オミクロン「BQ.1」「BQ.1.1」の症状・重症化や感染力について解説

2019年から私たちの生活を脅かしてきた「新型コロナ」。ワクチンや治療薬の開発も進められた中で、日本でも「第8波」が始まりました。

今回の波の主流株と最も考えられているのが新型コロナ、オミクロン株の中の「BQ.1」と呼ばれている系統です。その亜系統のBQ.1.1株のことを別名「ケルベロス株」とも言われていますが、一体どういった特徴があるのでしょうか。

今回は、新型コロナ変異株「BQ.1」株の特徴について、BQ.1株の具体的な症状や重症化、感染性などを含めてお話していきます。

BQ.1株やBQ.1.1株とは

(新型コロナの系統樹:covariants.orgより転載)

BQ.1株とは、オミクロン株BA.5から発生した亜系統の1つの変異株です。

上図のように、新型コロナは、もとの株からどんどん枝分かれをしていき、細分化されています。他にもBA.5株から発生した亜系統として、「BA.5株」「BA.2.12.1株」、ケンタウルス株として有名な「BA2.75株」、グリフォン株として同じく世界で拡大している「XBB株」などがあります。

このように、最近はギリシャ文字自体が変わるわけでなく、オミクロン株の中での名称が変わってきているのは、こうした系統樹的な理由があったからなんですね。

BQ.1株は2022年9月にナイジェリアから報告され、BA.5株からはウイルスが細胞に侵入する際の「スパイクプロテイン」のK444T変異、L452R変異、N460K変異、F486V変異が加わりました。BQ.1株はXBB株とともに、「懸念される亜種(VOC)」に認定されています。

さらにBQ.1系統にR346変異が追加された「BQ.1.1株」(通称:ケルベロス株)が特に日本で拡大傾向です。

(参照:SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: technical briefing 47)

BQ.1株やBQ.1.1株の感染力は?

(1日4日時点での変異株の種類の割合。BQ.1は日本では33%を占める)

世界でBA.5株に置き換わり感染拡大を続けているBQ.1株ですが、BQ.1株の感染力もBA.5株に比べてやや上昇しており、日本でも感染拡大を続けています。

実際、感染症アドバイザリーボードの資料によると、オミクロンBQ.1系統(BQ1.1を含む)の感染力は、従来の変異株(BA.5株)に比べて1.2倍であるとしています。

また、オミクロンBQ.1(BQ.1.1株)の置き換わりの推移ですが、1月4日時点での厚生労働省の発表では「BA.5株が46%に低下しているのに対して、BQ.1株は33%に拡大」する傾向になっています。今後も「第8波」の主流株となっていくと思われます。

他には「BA.2.75株(ケンタウルス株)」の増加が3番目にあげられており、BQ.1株とともに注意したい変異株ですね。その特徴は、新型コロナ「BA.2.75株」(ケンタウルス)の症状や重症化・感染力についてでまとめてありますのでご参照ください。

(参照:第105回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード (令和4年11月9日)
(参照:東京都防災ホームページ「モニタリング項目の分析(令和4年11月10日公表)」

BQ.1株やBQ.1.1株の症状は?

現在のところ、BQ.1株のみに特化した症状は報告されていません。BA.5株から派生した変異株であるため、BQ.1株の症状として以下が考えられます。

  • 発熱、咳、咽頭痛、鼻水などの感冒様症状
  • 声がれや呼吸困難などを中心とした呼吸器症状
  • 頭痛や関節痛、筋肉痛
  • 強い倦怠感
  • 味覚障害や嗅覚障害(オミクロン株から割合が低下しました)
  • 下痢や吐き気などの消化器症状

BA.5株についての症状の詳細は、オミクロン変異株「BA5株」の特徴について【症状・重症化・潜伏期間】を参照してください。

実際、発熱外来でコロナ患者の診療をしていて1番感じることは、新型コロナの症状は極めて多彩であるということ。同じ家族の中でも、発熱だけの方がいれば、呼吸困難で罹患後症状を残す方もいます。

しかも同じ方でも後から全く違う症状になるケースもあります。例えば、最初は頭痛だったのに、後から「喉がガラスが刺さったように痛くなった」という方もいます。身体所見上、いくつかコロナが疑わしい所見はあるものの、最終判断は検査が必要。本当に数ある感染症の中でも判断に困るウイルスですね。

さらに、新型コロナは罹患後症状として残りやすいという特徴があります。重症化はしなくてもオミクロン株での後遺症のデータではイギリス、日本ともに「5%(20人に1人)」程度とされています。

また、マサチューセッツ総合病院、ハーバード TH チャン公衆衛生大学院、キングス カレッジ ロンドン、スタンフォード大学医学部での共同研究である「Zoe Health Study」によると、症状と重症度はワクチンの接種状況についても異なるとしており、ワクチン接種をしているとくしゃみや鼻水を主体にしやすいとのことです。

また、BQ.1株の症状の詳細がわかり次第アップデートしていきますが、市販薬などで長期間様子を見ないで、なるべく早めに医療機関に受診するよう、お願いいたします。

新型コロナの各症状の詳細については、下記をご参照ください。

(参照:ZOE Study Group「COVID Symptoms」

BQ.1株やBQ.1.1株の重症度は?

欧州疾病予防管理センターからの報告によると、(限られたデータであるが)「BQ.1株がBA.4/BA.5株よりも大きな重症度と関連しているという証拠はない」とのことです。

イギリスUKHSAの報告でも「BQ.1はBA.5と比較して入院率はほとんど差がない」としています。(リスク中央比:1.06倍)

仮にBQ.1株がBA.5株と同じあったとした場合、第7波までの死亡率は

  • 全体の死亡率0.091%(第6波が0.143%)
  • 10~40代の死亡率:0.002%~0.025%
  • 50代の死亡率:0.025%
  • 60代の死亡率:0.075%
  • 70代の死亡率:0.404%
  • 80代の死亡率:1.434%
  • 90代の死亡率:2.958%

ですから、同じく第8波もそれと同等と考えられます。これらの背景として、

  • ウイルス自体がオミクロン株になり重症度が低く感染力が高い株に変化してきたこと
  • コロナ検査や医療体制が受け入れやすいよう整ってきたこと
  • 抗ウイルス薬などの治療に関する選択肢が増えてきたこと
  • ワクチン接種が複数回行われるようになったこと

が考えられます。しかし、1月11日の感染症アドバイザリーボードでの大阪府の発表によると「第7波と比較してやや高い死亡率」が公表されています(全死亡率:第7波0.12%、9月以降0.15%)ので、現時点でより第7波よりも死亡率が低下するという見込みはありません。

12月に行われた感染症アドバイザリーボード資料でもインフルエンザと同等の致死率が公表されましたが、今後の動向に注意したいですね。

実際、コロナ患者を診療にあたっている身からすると、以下の理由から、まだ「新型コロナ=ただの風邪」と考えていません。(そもそもインフルエンザも「ただの風邪」ではありません)

  • 特に高齢者や基礎疾患がある方での死亡率が高いこと
  • ウイルスの変異により性質が大きくかわる可能性があること
  • 新型コロナの罹患後症状・後遺症患者が他のウイルスに比べて圧倒的に多いこと

特に後遺症については、最近当院での相談も非常に多くなっています。オミクロン株の後遺症については新型コロナ「オミクロン株」 での後遺症の割合や症状・期間について【BA.5株】でも記載しておりますので、あわせてご参照ください。

(参照:欧州疾病予防センター)
(参照:SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: technical briefing 49
(参照:第105回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード (令和4年11月9日)
(参照:第111回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年12月21日
(参照:第113回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年1月11日)

BQ.1株やBQ.1.1株の潜伏期間は?

現在、BQ.1株に特化したデータはありませんが、BA.5株と同じとすると、茨城県の調査ではBA.5株の潜伏期間は平均2.4日と考えられていますので、BQ.1株についても潜伏期間は2~3日程度であると推定されます。

そのため、新型コロナを発症した方がいたら、その2日前までに接触された方は発症に十分注意しなければなりません。

場合によっては「濃厚接触」にあたる可能性があるので、(特に外出時には)感染対策はしっかり行うようにしましょう。

BQ.1株やBQ.1.1株への再感染の可能性は?

BQ.1株は、BA.5株に加えてK444T変異、L452R変異などの細胞が侵入する「スパイクたんぱく質」に変異が加わっており、BA.5株よりもワクチン接種や過去の感染による免疫から感染する免疫逃避能が高くなっていることが査読前論文で報告されました。

つまり、ウイルスの性質上、過去に新型コロナに感染していたとしてもBQ.1株への再感染の可能性は十分ありうるということになります。

まだどれくらい確率で再感染をきたすかなどの臨床データはありませんが、「過去に新型コロナにかかっていたからコロナではない」とあまり考えずに、症状があったら(他の感染症と同様)きちんと対処することが大切ですね。

(参照:BioRxiv「Imprinted SARS-CoV-2 humoral immunity induces convergent Omicron RBD evolution」

BQ.1株やBQ.1.1株へのワクチンの効果は?

(UKHSAのデータより日本語に一部改変

BQ.1株はまだ発生して新しい変異株のため、十分なデータがそろっていませんが、BQ.1に対するワクチンの予防効果もBA.5株よりはやや低下していると考えられています。

イギリスUKHSAのデータによると、BA.5株に対する従来のワクチンでの入院予防効果は次の通りです。

  • 3回目か4回目接種から2~14週後:62.1%(BA.2株は50.1%)
  • 3回目か4回目接種から25週以降:23.8%(BA.2株は9.0%)

一方、BQ.1に関しては、

  • 3回目か4回目接種から2週間後以上:50.3%

となっています。また、京都大学での中和抗体によるワクチンの免疫効果の試算ではBQ.1株はBA.5株よりも5-6%中和抗体が上がりにくくなっているとしています。

オミクロン株に対応したワクチンでの予防効果はまだ新しいワクチンのためはっきりしませんが、理論上は上記よりも高い数字が見込まれますね。

(参照:UKHSA「COVID-19 vaccine surveillance report: 3 November 2022 (week 44)」)
(参照:第113回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年1月11日)
(参照:SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: technical briefing 49

BQ.1株やBQ.1.1株についてのまとめ

いかがでしたか?今回は、「第8波」の主流株の有力候補である「BQ.1株」「BQ.1.1株」についてまとめていきました。まだ少ないデータですが、まとめると

  • BQ.1株やBQ1.1.株は、いずれもBA.5株からの派生株である
  • BQ.1株はBQ.5株よりも1.2倍の感染力が推定される
  • BQ.1株に特徴的な症状はなく、BA.5に近い症状が想定される
  • BQ.1株の重症化率・死亡率は、BA.5と同等と考えられている
  • BQ.1株は、ウイルスの性質上、従来の免疫を回避する性質があり、再感染する可能性も十分ある

といえます。波を重ねるごとに重症化率も下がってきていますが、後遺症の問題や今冬のインフルエンザの動向を考えると、まだまだ注視すべき状況です。

ぜひただの風邪と考えず、感染拡大予防や重症化予防のため、普段からの感染対策は継続していただき、発症された際には早めの受診をお願いいたします。

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更新履歴

  • 1月11日:感染症アドバイザリー資料、イギリスUKHSA資料に伴い一部変更

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