最近、ニュースなどで「セミ型」という新しい新型コロナウイルスの変異株について耳にしたことはありませんか?「また新しいウイルスが出たの?」「今度はどれくらい危険なの?」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
実は、この「セミ型」はこれまでの変異株とは少し違った、非常に興味深い特徴を持っています。今回は、最新の研究論文や各国の公衆衛生機関のデータをもとに、このセミ型ウイルスについて分かりやすく解説していきます。
新型コロナ「セミ型」とは?

まず、なぜ今回の新型コロナ変異株は「セミ型」と呼ばれているのでしょうか。
正式名称は「BA.3.2」というオミクロン株の仲間です。2021年に大流行したオミクロン株の初期に「BA.3」という系統がありましたが、これは他株との生存競争に敗れ、2022年初頭には世界中から姿を消してしまいました。しかし、絶滅したはずのそのBA.3の子孫が、数年間の空白期間を経て、2024年11月に南アフリカで突然発見されたのです。
地下深くで数年間じっと過ごし、ある日突然地上に大量に姿を現す昆虫の「セミ」に似ていることから、研究者たちの間で「セミ型(Cicada variant)」という通称で呼ばれるようになりました。
このウイルスは、免疫力が低下した人の体内で数か月から数年という長い時間をかけて持続的に感染し続け、その間に一気に多数の変異を獲得した「塩躍的進化(えんやくてきしんか)」を遂げたと考えられています。
驚くべきことに、初期の新型コロナウイルスと比べて全体で100箇所以上、ウイルスの感染の鍵を握る「スパイクタンパク質」だけでも70~75箇所もの変異を持っています。これは、最近まで主流だったJN.1株やLP.8.1株の変異数(約30~40箇所)と比べても倍近い驚異的な数字です。また、病原性に関わる「ORF7」や「ORF8」という遺伝子領域がごっそり抜け落ちている(870塩基対の欠失)ことも分かっています。
では、現在このセミ型はどこで流行しているのでしょうか。
南アフリカで発見された後、ゆっくりと水面下で世界中に広がり、2026年初頭の段階で世界23カ国以上で確認されています。
WHO(世界保健機関)のデータによると、世界全体の検出割合は2026年2月の9.95%から、約1ヶ月後の3月には19.9%へとほぼ倍増していますね。特にヨーロッパ(デンマーク、ドイツ、オランダなど)では全ゲノム配列の約30%を占める急激な増加を見せており、アメリカでも下水調査などを通じて徐々にシェアを伸ばし、2026年3月時点で0.55%に達していることが確認されています。
このように、「セミ型」はずっと絶滅したはずの子孫株が今頃になって急速に拡大を見せている、ちょっと変わった変異株なんです。
(参照:Evolution and Viral Properties of the SARS-CoV-2 BA.3.2 Subvariant(medrxiv))
(参照:WHO TAG-VE Risk Evaluation for SARS-CoV-2 Variant Under Monitoring: BA.3.2(WHO))
新型コロナ「セミ型」の感染力は?

「これだけ変異が多いなら、感染力も凄まじいのでは?」と心配になりますよね。
実は、ウイルスの世界には「トレードオフ(何かを得ると何かが失われる)」という進化の法則があります。セミ型は、人間の免疫から逃れる能力を極限まで高めた代償として、細胞への侵入効率や増殖力をある程度犠牲にしていることが研究で明らかになっています。
細胞実験(インビトロ)の結果によると、ウイルスの細胞毒性(細胞を破壊して広がる能力)を示す「プラーク形成面積」は、かつて猛威を振るったデルタ株の約3.2分の1、初期の新型コロナウイルスの約2.5分の1にとどまることが示されました。
一方で、細胞内での増殖スピードについては、同時期に流行している別のオミクロン派生株(LP.8.1など)とは同等で、24時間で細胞への感染割合が約33倍に増殖するというデータが出ています(初期株は約4.8倍でした)。
しかし、大流行を引き起こしたJN.1株の子孫系統などと比べると、ヒトの細胞の受容体(ACE2)に結合して侵入する効率自体は落ちていることが分かっています。
つまり、免疫の網をすり抜けるのは非常に得意ですが、単独で爆発的な感染の波を引き起こし、他のウイルスを一瞬で駆逐してしまうほどの「圧倒的な感染効率」は持っていない、というのが現在の評価です。
(参照:Functional and Structural Basis of Omicron BA.3.2.1 Spike)
新型コロナ「セミ型」の症状について

では、もしセミ型に感染してしまった場合、どのような症状が出るのでしょうか。
基本的な症状はこれまでのオミクロン株の延長線上にあり、主に鼻やのどなどの上気道を中心とした急性呼吸器感染症を引き起こします。今のところ、セミ型特有の未知の症状(過去に見られなかったような特異な臓器不全など)が報告されているわけではありません。
具体的な症状と発現頻度の内訳を見てみましょう。
- 主な症状(高頻度):発熱、疲労や強い倦怠感、咳
- 上気道症状(高頻度):鼻水や鼻づまり、くしゃみ、のどの痛み
- 全身症状(中頻度):頭痛、悪寒、筋肉痛や身体の痛み
- 消化器症状(低〜中頻度):吐き気や嘔吐、下痢(特に小児に多い)
- まれな症状:「嗅覚・味覚障害」や「息切れ」「ブレインフォグ」など
アメリカのデータでは、子供(3歳から10代後半)の感染が比較的目立つという報告もあります。しかし、これはウイルスが生物学的に子供を狙って変化したわけではなく、単に子供たちの方が過去のパンデミックでの感染歴やワクチン接種率が相対的に低く、集団免疫における「空白地帯」になっているためだと分析されていますね。
新型コロナの症状の詳細については、新型コロナの症状について【2025年最新版・ニンバス・期間】を参照してください。
(参照:CDC「Symptoms of COVID-19」)
新型コロナ「セミ型」の重症度について

一番気になるのは「重症化しやすいのかどうか」という点ではないでしょうか。
結論から言うと、現在得られているすべての臨床データや疫学データにおいて、「セミ型が過去の変異株(デルタ株や初期オミクロン株)と比較して重症化率(入院率や死亡率)を押し上げているという証拠は一切ない」と明確に示されています。WHOも初期リスク評価において、「もたらす追加の公衆衛生上のリスクは低い」と公式に明記していますね。
アメリカCDCでも2026年3月に「セミ株」に関するレポートを出していますが、初期に感染された5人の方は全員生存しているとのことでしたね。しかし、今後増えてくると一定の確率で死者も出てくるとは思いますが、むしろ重症度は軽くなると予想されています。
というのも、先ほど「セミ型とは?」の項目でお話しした「ORF7」や「ORF8」という遺伝子領域の欠失が、ウイルスが宿主の細胞を激しく破壊する能力(病原性)を低下させている可能性が高いと考えられているのです。ウイルスは肺の奥深くまで入り込んで重篤な肺炎を引き起こすのではなく、免疫の監視を逃れながら上気道で穏やかに増殖する道を選んだと言えますね。
ありがたいことに、新型コロナもゆっくりと重症化という脅威がなくなってきている傾向にあるといえるでしょう。
セミ型は再感染を起こしやすい?

重症化しにくいとはいえ、決して安心はできません。なぜなら、セミ型は「再感染」を極めて起こしやすいウイルスだからです。
驚異的な70箇所以上ものスパイク変異は、私たちが過去の自然感染やmRNAワクチン接種によって獲得した中和抗体のネットワークを広範囲に無効化してしまいます。
過去の患者の血液(血清)を用いた実験では、次のような結果が定量的に示されています。
- 2021年以前(オミクロン株流行前)の免疫:完全に逃避され、古い免疫は全く機能しませんでした。
- 2024年(JN.1流行期など)の免疫:中和レベルは極めて低く、祖先株であるJN.1と比較して中和活性が約6.6倍も低下することが確認されました。
- 2025年(直近)の免疫:KP.2やKP.3系統などに感染して得た新しい免疫であっても、同時期に循環しているLP.8.1株と比較して、中和能力が有意に1.6倍低く、高い免疫逃避の優位性を維持していました。
現在各国で展開されているシーズン向けのmRNAワクチン(主にJN.1対応)についても、抗原性が大きく異なるセミ型に対しては試験管内で中和能力が顕著に低下することが分かっています。
そのため、感染症の専門家たちは「セミ型は過去に新型コロナに感染したことがある人や、直近でワクチンを接種した人であっても、高い確率で再感染(ブレイクスルー感染)を起こしやすい変異株である」と警告しています。
(参照:Antigenic and virological characteristics of SARS-CoV-2 variants BA.3.2, XFG, and NB.1.8.1)
まとめ:正しく恐れ、感染から身を守ろう
いかがでしたでしょうか。
「セミ型(BA.3.2)」は、現在の医療インフラを機能不全に陥れるような恐ろしい強毒ウイルスではありません。過度なパニックになる必要はないと言えます。
しかし、数年間も姿を消していた古い系統が、ワクチンの防御網を無効化するほどの多数の変異を獲得して突然再出現したという事実は、ウイルスが私たちの見えないところで依然として進化を続けていることを強く示しています。
重症化しにくいとはいえ、何度も再感染を繰り返すことは体にとって負担になります。引き続き、手洗いや換気といった基本的な感染対策を無理のない範囲で心がけ、ご自身や周りの大切な人の健康を守っていきましょう。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

















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