新型コロナは2019年の武漢株以来、どんどん変異を繰り返し、常にアップデートしていきます。
思えば、アルファ株、デルタ株、オミクロン株、BA.2株、XBB株、XBB.1.5株、EG株、JN.1株、KP.3株と「より拡散しやすい株」に置き換わるたびに、感染の波を繰り返してきました。
そして、2024年~2025年の冬に流行の中心になると考えられている新型コロナ変異株が「XEC株」です。一体どんな変異株なのでしょうか。
今回は、新型コロナ変異株「XEC株」について、ウイルス学的な特徴からコロナによる症状、感染予防対策などについて解説していきます。
以前のKP.3株についてはコロナ変異株「KP.3株」の特徴について【最新株・症状・推移】を参照してください。
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新型コロナ「XEC株」とは?
XEC株を一言でいうと今まで流行していた「JN株」系統でより強い株になるために、ウイルス同士の性質がかけ合わさったハイブリッド株のことです。
JN.1(BA.2.86.1.1)株は、とても前に流行した「BA.2株」から突然変異のように派生して、2024年初めにそれまで優勢だったXBB株に打ち勝ち流行しました。
そのあと、追加のスパイクタンパクが置き換わった「KP.3株」(JN.1.11.1.3)を含む様々な亜変異体が出てきました。
その中で、より繁殖しやすく感染させやすくするために、KS.1.1(JN.13.1.1.1)とKP.3.3(JN.1.11.1.3.3)の組み換わる系統がうまれました。これが「XEC株」です。2024年8月7日にドイツで初めて特定されましたが、瞬く間に世界に広がり世界各国で優勢株となりつつあります。
XECは、組み換えによりKP.3と比較して、ゲノム位置21 738〜22 599にブレークポイントを持つ2つのスパイクタンパク置換、S:T22NとS:F59Sを獲得しており、よりこれまでの免疫を回避して流行しやすく改良されています。
実際、XEC株について以下のことが言われています。
- アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、ドイツの調査では、KP.3.1.1株と比較して、1.1倍~1.2倍実効再生産数が高かった(よりウイルスの伝搬力が高い)
- 培養細胞を使って実際にウイルスがどれくらい感染しやすいかを見たところ、XEC株はKP.3株の約2倍の高い感染価を示した
- これまでのオミクロン系統の株(XBB.1.5株、JN.1株、KP.3株)で感染して獲得した中和抗体がどれくらい色々な株にも有効であるか実験したところ、XEC株は他の株に比べて高い中和抵抗性を示し(=今まで感染したことがあっても再感染する可能性が高くなる)、XEC株はKP.3.1.1の1.3倍、中和抗体に対して抵抗をしめした。
このように、これまでよりもよりウイルスの伝搬力も高く、一度感染しても再感染しやすくなるように改変されているウイルスが「XEC株」です。
(参照:SARS-CoV-2 Variant XEC Increases as KP.3.1.1 Slows)
(参照:Virological characteristics of the SARS-CoV-2 XEC variant)
新型コロナ「XEC株」は2024年~2025年冬の主要変異株になりつつある
新型コロナウイルス「XEC株」は、この冬に流行の主流となる可能性が高まっています。
東京都では、9月頃からXEC株が少しずつ確認されていましたが、10月下旬には25%、11月上旬には30%と、その割合が少しずつ増加しています。
アメリカCDC(疾病対策センター)の発表によると、11月23日時点では、XEC株の割合が38%まで拡大しており、12月中旬には主流になるだろうと予想されています。
つまり、今年の冬も新型コロナの流行が予想されますが、これまでのKP.3株とは違い、XEC株が中心となって広がる可能性が高いということです。
(参照:東京都新型コロナウイルス感染症情報第34号【令和6年11月22日発行】)
(参照:アメリカCDC「CDC Data Tracker:Monitoring Variant Proportions」)
新型コロナ「XEC株」の症状は?
新型コロナ「XEC株」の主な症状にはどんなものがあるのでしょうか?
アメリカCDCからの発表によると、現時点での新型コロナの症状として以下のものを挙げています。
- 発熱または悪寒
- 咳
- 息切れまたは呼吸困難
- 喉の痛み
- 鼻づまりまたは鼻水
- 新たな味覚または嗅覚の喪失
- 倦怠感
- 筋肉や体の痛み
- 頭痛
- 吐き気または嘔吐
- 下痢
これらの症状は今までのコロナ変異株の時の症状の内訳と同じなので「XEC株だから症状が異なる」といったことはなさそうですね。
当院での新型コロナの症状の内訳は新型コロナの症状について【最新版・期間や経過も紹介】にも載せてあるので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。(随時数カ月ごとにアップデートしていきます)
いま実際、現場でコロナを見ている身としては、本当に多種多様ですね。症状はものすごく軽くて「こんなものか」と思われる人もあれば、本当にしんどそうで「一刻も早くなんとかしてほしい」という人もいます。自分で自己検査してそのままにして、後遺症で当院で長く来院されている人もいますね。
新型コロナの治療薬はまだ依然として高額であり、服用されたとしても完全に重症化リスクや後遺症のリスクが取り除けるものでもありません。(詳細はコロナで使われる薬について【一覧・種類・自己負担】を参照してください)
罹患後症状などを肌で感じる身としては、インフルエンザよりもずっと後遺症のリスクは上に感じます。繰り返されることですが「ただの風邪だろう」と思わずに感染予防にも努めていただきたいと思います。
(参照:アメリカCDC「Symptoms of COVID-19」)
新型コロナ「XEC株」の重症化と後遺症のリスクは?
幸い新型コロナ「XEC株」によって重症化があがったとする報告はありません。
そもそもアメリカCDCでの2020年から2024年までのコロナ入院患者をまとめた論文によると、年度を追うごとに入院リスクは低下してきています。
一方、年齢が高くなると新型コロナは重症化という意味でも無視できません。CDCからの報告では18歳~49歳と比較して年齢が高くなるほど入院リスクは
- 50~64歳:2.9倍
- 65~74歳:7.3倍
- 75歳以上:24.1倍
とあがっていきます。まだまだ高齢者には新型コロナは「あぶない疾患」といえますね。
もう1つ新型コロナを議論する上で大切なのが「後遺症」です。そして後遺症に関してはあまり楽観視できない報告が相次いでいます。例えば次の通りです。
- 2023年のイタリアでの1,243名のコロナ感染症の子供(平均年齢7歳)を対象とした報告によると23%の方は、3か月たっても倦怠感などの症状が持続しており、「コロナ後遺症」と診断されました。オミクロン株以降は0.6倍に低下しましたが、以前として高い数字となっています。
- 2024年に発表された135,161人の米国退役軍人省のコロナ感染者と、対照群5,206,835人を比較した試験によると、コロナで入院した人は3年後の死亡のリスクが1,000人あたり9.6人上昇することがわかっています。
- 2023年に台湾で発表された高齢者の後遺症患者の論文では、75歳以降でコロナ感染症にかかった方は、65~74歳でコロナにかかった人と比較して、後々認知症になる確率が約2倍になることがわかっています。また、同論文ではインフルエンザとも比較していますが、認知症のリスクはコロナの方が高いこともわかっています。
このように、コロナの最大のリスクは「後遺症」といっても過言ではないくらい、さまざまな年齢層で影響をおよぼしますね。ちなみに、いずれの論文でもワクチンは悪影響を及ぼしておらず、むしろ後遺症についてはプラス(=後遺症になりにくい)として論じられています。
個人的には、今までにワクチンの副作用がなかった人については、コロナワクチン接種も薦められるものと思いますね。(もちろんワクチンの副作用で辛い経験をした方もいると思いますので、万人がすべきとは思いません)
こうした傾向はXEC株においても同様だと思いますので、重症化や後遺症リスクを低下させる意味でも感染予防には努めてほしいと思います。
(参照:Risk factors for post-COVID-19 condition (Long Covid) in children: a prospective cohort study)
(参照:COVID-19–Associated Hospitalizations Among U.S. Adults Aged ≥18 Years — COVID-NET, 12 States, October 2023–April 2024)
(参照:Real-world data analysis of post-COVID-19 condition risk in older patients)
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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