自律神経とは、感覚神経、運動神経とともに「第3の神経」として様々な体の調節を行う大切な神経の1つのこと。
自律神経が、季節の変わり目やストレス・生活習慣の悪化などによって乱れると「自律神経失調症」として様々な体の不調として発症します。しかし、自分の病気が「自律神経によるものかどうか」というのはなかなか一般の方には判別しにくく、また診断もされにくい疾患の1つです。
では、自分の体調不良が自律神経によるものかどうか、どう見分ければよいのでしょうか?また自律神経を「整える」方法はあるのでしょうか?
今回は、自律神経についての「入門編」として、自律神経が乱れる原因・自律神経の整え方について解説していきます。
自律神経とは?
自律神経とは「体の機能を24時間体制で調節するための神経」のこと。人はさまざまな刺激にさらされています。それを「感覚神経」を通して受け取り、その状況にあった「反応」をとるのが「自律神経」です。
もっともわかりやすいのが災害や予測していなかった事態が起きた時。血圧は上がり、動悸がするようになり、筋肉は収縮します。瞳孔が見開き、頭に血が上るような感覚があるでしょう。これはすべて自律神経の中の「交感神経」で引き起こされる作用なのです。

もう少し具体的に説明しましょう。実際、自律神経には、先ほどの「交感神経」と「副交感神経」があります。
交感神経は一言でいうと「心と体を活発にする神経」のこと。交感神経ではノルアドレナリンをはじめとした神経伝達物質を通して、体を「臨戦態勢」にします。
交感神経が活発になると、戦いがしやすくなるように血圧は上昇し、心拍数を増加させます。血管を収縮し、気管支を広げて重要な臓器に血流と酸素を集めようとします。瞳孔も拡張しますよね。
反対に副交感神経を一言でいうと「体をリラックスさせる神経」のこと。副交感神経ではアセチルコリンをはじめとした神経伝達物質を通して、体を「休ませる」作用があります。
副交感神経が優位になると、体を休ませるため過度は血圧は必要ありません。血圧も下がり、心拍数も抑えられ、血管も拡張していきます。リラックスしているので汗もでません。代わりに胃腸の動きが活発になっていきます。
このように、体は交感神経による「アクセル」と副交感神経による「ブレーキ」をうまくバランスと取りながら、神経による調節を無意識に受けています。加えて、さまざまなホルモンの作用を受けて、うまく心身の健康が保たれているのですね。
よく自律神経を「整える」といわれますが、これは「交感神経と副交感神経のバランスを『整える』」から来ています。
自律神経の乱れ(自律神経失調症)の原因は?

では、体のバランスを担っている自律神経はどうして乱れるのでしょうか?例えば次のようなものがあります。
① 身体的・精神的な慢性のストレスがかかっている
人間は生きている以上、さまざまなストレスにさらされています。
人間関係や家族関係、勉強や仕事に対するストレスは、多くの方が慢性的に抱える悩みです。ストレスの程度は個人差は大きいですが、中には強いストレスを受け続けている方もいるでしょう。
慢性的に過度なストレスを受けていると「がんばらなくちゃ」と体が感じ、交感神経ばかり活性化しがちになります。しかし、体はずっと臨戦態勢をとり続けることはできません。いつか体は疲れ果て、体のサインとして「さまざまな体の不調」として引き起こされます。
また、家族の死別や人生の挫折や事故や病気など、非常に強いストレスを受けた方もいるでしょう。
この場合もストレス自体は短期的であるものの、体は対処し続けて交感神経優位な状態が続きます。結果、自律神経が乱れ、体調不良を引き起こす原因となります。
② 生活習慣の悪化し、生活リズムが乱れている
古来から、人間は太陽が出る日中に活動し、太陽がない夜に休むという「生体リズム」が作られてきました。しかし、電気の発明により夜も活動できるようになり、スマホやパソコンでいつでも活動できる場が整ってしまいました。そのため、昔よりもずっと「昼夜逆転」が起こりやすくなります。
すると、体が「いつ休んでいつ活動すべきなのか」がわからなくなってしまい、自律神経が適切に活性化するタイミングを失ってしまいます。
さらに近年はコンビニやスーパーでいつでも調理された物が買えるため、食生活も不規則になりますし、栄養バランスも乱れがちになります。必要な栄養素が足りないことは、神経伝達物質の乱れにもつながり脳の血流も低下します。
こうした生活習慣の悪化が自律神経の乱れにつながるのです。
③ 疾患により自律神経を乱しているケースも
体は自律神経だけでなく、ホルモンによる調節も受けています。
自律神経が乱れる内分泌疾患としてよくあるのが、更年期障害や月経前不快気分障害に見られる「女性ホルモン」による乱れや甲状腺機能低下症などによる甲状腺ホルモンによる乱れです。これらのホルモンは自律神経に作用しやすく、しばしば薬による治療が必要になります。
また、パーキンソン病や脳梗塞をはじめとした脳・神経系疾患や、糖尿病・自己免疫性自律神経ニューロパチーなどの全身疾患でも自律神経が乱れる原因になります。
自律神経が乱れていると感じていて、なかなか生活習慣で解消されない場合は、病院で検査を受けるのも1つですね。
(参照:Mayo Clinic[Autonomic neuropathy])
自律神経の乱れ(自律神経失調症)の症状は?

自律神経失調症といって自律神経が乱れた時の症状としては、例えば以下のようなものがあげられます。自律神経が乱れた時の疾患を統合して「自律神経失調症」と呼ぶので非常に広い概念の疾患です。それぞれに対して対処法は異なってきます。
- だるい、眠れない、疲れが取れない
- 頭痛や動悸・息切れがする
- 情緒不安定、イライラや不安感が多い
- 耳鳴りがしやすい
- 過敏性腸症候群:下痢や便秘を繰り返しやすい。少しのストレスで慢性的に下痢になりやすい。おなかがいつも張る感じがつらい
- 冷え:下半身が冷えやすい。周りの人は暑がるのに自分だけ寒い感じがある
- 発汗異常:ストレスがかかりやすい場面などで、発汗しやすくなったりします。多汗症については多汗症の原因や症状・レベルの決め方や治療まで解説も参照してください。
- 起立性低血圧:立ち上がる時や急な動作をする時にふらつきやめまいが生じやすい。起立性低血圧については、立ちくらみやふらつきで多い神経調節性失神・起立性低血圧について【原因・予防・治し方】を参照してください。
- 過活動膀胱:頻尿になったり、急にトイレに駆け込みやすかったりします。過活動膀胱については、女性の頻尿に多い過活動膀胱について【症状・検査・治療薬】を参照してください。
- 性機能障害:勃起不全や射精不全・膣の乾燥など
(参照:e-ヘルスネット「自律神経失調症」)

自律神経を整える方法は?

自律神経を整えるには、緊張させる「交感神経」とリラックスさせる「副交感神経」がうまく切り替わるような「メリハリのついた生活」を心がけることが大切です。例えば、一般的には以下のことが推奨されています。
① 慢性的にストレスをため込まない
前述の通り、慢性的なストレスは体をいつも「戦闘態勢」にさせ、交感神経を優位にします。適度なストレスは人生の上でも大切ですが、ずっと休みなく働けるわけではありません。
特に「肩がいつも張っている気がする」「いつも何かに追われている気がする」など感じる場合は、交感神経が優位になりやすくなっている状態です。
当てはまる方は、リラックスする時間を作るようするとよいですね。(とはいえ、実際なかなか時間作れないですよね。そんな時は一緒に時間が作れる方法を考えていきましょう)
② 生活習慣のリズムを整える
交感神経と副交感神経がスムーズにスイッチできるような「メリハリのある生活」はとても大切。特に、
- 運動習慣をつける
- 朝日を浴びる時間を作る
- 必要十分な睡眠時間を作る(夜10時~7時間程度が理想(個人差あり))
は特に重要になります。1回の運動だけでも交感神経と副交感神経がバランスよく刺激され、「不安や緊張」「抑うつ気分」の低下が小規模臨床試験でも認められています。
朝日を浴びる時間を作ることで、体内時計がリセットされ、1日のリズムを作ることはあまりにも有名な話です。
なにより自律神経を整えるのに大切なのが睡眠。睡眠は1日で蓄積された脳の疲労物質をリセットするのに欠かせません。睡眠障害を改善することで自律神経の乱れを整えることができます。
睡眠障害については、不眠症・睡眠障害の治し方や改善方法・薬物治療について解説でも解説しておりますので、ぜひ参考にしてください。
(参照:自律神経機能と運動. JJpSoc Psychosom Obstet Gynecol Vol19,No .3,pp.271− 277)
(参照:バイオメカニズム学会誌,Vol. 29, No. 4 (2005))
③ 「香り」も自律神経を整える効果がある可能性も
非常に小規模な臨床試験ですが、香りを用いたアロマテラピーが自律神経に効果があるのではという論文もあります。
同研究では、ラベンダー、ローズマリー、シトロネラの3つの香りと自律神経の関係について9名の健康女性を対象に調べていますが、
」ラベンダーは自律神経機能でも交感神経系を抑える作用があり、リラックス効果をもたらす半面、スッキリと感じるローズマリーは一時的に交感神経を刺激し、シトロネラは嗜好性の相違が大きく自律神経に複雑な作用を及ぼした」としています。
非常に補助的ではありますが、普段の生活に「香り」を活用するのもよいかもしれませんね。
(参照:香りが自律神経系に及ぼす影響. 日本看護研究学会雑誌 Vol.23 No.4 2000)
④ 医療機関に受診する
自律神経失調症は前述の通り、非常に大きな概念です。自律神経がどう乱れているか、またどんな症状が出ているかによってアドバイスの方法はまるで異なります。
また、ホルモンバランスや糖尿病やパーキンソン病などの全身性・神経系疾患によって生じることもありますし、気圧差などで生じる「気象病」のこともありますね。
「自律神経の問題だから、自分の生活習慣が悪いんだ。自分で何とかするしかない」と考えこむのではなく、ぜひ医療機関に相談してみてください。一人でかかえこまないようにしましょう。
自律神経の乱れ(自律神経失調症)についてのまとめ

いかがでしたか?自律神経と自律神経の乱れから起こる「自律神経失調症」について解説していきました。まとめると
- 自律神経の乱れからくる「自律神経失調症」は活動するのに必要な「交感神経」とリラックスするのに必要な「副交感神経」のバランスの乱れから生じる
- 慢性的なストレスやリズムが崩れた不規則な生活から自律神経失調症になりやすい
- 生活習慣の改善は非常に重要であるが、中には投薬や治療の介入が必要なケースもあるため、医療機関と連携をとりながら改善していくのが大切
といえます。当院では自律神経を整えるタイプの漢方薬や西洋薬を用いながら、症状に合わせてアドバイスをかなり大きく変えています。
確かに中々治療に難渋しやすい疾患ではありますが、一人ひとりに真摯に向き合い対応させていただきますし、場合によっては適切な医療機関に紹介させていただきますので、一人で抱え込まずに気軽にご相談ください。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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