こんにちは、一之江駅前ひまわり医院の伊藤大介です。
風邪やインフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の治療に欠かせない「去痰薬」。いわゆる「痰切り」ですね。「痰のからみを抑えるんでしょ?」と漠然と考えていても、実際どういった違いがあるか知っている方はなかなか少ないでしょう。
今回、代表的な「去痰薬」であるムコダイン(カルボシステイン)・ムコソルバン(アンブロキソール)・ビソルボン(ブロムヘキシン塩酸塩)について、それぞれの特徴や違いについて解説していきます。
痰のからむ咳の原因については痰が絡む咳はコロナ?咳や痰の原因や対処法について解説を参照してください。
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去痰薬(痰切り薬)とは?
去痰薬とは、気管支や肺から痰を排出しやすくするために使用される薬の一種です。「痰切り薬」として使用されることが多いですね。
痰は本来「異物が気道に侵入した際に外に出しやすくする」ために作られる物質です。異物はウイルスだったり花粉だったり様々ですが、異物はスムーズに外へ出されなければなりません。
そのために活躍しているのが、痰ですが、あまりに異物の量が多いと外にかえって出しづらくなったりしてしまうのです。そのため
- 痰自体の性状を変えてさらさらにする
- 気道を正常化させて痰が出しやすい環境にする
ようにして痰を出しやすくするのが、去痰薬(痰切り薬)なのです。
痰切り薬には「カルボシステイン(ムコダイン®)」「アンブロキソール(ムコソルバン®)」「ブロムヘキシン(ビソルボン)」の3種類があり、それぞれの特徴は上図のようになります。
では、順番にみていきましょう。
カルボシステイン(ムコダイン)の痰への効果は?
カルボシステインの主な働きは「痰自体を変化させ外に出しやすくし、気道の粘膜を正常化する」作用があります。(気道粘液修復薬)さらに、痰の量も抑える効果を持つのが特徴です。
痰は94%が水分で残りが「ムチン」という糖成分で構成されています。普段はムチンの中の「シアル酸」と呼ばれるムチンの割合が多くサラサラしていますが、ウイルスや細菌感染など気管支に異物が侵入すると「フコース」と呼ばれる成分が増加して、粘り気の強い痰に性状が変化します。
粘り気の強い痰は異物を絡めとるのには最適ですが、あまりに粘り気が強くなったり、外へ送るために必要な気道粘膜の「線毛」の運動が低下すると、痰そのものを外へ出すことができません。
カルボシステイン(ムコダイン)は
- 痰の「シアル酸」と「フコース」の構成比を正常化して、正常な生理的気道液に近い状態にする
- 痰を外にだす「線毛運動」の機能を改善し、線毛細胞の減少を抑える
働きをもっており、痰をスムーズに外に排泄するのを助けます。
カルボシステインは特にタバコによる慢性気管支炎(COPD)に対して、多くの有用性が報告されており、効果も非常によく確認されている薬の1つです。
ちなみにカルボシステインは中耳炎に対してもよく使用されます。カルボシステインには耳管の粘液線毛輸送能を改善したり、粘膜を正常化し、中耳貯留液を排泄させる働きがあるからです。この働きはカルボシステイン特有のため、例えば「耳がこもった感じがする」という方はカルボシステインが適しているといえます。
アンブロキソール(ムコソルバン)の痰への効果は?
カルボシステインは痰そのものの性状を変化させるのが主体なのに対して、アンブロキソール(ムコソルバン)は「気道粘膜の滑りをよくして痰の排出をうながす薬」です。(気道粘液潤滑薬)
人間には、粘り気のある痰でも外に出しやすくするためのシステムが元々備わっています。
1つは前述でも軽く触れた「気道粘膜の線毛運動」です。気道粘膜は実際には多くの毛がびっしり生えており、外へ外へ痰を送り出すように動きます。
もう1つは「肺サーファクタント」と呼ばれる表面活性物質です。1つひとつの肺胞の表面を覆い、表面張力を弱めることで肺胞を膨らみやすくしています。さらに、痰や気道粘膜の潤滑油の役割も担い、線毛の運動を活性化します。
アンブロキソール(ムコソルバン)では、肺サーファクタントの分泌を促したり、線毛運動を活性化させることで、痰を排泄させやすくします。そのため、痰の性状を問わず痰を排出を容易にします。
アンブロキソールは40年以上使用され、多くの臨床試験で慢性の気管支炎や局所の抗炎症作用が確認されている薬です。
ブロムヘキシン(ビソルボン)の痰への効果は?
ブロムヘキシン(ビソルボン)は「気道粘液溶解薬」と呼ばれる薬の一種で、ムチンの線維を分解して、細かくすることで、痰の粘り気を下げる薬です。
粘り気そのものを低分子にするため「溶解薬」というのですね。他には、気道粘液からサラサラにする成分の分泌を促進したり、肺サーファクタントの分泌を促進する作用、線毛運動の亢進作用も確認されています。
しかし、粘性の低い痰に処方すると逆に痰が出しづらくなることがあるため、粘性が高い痰に処方しますし、カルボシステインのように痰の量を減らすというわけではないので注意が必要です。
ブロムヘキシンも上気道感染や慢性閉塞性肺疾患(COPD)中心に多くの臨床試験で評価され、中等度の有用性を持つ薬として確認されていますが、上記2つと異なり慢性副鼻腔炎や蓄膿症(ちくのうしょう)の排膿には基本的に使用されません。
よく痰のからみは鼻の異常を伴うことが多いため、最近日本ではブロムヘキシンよりカルボシステインやアンブロキソールが去痰薬の中心になりつつあります。
去痰薬(ムコダイン・ムコソルバン・ビソルボン)の違いのまとめ
以上のまとめを再揚すると次のようになります。去痰薬であるムコソルバン・ムコダイン・ビソルボンの大まかな使い分けとしては
- 痰の量自体を抑えて、正常なサラサラの状態にさせる場合はカルボシステイン。また副鼻腔炎や中耳炎などを合併していると考えられるときもカルボシステイン(ムコダイン)。
- 肺や副鼻腔の環境を改善することで、粘度を保ちながら出しやすくさせたい場合は、アンブロキソール(ムコソルバン)
- 非常に硬くて出しづらい痰が引っかかっている場合は、ブロムヘキシン(ビソルボン)
ということになりますね。実際の診療では、これまでの臨床経験から「どの部分の環境が悪くなって今の症状が出ているか」を考えながら、他の薬との相互作用も考慮し処方しています。
上記を見るとわかる通り、ムコダインやムコソルバンはかなり違う作用機序のため、両者を併用すると「痰の性状や量を押さえながら痰を出しやすくする環境を整える」ということでさらに有用になります。そのため、特に痰のからみが強い場合はしばしば併用して処方することもあります。
去痰薬では以上ですが、大切なのは原因です。多くの疾患で「痰のからみ」が生じますが、それが何が原因でそうなっているかを知ることが大切。詳しくは痰が絡む咳はコロナ?咳や痰の原因や対処法について解説でも解説してますので、あわせて参考にしてください。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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