神経痛・神経障害性疼痛の原因や症状・薬について解説

  • 突然チクっとした痛みが胸にある
  • 寒い所にいくと顔がピリピリ痛むことがある
  • 帯状疱疹にかかった後からの痛みがなかなか治らない

このような方は「神経障害性疼痛」かもしれません。一之江駅前ひまわり医院では「神経障害性疼痛」についても患者さんのニーズに合わせて治療を提案しています。

神経痛・神経障害性疼痛とは?

神経障害性疼痛とは「神経が障害され過敏になることで、痛みの信号が出すぎてしまう状態」のことです。そもそも痛みは全部で3種類あります。

  • 侵害受容性疼痛
  • 心理社会的疼痛
  • 神経障害性疼痛

侵害受容性疼痛とは、「体にダメージが加わった時に痛みを感じる疼痛」のこと。ケガしたときに痛みを感じますよね。これは神経に障害がなければ体の正常なサインです。

ケガだけでなく、さまざまな炎症が起こった時に「体に異常なことが起こっている」サインとして痛みの形で脳に伝えます。そのため「痛み」は本来、人間を外の脅威から身を守る「危険信号」として大切な役目を担っています。

したがって、炎症をおさえる薬(ロキソニンやカロナールなど)を使えば、侵害受容性疼痛をある程度抑えることも可能です。

少し似た概念ですが「心理社会的疼痛」というのもあります。これは、心理的要因や社会的要因が絡み合った結果、「痛み」として出てくるものです。この場合、痛みをさまざまな角度からアプローチして治療する必要があります。

それに対して、神経障害性疼痛では「『痛み』と感じる必要がない状態でも、神経が過敏に反応して脳に「異常」を知らせる」タイプの疼痛のこと。単なる「気のせい」ではなくて、神経にダメージが加わって異常に興奮してしまっている状態ですね。

この場合、体に炎症が起こっているわけではないのですが、「痛み」のサインだけを間違って出してしまっています。そのため「炎症を抑える薬」を抑えてもなかなか効果がないのです。

そのため、神経障害性疼痛に特化した特殊な薬や治療を行うことが多いです。

実は、神経障害性疼痛は数多くいる「隠れ疾患」の1つ。

5,328人を対象に行われた臨床試験では、神経障害性疼痛を持っている方は10.6%もいると報告されています。10人に1人持っていると考えると、意外と身近な疾患といえますね。特に

  • 女性の方
  • 60歳以上の方

に多いという結果になっています。さらに同研究では、神経障害性疼痛は「痛みの強さ」「持続時間」ともに他の慢性疼痛よりも高い傾向にありました。痛みによる生活の質の低下を考えると、早急に治療されるべき疾患と言えるでしょう。

(参照:慢性疼痛治療ガイドライン
(参照:Prevalence of chronic pain with neuropathic characteristics in the Moroccan general population: a national survey

神経痛・神経障害性疼痛の症状は?

通常の痛みとは違う神経痛や神経障害性疼痛には症状の出方に特徴があります。

日本で開発された「神経障害性疼痛スクリーニング質問票」では、以下の7項目を主な症状の特徴としてあげていますね。

  1. 針でさされるようなチクチク、ズキズキとした痛み
  2. 電気が走るような痛み
  3. 焼けるようなヒリヒリする痛
  4. しびれの強い痛み
  5. 衣類が擦れたり、冷風に当たったりするだけで痛みが走る(食事や歯磨きの時なども痛みが出てくることがあります)
  6. 痛みの部位の感覚が低下していたり、過敏になっている
  7. 痛みの部位の皮膚がむくんだり、赤や赤紫に変色している

実際、以上の7項目について0点(全くない)~4点(非常に強くある)までで自己採点してみましょう。0点~28点中、9点以上で神経障害性疼痛の可能性が高くなります。(感度70%、特異度76%)

  • 何もしていないのに痛くなる
  • 突然痛くなったりうずいたりする
  • 痛みを感じる部位を動かしにくいこともある

痛みにより不安やうつ・不眠・イライラが出てしまうのも、神経痛・神経障害性疼痛の合併症になります。

神経障害性疼痛(神経の痛み)の原因は?

「神経が勝手に興奮して痛みを感じる」のが神経障害性疼痛ですが、その原因はさまざま。主に以下が主な原因としてあげられます。

  • 糖尿病 -:高血糖は神経に損傷を与えることがあり、これが糖尿病性神経障害を引き起こす原因となります。全身の神経が障害されるので、特に弱い足や手の末端を中心に痛みやしびれが出てくるの特徴です。
  • 帯状疱疹後神経痛 : 帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされ、回復後も持続的な痛み(帯状疱疹後神経痛)を経験する人がいます。
  • 外傷や手術後 :物理的な損傷や手術が神経を直接傷つけることがあります。よくある坐骨神経や「交通事故の後にビリビリした感じが続く」という人も多いですね。
  • 中枢神経系にダメージがある :脳卒中、脊髄損傷、多発性硬化症などの状態は、中枢神経系の損傷を引き起こし、結果として神経障害性疼痛が生じることがあります。
  • 化学物質:アルコールの過剰摂取や特定の薬剤(抗がん剤など)も、神経損傷を引き起こし、神経障害性疼痛を誘発する可能性があります。
  • 自己免疫疾患 -:ギラン・バレー症候群や全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患でも、神経系に影響を及ぼし、疼痛を引き起こすことがあります。
  • 遺伝的疾患 :ファブリー病や遺伝性感覚自律神経障害など、特定の遺伝子変異によって引き起こされる疾患は、神経障害性疼痛を生じることがあります。

当院では神経障害性疼痛の原因を問診や血液検査などで、基礎疾患を検索するようにしています。

また、以下の状態の場合、障害された部位だけ神経障害性疼痛が部分的に出ることがあります。

  • 三叉神経痛 :顔の特定部位に強い痛みを引き起こす状態で、三叉神経が圧迫されるか刺激されることで生じます。片頭痛もある意味「神経痛」の1種ですね。
  • 坐骨神経痛 : 下半身、特に足に痛み、しびれなどを引き起こす状態です。多くの場合、不適切な姿勢や過度な外力による椎間板ヘルニアや腰部の神経根の圧迫などが原因です
  • 腕神経叢障害 – 腕、手、指に痛みやしびれを引き起こします。事故や手術後の損傷、腫瘍による圧迫などが原因で生じることがあります。
  • 帯状疱疹後神経痛 – 帯状疱疹の感染が治癒した後も痛みが続く状態。帯状疱疹ウイルスが神経細胞内で活動を続けることが原因といわれています。
  • 腫瘍:腫瘍が直接神経を圧迫したり、神経自体に腫瘍ができたりすることで、神経にダメージを与えるのが原因です。

これらの場合は、MRIなどの画像検査が必要になることもありますね。

神経障害性疼痛(神経の痛み)に対する薬は?

神経障害性疼痛に使われる薬は非常に多岐にわたりますが、代表的な薬は以下の通りです。

① プレガバリン(リリカ®)

プレガバリンは、神経同士の伝達物質であるカルシウムイオンの量を減らすことで、神経の興奮を抑えて鎮痛作用を発揮する薬です。日本ペインクリニックの神経障害性疼痛ガイドラインでは第1選択薬の1つにあげられている薬です。

帯状疱疹後の神経痛の方にプレガバリン300mgを13週間投与した結果、疼痛スコアが有意に減少したというデータがあります。(詳細はこちら)糖尿病の方の末梢神経のしびれにも効果的です。

主な副反応としては、不眠・めまい・頭痛などがみられることがあるため、徐々に投与量を増やしながら見ていく必要があります。減量の場合も同様です。

② ミロガバリン(タリージェ®)

ミロガバリンもプレガバリン同様、神経でのカルシウムイオンの流入を抑えることで、鎮痛作用を発揮する薬です。2019年に販売が承認された比較的新しい薬です。

帯状疱疹後の神経痛の方に同様に13週間投与した結果、痛みの程度が改善した臨床試験があります。(詳細はこちら)プレガバリン同様、糖尿病の末梢のしびれにも効果があります。

副反応もプレガバリン同様、眠気やめまい・むくみなどがあるので、徐々に量を増やしながら反応を見る必要があります。減量の場合も同様です。

③ 三環系抗うつ薬(トリプタノール®など)

三環系抗うつ薬は、脳の神経伝達物質である「セロトニン」「ノルアドレナリン」を神経に再度回収するのを防ぐ薬です。量が多くなった神経伝達物質は「下行性疼痛抑制系」(痛みに関わる末梢側にいく神経のこと)の機能を高めて、痛みの伝達を遅らせます。

こちらの薬も神経障害性疼痛の方に投与すると、8週前後で改善が認められた詳細はこちら)ため、 神経障害性疼痛ガイドラインでは第1選択薬の1つにあげられています。

ただし閉塞隅角緑内障の方・心筋梗塞回復初期の方・前立腺肥大のある方は投与できない他、

多くの併用注意薬がある点・循環器系や精神神経系に副作用がでる可能性があるため、低用量から開始し、慎重につかわれるべき薬です。

④ セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(サインバルタ®など)

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬も、三環系抗うつ薬同様、 「下行性疼痛抑制系」 を活性化させて痛みの伝達を遅らせる薬です。こちらも 神経障害性疼痛ガイドラインでは第1選択薬の1つにあげられています。

こちらも糖尿病性の神経障害を中心に、神経根症を伴う腰痛症などにも効果を発揮します。(詳細はこちら

副反応に吐き気や眠気などがあるため、徐々に増量する必要がありますが三環系抗うつ薬 よりも軽度になっています。ただし、高度の肝機能障害や腎機能障害がある方・コントロール不良の閉塞隅角緑内障の方は使用できないので注意してください。

⑤ ノイロトロピン®

ノイロトロピン®は「ワクシニアウイルス接種家兔炎症皮膚抽出液」が一般名称です。文字通り兔の皮膚から抽出したエキスを用います。

特に帯状疱疹後の神経痛に対して日本で臨床試験が行われ、鎮痛効果が示されている薬です。(詳細はこちら

作用機序は分かっていない部分も多いですが、20年以上の臨床使用の歴史を持ち、安全性が高いことが特徴です。副反応に、発疹・肝機能障害などがあります。

⑥ オピオイド鎮痛薬(トラマール®)

トラマール®は、オピオイドとよばれる系統でがんの痛みを抑える特殊な薬ですが、神経障害性疼痛としても第2選択薬として用いられます。がんに用いられる特殊な薬で、精神依存は少ないですが、長期使用には注意が必要とされています。(添付文書はこちら

副反応に吐き気や便秘・嘔吐があるので、短期的に使用してみて効果を確かめながら使用します。

また、神経の修復を助ける薬やビタミンを使用したり、漢方薬(牛車腎気丸・抑肝散・桂枝加苓朮附湯など)を使用することもありますが、当院では患者さんの「証」や状態を見て判断しています。

神経障害性疼痛(神経の痛み)の他の治療法は?

神経障害性疼痛の薬物以外の治療方法として、下記が考慮されます。(その場合、専門施設に適宜紹介させていただきます)

  • 神経ブロック: 痛みで傷ついた神経の周辺に麻酔薬を注射することで、痛みをなくす方法です。すべての神経に行えるわけではありませんが、神経に直接麻酔するため1-2時間程度で痛みは消失します。持続時間は、1日できれてしまう人もいればそのまま痛みが改善する人もおり、人それぞれです。
  • 理学療法・作業療法: 痛みによって、活動が制限されている場合に、効果的なことがあります。痛みに応じたストレッチやエクササイズプログラムを行うことで、痛みの軽減や、痛みに対する恐怖を取り除くことができます。
  • 手術:脊髄硬膜外電気刺激療法・後根切断術・脊髄交連切断術など様々な治療法がありますが、これまでの治療でどうしても改善せず、手術の適応となる病気については、手術が選択されることもあります。

神経障害性疼痛についてのまとめ

神経痛・神経障害性疼痛の症状や原因・治療法について解説してきました。まとめると次のようになります

  • 痛みは大きく「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「心理社会的疼痛」の3種類あるが、神経痛は「神経の過剰な興奮」が原因で起こる疼痛のこと。
  • 神経痛は「針で刺されたような痛み」「電気が走る痛み」などが特徴であり、障害された部位のしびれや違和感が強くでる
  • 治療としては、薬物療法もブロック注射もあるが、患者さんによって治療法は大きくことなる。

といえます。

神経障害性疼痛は治療も時間がかかり、痛みや違和感がずっと続くのでかなり辛い思いをする疾患ですよね。当院では患者さんの生活状況をお聞きしながら、薬物療法を中心にケアをさせていただきます。

時間はかかりますが、一緒に寄り添って診療させていただきますので、ぜひご相談ください。

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【この記事を書いた人】 
この記事は、当院院長の伊藤大介と麻酔科医師と共同で作成しました。プロフィールはこちらを参照してください。

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