大人のRSウイルスの症状や検査、出勤停止期間について

RSウイルスというウイルスをご存じですか?もしかすると子供がいないご家庭だと、あまり知らない人も多いかもしれませんね。

RSウイルスやよく乳幼児の呼吸器感染症として有名ですが、実は大人にも感染するウイルス。特に高齢者や慢性呼吸器疾患を持つ人は、重症肺炎のリスクが高まることが知られています。

さらに、小さな子供を持つ親や保育園や幼稚園に勤務する方・小児を看護する立場の方は、大量のウイルスに曝露されることで、症状が重くなる可能性もあるのです。

今回は、様々な事情によりあまり検査されない「大人のRSウイルス」について、症状の特徴や検査の方法、出勤停止期間なども含めて、お話していきます。

RSウイルスとは?

RSウイルス(respiratory syncytial virus、RSV)は、主に乳幼児に多く見られる急性呼吸器感染症の原因として有名なウイルス。

主に飛沫感染で広がり、ザラザラした表面上では数時間生存できます。

特にRSウイルスでの初感染では、発熱や鼻汁、咳などの上気道症状が出現し、約20〜30%のケースで気管支炎や肺炎などの下気道症状が見られます。特に、早産の新生児や、特定の健康リスクを持つ乳児は重症化しやすくなりますね。

RSウイルスは、生後1歳までに半数以上、2歳までにほぼ100%の子供が少なくとも1度は感染するとされています。しかし、大人もRSウイルスに感染する可能性は十分ありますし、大人で初感染時には重症化する可能性がありますね​。

近年のRSウイルスの動向をみると、従来は11月~1月にかけてピークに達するといわれていますが、コロナ感染をきっかけに「6月~8月」くらいにピークが移動しているのがわかります。特に2021年は異例のRSウイルスの感染獏爆発を引き起こしました。

とはいえ、通常は冬季~春に流行しやすい感染症なので、冬季でも油断が禁物な感染症です。また子供と接触の機会が多い大人を中心に、大人にも発症します。

そして、高齢者や基礎疾患を持っている方は重症化する恐れもあるウイルスなのです。

(参照:東京都感染症情報センター「RSウイルス感染症の流行状況」
(参照:国立感染症研究所「感染症発生動向調査からみる2018年~2021年の我が国のRSウイルス感染症の状況」

大人のRSウイルスの症状の特徴は?

大人のRSウイルスの特徴について言及した論文によると、臨床症状は「若年の成人」「高齢者」「免疫力が低下している成人」で大きく異なります。いずれもRSの潜伏期間は、RSウイルスに感染してから2~8日(多くは4~6日間)です。

① 若年の成人の場合

若年の成人の場合は、下気道に侵入する前に上気道(のど・はな)での免疫が十分発達しているため、上気道症状に限局されるのが一般的です。

自然にRSウイルスに感染した健康な病院スタッフ10人を対象とした研究では、全員が

  • 鼻づまり(もっとも多い)
  • 発熱
  • 刺激性の咳

を中心とした症状をきたしており、10人中8人が平均6日間仕事を休んだとしています。また2人が4週間くらい喘息のような気管支狭窄や長期間におよぶ疲れ、息切れをきたしたとしていますので、軽症でも新型コロナのように症状が長引く可能性がありますね。

② 高齢者の場合

高齢者のRSウイルス感染症の症状は、軽度の風邪から重度の呼吸困難まで多岐にわたります。主な症状とその割合は次の通りです。

  • 90~97%
  • 鼻漏・鼻づまり67~92%
  • 喉の痛み 20~33%
  • 頭痛: 3%
  • 声がれ: 22~27%
  • 喀痰22~67%
  • 呼吸困難 :11~20%
  • 38℃以上の発熱20~56%

このようにみると、若年成人では鼻づまりが中心であるのが、咳が中心でほぼ必発なのがわかりますね。

また、インフルエンザでは発熱や頭痛を主体としやすいのに対して、RSウイルスでは38%以上の発熱は多くて半数くらいなので、「発熱もないのに咳がやたら出る」呼吸器疾患にはRSウイルスが隠れているのかもしれません。

➂ 基礎疾患や免疫不全を持っている方

免疫力が低下している方でのRSウイルス感染症は、一般的に2日くらい上気道症状が出てから肺炎の症状をたどることが多くなります。主な免疫力が低下している方のRSウイルスの症状は以下の通りです。

  • 鼻ろう/副鼻腔の詰まり: 61~82%
  • 喉の痛み :11~27%
  • 87~100%
  • 呼吸困難: 36~45%
  • 38℃以上の発熱65~100%
  • ぜい鳴 :35~56%
  • 呼吸音の異常: 50~100%
  • 胸部X線での浸潤影58~75%

このように、呼吸器に関する基礎疾患や免疫力が落ちる人は下気道中心に多くの症状を伴いやすいことがわかりますね。特に下記の方はRSウイルス感染症に気を付けた方がよいでしょう。

  • 免疫不全の方
  • 気管支喘息の方:年間入院率比が2.0‒3.6倍
  • 長期間たばこを吸っている方(COPDの方):年間入院率比が3.2~13.4倍
  • 糖尿病の方:年間入院率比が2.4~11.4倍
  • 狭心症や心筋梗塞をきたした方:年間入院率比が3.7~7.0倍
  • うっ血性心不全をもっている方:年間入院率比が4.0~33.2倍

実際、RSウイルスでの肺炎はインフルエンザよりも入院日数が長引くといったデータもあります(RSウイルス肺炎:30日 vs. インフルエンザ肺炎:15.2日)。

このように、RSウイルスも「どんな人に罹ったか」によって大きく症状が異なるのがわかりますね。

大人でのRSウイルスの検査は?

では大人でRSウイルス感染症はどのように検査され、診断されるのでしょうか?

結論から言うと、(よほどの事情がない限り)大人でRSウイルスの検査をされることはありません。というのも以下の3つの理由によります。

① RSウイルスに対して、気軽に使える「抗ウイルス薬」がないから

RSウイルスに対して外来でもすぐ使える「抗ウイルス薬」があるわけではありません。

米国で認可されている抗ウイルス薬が「リバビリン」という薬であり、微小粒子のエアロゾルとして 吸入にて用いられることはありますが、「重症化リスクが非常に限り使用を検討する」くらいにとどまる製剤です。

遺伝子組換え技術を用いて作成されたモノクローナル抗体製剤である「パリビズマブ」は日本で使われますが、免疫不全をもつ乳幼児や早産の乳幼児など、ごく一部の人にしか適応がありません。

また、免疫グロブリン製剤も使われることがありますが、いずれにせよ気軽に使える製剤ではなく、対症療法が中心となります。その分、診断を確定させる意義がうすれてきます。

② 迅速検査の信頼性が、大人の場合低いから

より重要な理由が「抗原検査への信頼性」です。

乳幼児では、IFA法やEIA法という迅速検査は75 ~ 95% の感度をもつといわれ、それなりに信頼の高い検査として活用されています。しかし、大人になると迅速検査の信頼性は大きく下がります。

実際、血清学的に確認された高齢者のRSウイルス感染症 11 例を分析した報告では「 6 例は培養陽性であり、IFA で陽性となったのは 1 例のみで、EIA で陽性であった例はなかった(0例)」という報告もあります。

また、免疫不全者での培養検査でRSウイルスが確認された56例について検討した論文でも「EIAにより鼻洗浄液検体は40検体中6検体(15%)で陽性、気管内分泌物は7検体中5検体(71%)で陽性、気管支肺胞洗浄検体は9検体中8検体で陽性(89%)だった」としています。

気管内分泌液などは非常に特殊な検査が必要で、外来で気軽に採取できるものではありません。一方、15%程度の陽性では信頼できるものとは到底できません。

そのため確固たる診断をつけるためには、それなりに長い期間が必要であり、よほどの理由がない限りRSウイルスを検査で診断を付けることに意味がないことがわかるでしょう。

こうしたことから、RSウイルスの迅速抗原キットは原則「1歳未満」となっており、大人を主に対象としたクリニックではRSウイルスの迅速検査キットはありません

(参照:Respiratory Syncytial Virus Infection in Adults
(参照:厚生労働省「RSウイルス感染症Q&A(令和5年9月28日改訂)」

RSウイルスでの出勤停止期間は?

RSウイルスと診断された場合、出勤停止についてはどうなるのでしょうか?

結論からいうと、RSウイルス感染症の出勤停止期間に関する具体的なガイドラインは、現時点で特に定められているものはありません。つまり、RSウイルス感染症では、特に定められた出勤停止期間(保育園を何日間休ませなければならないという決まり)は存在しません。風邪に準じて、せきなどの症状がなくなり普段どおり元気であれば、園や職場と相談し登園・出勤することができます

厚生労働省のガイドラインでは、登園の目安として「呼吸器症状(せきやゼイゼイ)が消失し、全身状態が良いこと」となっていますね。

無理して登園・出勤すると症状をこじらせる結果になることもあり、周囲にウイルスをまき散らしてしまう可能性もあります。特に高齢者や乳幼児がいる職場だと要注意です。

医師や職場の方とよく話し合って決めてください。

大人のRSウイルス感染症についてのまとめ

今回は大人のRSウイルス感染症の特徴について解説していきました。まとめると

  • 最近は6月~8月にピークを迎えるが、従来は秋~冬にかけて流行する呼吸器感染症の1種。
  • 乳幼児に多く見られる急性呼吸器感染症を引き起こします。大人も感染する可能性がある。
  • 若年成人では、風邪のような症状(鼻づまりや咳など)で終わることが多いが、高齢者や基礎疾患を持っている場合、肺炎になり入院することもある。
  • 迅速検査は大人は診断能も低いこともあり、保険適応ではない。
  • RSウイルスの外来で使える抗ウイルス薬はなく、対症療法が中心となる。
  • 出勤停止期間に関しては、RSウイルス感染症の場合、特に定められた期間はありません。症状が消失し全身状態が良好であることが出勤・登園の目安となる。

となります。2024年には高齢者や基礎疾患がある方に向けてのRSウイルスワクチンも登場します。

さまざまな理由により「見逃されがち」なRSウイルス感染症ですが、本来はインフルエンザよりも重い症状になりやすいのも特徴のウイルス。ワクチンも含めて、個人個人にあった方法で感染対策もしっかり行っていきましょう。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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コメント

    • 岸 一子
    • 2024年 1月 28日 11:45am

    10月10日すぎたあたりから咳の症状ありました。風邪かなと思い病院受診して咳止めの薬飲んでも改善せず 他の病院ヘ検査してもらいましたがどこも異常ありませんでした。
    今考えるとRSウイルスに感染してたのでしょうか?

      • Daisuke Ito
      • 2024年 1月 31日 8:01pm

      岸様

      コメントありがとうございます。可能性はありますが、今となってはわかりませんね。。
      ただ、RSウイルスだったとしても転機が重要など思います。

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