ヘルパンギーナやインフルエンザ、新型コロナなどさまざまな感染症がありますが、小児から大人へ移りやすい感染症の1つが、「プール熱(咽頭結膜熱)」を代表とするアデノウイルス感染症です。
もちろん手足口病やヘルパンギーナとともに「小児の3大夏風邪」の1つであり、小児にかかりやすい疾患なのですが、当然大人にもかかることがあり、他の感染症と見分けがつきにくいことがあります。
実際、どのように考えていけばよいのでしょうか。
今回は、大人のアデノウイルス感染症の1つである「プール熱(咽頭結膜熱)」の症状や何科にかかればよいのか、出席停止期間などを含めて詳しく解説していきます。
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プール熱(咽頭結膜熱)とは?
プール熱の正式名称は「咽頭結膜熱」といい、数種の型のアデノウイルスによる「発熱(38度~39度)」「のどの痛み」「結膜炎」の3症状を中心とした感染症の1種です。
1950年代にプールやサマーキャンプ、孤児院などの子供たちを中心に流行して以来、この名前が付けられました。
アデノウイルスは図のように正20面体のDNAウイルスで67以上の型が報告されています。プール熱の流行を引き起こすのは主に「3型」ですが、「2型」「4型」「7型」「14型」など他の型による場合もありますね。
実は、アデノウイルス感染症のすべてが咽頭結膜炎をきたすとも限りません。流行角結膜炎や肺炎、出血性膀胱炎や胃腸炎など様々な症状をきたすことがあります。
(参照:国立感染症研究所「咽頭結膜熱とは」)
(参照:The Role of Adenovirus in Respiratory Tract Infections. Curr Infect Dis Rep. 2010; 12(2): 81–87.)
2023年、異例の流行を見せる「プール熱」
アデノウイルスを中心としたプール熱は、その名の通り、通常は小児を中心に6月頃から徐々に増加しはじめ、7~8月にピークを迎えるのが一般的です。
しかし特に2023年は9月から異例の流行を見せ始めており、東京都では10月に警報基準となりました。
2023年第40週(10月2日から10月8日まで)の都内264か所の小児科定点医療機関から報告された定点当たり患者報告数(都内全体)は2.11人(/週)となっており、警報レベルにある保健所の管轄内の人口の合計が30%を超える事態となりました。
感染症発生動向調査での罹患年齢からは、5歳以下が82%を占めると考えられていますが、特に流行レベルが高い場合、子供を介して大人も十分感染する可能性があります。そのため、流行時期は大人もアデノウイルスを意識した感染対策が必要です。
(参照:東京都感染症情報センター「咽頭結膜熱の流行状況」)
(参照:東京都「咽頭結膜熱(プール熱)が流行、都内で警報基準に達する」)
大人のプール熱(咽頭結膜熱)の症状は?
大人のプール熱はどんな症状の特徴があるのでしょう?
具体的には、約5~8日(最大12日)の潜伏期間を経たのち、以下の症状が出現することが一般的です。
- 発熱:38度~39度になることもしばしばあります。
- 咽頭炎による喉の痛み
- 頭痛や食欲不振
- 結膜炎に伴う結膜充血
- 結膜炎に伴う目の痛みや羞明
- 首のリンパ節の腫れ(特に首の後ろ)
通常は3~5日くらい続き、徐々に軽快していきます。
ただし、実際の患者さんを診ているとアデノウイルス陽性だったとしても、すべての症状がそろっているわけではなく、「発熱とのどの痛み」だけの場合も十分ありますね。咳ものどの痛みがあるため、異物を外に出そうとして出てくることもあります。
なので、流行状況や感染経路に応じて、アデノウイルスに対しても迅速検査するようにしています。
症状の中で特に特徴的なのは、やはり「目の所見」です。通常片側から出現し、両側へと移行します。(診察時には両側の結膜炎になっていることが多いですね)
結膜が下側中心に充血していることが特徴で、しばしば目の違和感を訴えます。
(参照:Adenovirus: ocular manifestations)
(参照:国立感染症研究所「咽頭結膜炎とは」)
プール熱(咽頭結膜熱)とコロナやヘルパンギーナの違いは?
プール熱と似ている疾患として「新型コロナ」や「ヘルパンギーナ」がありますが、どういった点で異なるでしょうか。まとめると次のようになります。
① 目の所見の有無
前述しましたが、プール熱の別名は「咽頭結膜炎」なので目の所見は重要です。本人も気づいていませんが、それなりに目の充血感が出ていることがあります。
新型コロナもEG.5株になり、小児の充血例が多くなったとする報告もありますが、プール熱の結膜炎の方が圧倒的に多いですね。
ただし、大人の場合にはアデノウイルス感染症でも目の所見が乏しい場合があり、注意が必要です。また、逆にあまりに目の症状が強い場合には眼科に紹介することもあります。
② のどの所見の違い
ヘルパンギーナには非常に特徴的なのどの所見があります。口の奥の上のほうである「軟口蓋から口蓋弓」にかけて直径1~2mm程度・大きいもので5mm程度の水ぶくれができます。
一方、プール熱や新型コロナは咽頭後壁を中心とした全体的な発赤が主体であり、ヘルパンギーナとは異なります。しばしば、「この喉の所見は新型コロナよりアデノウイルス寄りだな」ということも分かることもありますが…感覚的で伝えにくいですね。
それくらいアデノウイルスと新型コロナの喉の所見は、よく似ていることもしばしばです。
➂ 迅速キットでの鑑別
なにより一番手っ取り早いのは、迅速キットやPCR法による鑑別でしょう。
ヘルパンギーナは様々な種類のウイルスにより発症するため迅速キットはありませんが、アデノウイルスと新型コロナには迅速診断キットがあり、10分程度で鑑別を付けることができます。
ただし、「アデノウイルスと新型コロナの同時検査キット」はないので、2回綿棒を挿入することになりますね。
なので、「プール熱などのアデノウイルス感染症は何科にいけばよいのか」という質問をたびたび受けますが、何科にこだわらず迅速キットがある医療機関やクリニックに行くことがオススメです。
そして、のどの所見を見慣れている「耳鼻咽頭科」や「小児科」「内科」などの科がオススメな科になります。
新型コロナやヘルパンギーナの特徴については、下記も参考にしてみてください。
プール熱(咽頭結膜熱)はうつる?
プール熱はもちろん大流行するほどなので、人にうつす可能性があります。
プール熱(咽頭結膜熱)は
- ウイルスが唾液やくしゃみに含まれる飛沫から感染する「飛沫感染」
- 汚染されたプールの水やお風呂の水から結膜に入る「接触感染」
などで感染すると考えられています。なので、家族内で感染された方がいた場合、マスクをしたり、こまめに手洗いすることは感染予防として有効ですね。
また、結膜を介してうつるので、特に保育園や幼稚園などで流行が起こっている場合、目のあまり触らないことも大切になります。
ちなみに、アデノウイルスに対する消毒用エタノールの消毒効果は弱いことが知られています。なので、手洗いは流水と石鹸でよく洗うか90%エタノ-ルを使う必要がありますし、器具に対しては煮沸したり次亜塩素酸ソーダを使ったりする必要があります。
もっとも人に移す可能性が高いのは症状がでて数日間ですが、3 ~ 6 週間はのどや便の中に検出されているという報告もありますので、特に感染された方の排泄物や接触して汚染された水、唾液などを扱う際には注意してください。
(参照:国立感染症研究所「咽頭結膜炎とは」)
(参照:Pathogen Safety Data Sheets: Infectious Substances – Adenovirus types 1, 2, 3, 4, 5 and 7)
プール熱(咽頭結膜熱)の治し方は?
プール熱には残念ながら抗ウイルス薬はありません。そのため、症状にあわせた治療である「対症療法」が中心となります。
発熱や頭痛、目の症状などに対して解熱・鎮痛剤・点眼薬などを用いることがありますね。
何より大切なのは「プール熱ときちんと診断してもらう」こと。のどの痛みや発熱、だるさなどの全身症状、目の症状が特徴的なプール熱ですが、中には目の症状が乏しく、他の感染症と見分けがつきにくい場合もあります。
そして、中には抗生剤や抗ウイルス薬など、特殊な治療薬がないと治らない疾患もたくさんあります。きちんと医療機関で診断してもらうことが大切ですね。
プール熱(咽頭結膜炎)の出勤停止・出席停止期間は?
では、プール熱だと診断された場合、どのくらいの間学校や仕事を休まなければならないのでしょうか。
学校保健法によると、プール熱と診断されたら「熱やのどの痛み、結膜炎などの主要な症状がなくなってから2日間が過ぎるまで」出席は停止となります。
そのため、仕事の場合も、他のウイルス感染症同様、学校保健法に準じて出勤停止にする会社が多いですね。
ただし、明確な出勤停止期間が定められているわけではありません。症状に合わせて会社と相談し、体調がよくなってから出勤するようにしましょう。
感染力が強いウイルスなので、症状が治まった後もマスクなどの感染対策を忘れずにお願いします。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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