新型コロナで使われる漢方薬について【麦門冬湯・桔梗湯・補中益気湯】

新型コロナの医療ひっ迫を受けて、市販薬とともに需要が高まっているのが「漢方薬」です。実際、医療機関でも使われることが多い漢方薬ですが、市販で売られている漢方薬についてはどのように考えればよいのでしょうか。

今回、新型コロナやウイルス感染症に対する漢方薬の効果と、新型コロナやウイルス感染症で使われやすい代表的な漢方薬について解説していきます。

新型コロナに対する「葛根湯」や「市販薬」の使い方はそれぞれ

を参照してください。

新型コロナに対する漢方薬の効果は?

(2022年の日本の多施設共同研究より抜粋)

新型コロナに対する漢方薬の効果はどれほどなのでしょうか?2020年1月~2021年10月まで行われた、新型コロナの軽症~中等症Iの患者を対症に行った23施設共同観察研究による962名の研究からは以下のことが言われています。

  • 漢方薬を使用しても、発熱・咳・下痢・倦怠感・呼吸困難が改善するまでの日数は変わらなかった
  • 一方、ステロイド投与を受けず、発症から4日以内に治療を開始した症例に限定すると、呼吸不全の悪化のリスクは有意に改善した(背景因子をそろえた場合:呼吸不全になった方は漢方群 1例/74例 に対して、対象群は74例中8例)

ということは、肯定的に解釈すると「漢方薬を発症4日以内に改善すれば、重症化のリスクを減らす可能性が多少ある」といえますね。しかし、この論文では以下の点に注意が必要です。

  • そもそも漢方薬は「個人の性質(=証)」によって処方を個別に変える必要があり、「漢方薬」とひとくくりに解釈できない点
  • 医師の下、適切に使用しても、症状緩和までの日数改善には至らなかった点
  • 症例数は多いとはいえ観察研究であるため、エビデンスレベルとしては低い
  • 対象時期が2020年~2021年10月のため、現在のオミクロン株に対する検証ではない点

私自身は症例を考えながら適切に処方すれば、漢方薬は非常にいい効果があると実感します。しかし、「漢方薬を飲んでいるから抗ウイルス治療などの従来の治療は必要ではない」ということは決してありません。後遺症や重症化を防ぐ意味でも、必ず早めに医療機関に受診いただき、適切に受診するようにしましょう。

新型コロナでよく使われる漢方薬について

それでは、新型コロナで実際よく使われている漢方薬について紹介していきます。葛根湯については最新の論文も含めて別稿漢方薬「葛根湯」の新型コロナへの効果や副作用・使用上の注意点について解説でも解説しておりますので、あわせてご参照ください。(なお、順番や掲載しているものは「市販薬として手に入りやすい」「証として幅広く使いやすい」ことを考慮しています)

① 麦門冬湯(ばくもんどうとう)

麦門冬湯は、体力中等度以下で、たんが切れにくく、ときに強くせきこみ、又は咽頭の乾燥感がある方の咳や咽頭炎などに使う漢方薬です。咳の中では最も使われている漢方薬の1つです。

生薬としては「麦門冬(バクモンドウ)」「粳米(コウベイ)」「大棗(タイソウ)」「半夏(ハンゲ)」「人参(ニンジン)」「甘草(カンゾウ)」からなり、それぞれの生薬の効能は次の通りです。

  • 麦門冬:ユリ科のジャノヒゲというひげ根の一部。糖類・ステロイドサポニンなどが含まれます。気道・皮膚・粘膜を潤す作用があり、痰を切れやすくする効果があるとされています。
  • 粳米:「うるち米」と言えばわかりやすいですね。実際にはうるち米の玄米です。胃腸を整え、元気をつけたり、喉の渇きを抑える効果があるとされています。
  • 大棗:棗(ナツメ)を乾燥させたもの。筋肉の急な緊張をやわらげたり、神経過敏を沈める作用があるといわれています。
  • 半夏:サトイモ科のカラスビシャクの球茎です。成分としてホモゲンチジン酸やエフェドリン・コリンなどが含まれ、吐き気を減らしたり唾液の分泌を促進したり、咳を抑える効果や腸管の動きをスムーズにする効果があるといわれています。
  • 人参:「朝鮮人参」としておなじみですね。成分として人参サポニンとして「ジンセノシド」が含まれています。主に抗疲労、抗ストレス作用があるといわれ、神経を安定にさせる効果があるといわれています。
  • 甘草:モンゴルや中国などに分布するマメ科の多年草。主な有効成分はグリチルリチンです。ステロイド様作用、抗炎症作用などがあるといわれています。

簡単にいうと、麦門冬湯は「気道の炎症を沈め、咳を誘発する神経をやわらげる作用や体自体を元気にする作用が中心の漢方薬」ですね。痰切りの「ムコダイン」や「アレルギーを抑える飲み薬」を合わせて飲んでも問題ありません。

非常にまれに大量服用でむくみが強くなったり「間質性肺炎」になることがあるので、ご注意ください。

② 補中益気湯

補中益気湯は体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすい方に使われる漢方薬。ウイルス性感染症でのだるさや倦怠感でも使われます。

生薬としては「黄耆(オウギ)」「蒼朮(ソウジュツ)」「人参(ニンジン)」「当帰(トウキ)」「柴胡(サイコ)」「大棗(タイソウ)」「陳皮(チンピ)」「甘草(カンゾウ)」「升麻(ショウマ)」「生姜(ショウキョウ)」と10種類にも及びます。例えば、代表的な生薬の作用は以下の通りです。

  • 黄耆:マメ科キバナオウギやナイモウオウギの根。栄養ドリンクにもよく入っています。主な成分なフラボノイドやサポニン・GABAなど。人参と並ぶ滋養強壮薬です。
  • 蒼朮:ホソボオケラやシナオケラの根茎のこと。消化管や水分代謝の異常に対して、水分の調子を整え、発汗を促し、胃や腸を正常化する作用があるといわれています。
  • 当帰:トウキやホッカイトウキの根を乾燥させたもの。リグスチライドやクマリンなどが主な成分です。血のめぐりをよくし、鎮痛や腸の調子を整える作用があります。

簡単にいうと、補中益気湯は「胃腸の調子を高めて食欲をよくし、気や血のめぐりをよくすることで疲れを改善する効果」が期待された漢方薬になりますね。

こちらも甘草が含まれるので、動悸やむくみを感じることがあります。また漢方薬による薬疹や肝機能異常、間質性肺炎なども起こることが稀にあるので注意しましょう。

③ 小柴胡湯加桔梗石膏・桔梗湯・銀翹散

のどの痛みとしてよく使われる漢方薬が「小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)」「桔梗湯(ききょうとう)」などです。

小柴胡湯加桔梗石膏は、東北大学の研究チームが、葛根湯との合方によるコロナへの有用性を報告していました。(詳細はこちら)上記の論文でも最も使われる薬ですね。

小柴胡湯加桔梗石膏は、柴胡(サイコ)、黄ごん(オウゴン)、石膏(セッコウ)、桔梗(キキョウ)、半夏(ハンゲ)、人参(ニンジン)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)と9種類の生薬を使います。主に体力が中くらいでみぞおちに張りがある方が対象とされています。柴胡や黄ごん、石膏が炎症を沈める効果があり、桔梗が去痰や排膿作用があるといわれています。

一方、桔梗湯は「甘草(カンゾウ)」と「桔梗(キキョウ)」のみのシンプルな処方。体力に関わらず使用でき、喉が腫れて痛み、時に咳がでる方に使用されます。よく扁桃炎や扁桃周囲炎に用いられますね。甘草の量が多いので、長期に使用される際には注意が必要です。

あと、ドラッグストアで購入できる喉の痛みの漢方薬として、例えば「銀翹散(ぎんぎょうさん)」があげられます。銀翹散は、連翹(レンギョウ)、金銀花(キンギンカ)、桔梗(キキョウ)、薄荷(ハッカ)、淡竹葉(タンチクヨウ)、甘草(カンゾウ)、荊芥(ケイガイ)、淡豆豉(タンズシ)、牛蒡子(ゴボウシ)の9種類の生薬が配合されており、ウイルス感染症による喉の痛みや頭痛・せきなどの症状に効果があるとされています。

「新型コロナ感染症で使われる漢方薬」のまとめ

いかがでしたか?他にも、もっといっぱい使用している漢方薬はあるのですが、長くなりすぎてしまうのでここまでにします。

ただし、繰り返しますが一番注意してほしいのは「新型コロナで漢方薬は補助的な役割である」ということ。先の論文で見ていただいた通り、漢方薬は抗ウイルス薬以上の効果を実証した論文はまだありません。(2022年12月現在

新型コロナにかかられた際には、とりあえず医療機関になかなか受診できない場合の「つなぎ」として漢方薬を併用しながら、罹患後症状や重症化を予防する意味でも早めに医療機関に受診をお願いいたします

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