of Gastroenterology, 2005)
逆流性食道炎の症状は?

逆流性食道炎の代表的な症状は、次の2つです。
- 胸やけ:胸の中央が焼けるように感じる
- 呑酸(どんさん):酸っぱい・苦い胃液がのどや口までこみ上げてくる
これらは、食後や横になったとき、前かがみになったときに強くなりやすいのが特徴ですね。加えて、一見すると胃とは関係なさそうな「食道の外」の症状が出ることもあります。例えば、次の通りです。
- 長引く咳・のどの違和感やつかえ感
- 声がれ
- 夜間に胸やけや咳で目が覚めるなどの睡眠障害
意外ですよね。しかし「咳が止まらない」「のどの違和感が続く」といった理由で受診された方が、実は逆流性食道炎だった、というケースも少なくありません。
なお、逆流性食道炎の方は、不安や気分の落ち込みを抱えていることも多いと報告されています。逆流症状をくり返す患者さんを追跡した研究では、44.1%が強い不安、23.8%が強い抑うつの状態にあり、とくに内視鏡で炎症がみられないNERDの方で目立ちました。
なので、気分がおちこみやすく、胃もたれがしやすい方は逆流性食道炎のことも考えて受診していただくとよいと思います。
逆流性食道炎の原因は?

逆流性食道炎は、「胃酸の逆流を防ぐしくみ」がうまく働かなくなることで起こります。食道と胃のつなぎ目には、逆流を防ぐ「下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)」という筋肉の弁があります。これがゆるんだり、胃酸が増えすぎたりすると、逆流が起こりやすくなります。
なりやすさに関わる主な要因は、研究で次のように報告されています(カッコ内のオッズ比は、なりやすさの目安です)。
- 肥満:BMIが標準偏差1つ分増えるごとに、GERDのなりやすさは1.49倍(95%信頼区間 1.40〜1.60)
- 喫煙:現在たばこを吸う人は1.19倍(95%信頼区間 1.12〜1.26)で、およそ23%リスクが高い
- 飲酒:逆流性食道炎のリスクは1.51倍(95%信頼区間 1.13〜1.99)
- 食道裂孔ヘルニア:胃の一部が横隔膜の上にずれ上がる状態で、逆流を強く起こしやすくする解剖学的な要因のことです。
このほか、加齢や、脂っこい食事・食べてすぐ横になる習慣、前かがみの姿勢なども逆流を起こしやすくします。つまり、体質だけでなく生活習慣が大きく関わる病気だといえます。
(参照:Risk factors for gastroesophageal reflux disease: a population-based study, BMC Gastroenterology, 2024 / Adiposity, diabetes, lifestyle factors and risk of gastroesophageal reflux disease: a Mendelian randomization study, 2022)
逆流性食道炎で気をつけたい食べ物・飲み物

「これを食べると胸やけがする」という食品は、人によって異なります。一般に、下部食道括約筋をゆるめたり、胃酸を増やしたり、粘膜を刺激したりするとされる食品には次のものがあります。
- コーヒー・お茶・ミント(下部食道括約筋の圧を下げる)
- チョコレート(カフェインや脂肪を含み、括約筋をゆるめる)
- 高脂肪の食事・揚げ物
- 香辛料の強い料理
- 柑橘類(酸が直接刺激になる)
ただし、ここは誤解されやすいポイントです。これらを一律にやめても症状や合併症が改善したと証明した質の高い研究は乏しく、効果は人によってまちまちです。アメリカ消化器病学会(ACG)のガイドラインでも、「すべての人にいっせいに禁止する」のではなく、問診で自分のトリガー(引き金)になる食品を見つけて、それを避けることがすすめられています。
「症状が出た日に何を食べたか」を簡単に記録してみると、自分のトリガー食品が見つけやすくなります。
(参照:Dietary and Lifestyle Factors Related to Gastroesophageal Reflux Disease: A Systematic Review, Therapeutics and Clinical Risk Management, 2021 / ACG Clinical Guideline for the Diagnosis and Management of GERD, 2022)
逆流性食道炎におすすめの寝方は?

夜間や就寝時に胸やけが強くなる方は、寝るときの姿勢を工夫することで症状がやわらぐことがあります。研究で効果が示されているのは、主に次の2つです。
ひとつは、上半身を少し高くして寝ることです。ベッドの頭側を20cm高くして6週間過ごしてもらったランダム化試験(IBELGA試験)では、症状が改善した人の割合が、工夫をした群で69.2%、何もしない群で33.3%でした。
枕で頭だけを高くすると、首が曲がってかえっておなかを圧迫することがあるため、上半身全体をゆるやかに傾けるのがポイントです。
もうひとつは、左側を下にして寝ることです。体の左側を下にすると、胃の形や位置の関係で胃酸が食道へ逆流しにくくなります。複数の研究をまとめた解析でも、左側を下にした姿勢は、右側を下にした場合や仰向けと比べて夜間の逆流が少なく、食道に酸がとどまる時間も短いことが示されています。
あわせて、就寝の2〜3時間前までに食事を済ませておくと、寝ている間の逆流をさらに減らすことができます。
(参照:Impact of head of bed elevation in symptoms of patients with gastroesophageal reflux disease: a randomized single-blind study, 2020)
(参照:Left lateral decubitus sleeping position is associated with improved gastroesophageal reflux disease symptoms: A systematic review and meta-analysis, 2023)
逆流性食道炎の薬について

生活習慣の見直しだけで十分でない場合は、お薬で胃酸を抑える治療を行います。胃酸を抑える力の強さによって、おもに次のように使い分けます。
- 制酸薬・H2ブロッカー:軽い症状や、必要なときだけ飲む場合に使用
- PPI(プロトンポンプ阻害薬):胃酸を強く抑える、標準的なお薬
- P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー/ボノプラザン):より速く・強く胃酸を抑える、日本で開発された新しいタイプのお薬
近年とくに注目されているのが、P-CAB(ボノプラザン(タケキャブ))です。従来のPPIよりも効果が速く、服用から3時間以内に胃の中のpHを4より高く保てるとされています。
実際の比較試験でも、その効果が示されています。びらん性食道炎の患者さん1,024人を対象に、ボノプラザンとランソプラゾール(代表的なPPI)を比べたランダム化試験では、8週間後の治癒率はボノプラザンが92.9%、ランソプラゾールが84.6%(差は8.3%)で、ボノプラザンのほうが高い結果でした。治った後の再発を防ぐ「維持療法」でも、ボノプラザンが優れていました。
日本の「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)」でも、PPIとP-CABが治療の中心に位置づけられています。
とはいえ、患者さんによっては「タケキャブで副作用がでた」とか「こっちの方が自分にあっている」といわれることもしばしばです。「自分にとっての正解」をお医者さんと一緒にさがしましょう。
なお、PPIなどの胃酸を抑えるお薬を長期に使うことについて、骨折・肺炎やある種の腸の感染症・腎臓への影響などとの関連が報告されています。ただし、これらの多くは観察研究によるもので因果関係は証明されておらず、認知症や腎臓・心臓への影響については結果が一致していません。
どんな薬もそうですが、漫然と使用せず、必要な期間、適切な量で使うことが大切ですね。
(参照:Vonoprazan Versus Lansoprazole for Healing and Maintenance of Healing of Erosive Esophagitis: A Randomized Trial, Gastroenterology, 2023)
(参照:日本消化器病学会 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021)
(参照:Long-Term Proton Pump Inhibitor Use and the Risk of Kidney Disease, Dementia, and Fractures: A Systematic Review, 2025)
逆流性食道炎は自分でも治せます。生活習慣を見直しましょう。

逆流性食道炎は、生活習慣の見直しだけで症状がやわらぐ方も多くいます。なかでも医学的にしっかりとした効果が示されているのが「減量」です。
太り気味の方が体重を減らすと、逆流症状が大きく改善することがわかっています。6か月間の減量プログラムを行った研究(332人)では、81%の方で症状が軽くなり、65%の方では症状が消失しました。別の研究でも、BMIが3.5低下すると、頻繁な逆流症状のリスクがおよそ40%減少(オッズ比0.64、95%信頼区間 0.42〜0.97)したと報告されています。
そのほか、次のような習慣の見直しも有効です。
- 禁煙・節酒(前述のとおり、いずれも逆流の危険因子です)
- 食後すぐに横にならない(就寝の2〜3時間前までに食事を済ませる)
- 食べすぎ・早食いを避ける
- おなかを締めつける服やベルトを避ける
逆流性食道炎は、生活習慣を見直すいいタイミング。ぜひお薬だけに頼らず、生活習慣を見直してください。そして、できることなら主治医の先生と相談しながら、ゆっくり薬をやめられるように頑張っていきましょう。
(参照:Weight loss can lead to resolution of gastroesophageal reflux disease symptoms, Obesity, 2013 / Weight Loss as a Nonpharmacologic Strategy for Erosive Esophagitis: A 5-Year Follow-up Study, 2018)
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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