気象病に対するオススメな漢方薬について【五苓散・苓桂朮甘湯】

最近、天気が崩れると頭が痛くなったり、めまいがしたりして体調が悪くなる、ということはありませんか?

「私の気のせいかな」と気に病んでいる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、実は、天候の変化で体調を崩すのには、きちんとした医学的な理由があるのです。そして、この「気象病」と呼ばれる不調に対して、漢方薬が非常に有効であることが近年の研究で次々と明らかになってきています。

今回は、気象病のメカニズムと、なぜ漢方薬が効果的なのか、そしてオススメな漢方薬である「五苓散」「苓桂朮甘湯」「呉茱萸湯」「葛根湯」の4タイプでお話していきます。

気象病とは

気象病(Meteoropathy)とは、気圧、気温、湿度といった気象条件の急激な変化を「引き金」に、人体にさまざまな身体的および精神的症状が誘発されたり、もともと持っている病気が悪化したりする状態の総称です。

臨床の現場でよく見られる症状としては、片頭痛や緊張型頭痛といった頭の痛み、めまい、耳鳴り、首や肩の痛み、関節痛などがあります。これに加えて、体がだるい、眠れない、気分が落ち込むといった自律神経や精神的な不調も高い頻度で現れるといわれています。

昔から「天気が悪いと古傷が痛む」とよく言われてきましたが、過去20年ほどの研究で、そのメカニズムが科学的に解明されつつあります。

例えば、私たちの耳の奥にある内耳の前庭器官(半規管や球形嚢)に、わずかな気圧の変化を敏感に感じ取る「気圧センサー」が存在することがわかっています。

動物実験では、天候悪化に相当するマイナス40hPa(ヘクトパスカル)の低気圧にマウスをさらしたところ、脳幹の神経細胞が興奮していることを示すマーカー(c-fos陽性細胞数)が有意に増加することが確認されました。つまり、耳の奥で感じた気圧の変化が、神経を通って直接脳に伝わっているのです。

また、天気によって痛みが強くなる「天気痛」を持つ方々に、実験的に40hPa分の低気圧を負荷した臨床実験でも、痛みが強くなると同時に交感神経が過剰に興奮し、鼓膜の温度が有意に上がる現象が確認されています。

気圧が下がると自律神経が乱れ、血管が収縮して痛みに敏感になる、というメカニズムが存在するわけですね。

さらに、2015年から2018年にかけて行われた天気痛患者53名を対象とした調査では、患者さんは圧倒的に女性に多く、痛みを過大に解釈して悲観的に捉え続けてしまう「破局化思考(Pain Catastrophizing)」が健常な方より有意に高い傾向にあることもわかりました。

このように、気象病は、単なる体の反応だけでなく、痛みを感じる脳の認知プロセス(生物心理社会モデル)も複雑に絡み合った病態であると考えられています。

気象病で漢方薬が効果的なのはなぜ?

西洋医学では、頭痛に対しては痛み止め(NSAIDsやトリプタン系薬剤)、めまいに対しては抗めまい薬などを用いる対症療法が一般的です。しかし、これらはすでに出てしまった痛みを抑えるもので、気圧の変化に対する体の「過敏さ」そのものを治すわけではありません。

そこで頼りになるのが、東洋医学である漢方薬からのアプローチです。

漢方医学の考え方では、気象病の根本的な原因は「水毒(すいどく)」と呼ばれる体内の水分代謝の異常にあるとされています。

私たちの体の中の水分は、気圧の変動による物理的な影響を強く受けます。気圧が下がると、細胞の周りの水分が膨張したり、特定の場所に偏ったりするのです。

特に、気圧センサーがある内耳のリンパ液で水分が停滞(内耳浮腫)すると、センサーが圧迫されて過敏になり、わずかな気圧変化でも神経が過剰に反応してしまいます。

気象病の治療で中心となる漢方薬は、「利水剤(りすいざい)」や「駆水剤(くすいざい)」と呼ばれるものです。これらは、体の中の余分な水を尿として排出させ、水分のバランスを整えてくれます。

西洋薬の強い利尿薬が強制的に水分を絞り出すのとは違い、漢方薬は内耳や脳血管の周りに異常に溜まった水分を血中へ移動させ、全身の巡りを良くした上で、不要な水分だけを優しく体外へ出すという「調整的」な働きを持っています。

そのため、内耳のむくみを安全に解消し、気圧センサーの異常な興奮を鎮めることができる……というわけですね。

気象病での漢方薬① 五苓散

気象病、とくに「気圧頭痛」や天候変化に伴うむくみ、めまいに対して、現代の医療現場で最もよく使われ、確かなデータが蓄積されている代表的な漢方薬が「五苓散(ごれいさん)」です。

天候の変化などによる突発的な水分の異常に対して、短期間で優れた効果を発揮します。

五苓散は以下の5つの生薬から構成されており、それぞれが協力して余分な水分を排出します。

  • 茯苓(ぶくりょう):上半身(胸部や頭部)に働きかけ、胃などに滞留した余分な水を去ります。精神安定作用もあり、水毒による動悸や不安感、めまいを鎮めます。
  • 猪苓(ちょれい):下半身(腎臓や膀胱)に特化して働き、濾過機能や排尿機能を高めることで、下半身の浮腫や滞留水を尿として強力に排出します。
  • 蒼朮(そうじゅつまたは白朮(びゃくじゅつ):胃腸の働きを整えながら、全身の細胞外液の代謝を促し、水分の偏りを直します。
  • 沢瀉(たくしゃ):全身の水の巡りを根本から良くし、茯苓や猪苓と協力して尿量を増やし、水毒状態を解消します。
  • 桂皮(けいひ)または桂枝(けいし):体を温めて血管を広げ、血行を良くします。気を巡らせることで、他の生薬の利水効果を全身に行き渡らせる重要な役割を持っています。

このように、ただ水を出すだけでなく、桂皮によって血流と気の巡りを改善する組み合わせなのが、五苓散の即効性の秘密なのです。

実際の臨床研究でも、その効果は数字で証明されています。気象関連の片頭痛を持つ71名に五苓散を投与した研究では、83.1%という極めて高い有効率が得られました。

さらに2025年の研究では、気圧の変化に関連する片頭痛患者50名において、全体的な奏効率は61.7%でした。

興味深いことに、五苓散が十分に効かなかったグループを分析したところ、不安障害などの精神的な併存疾患を持っている割合が有意に高い(p=0.011)ことがわかりました。

つまり、五苓散は末梢の「水毒」には非常に有効ですが、精神的な要因で痛みを強く感じてしまう方には、別のケアも併せて必要になるかもしれないということです。

また、基礎研究において、五苓散は脳の中で起こる異常な神経の波(大脳皮質拡延性抑制:CSD)の発生頻度やスピード自体を直接抑えるわけではないことが分かっています。これは、五苓散が脳内でのトラブルをあとから止めるのではなく、耳の奥などの「末梢でのむくみ」を解消することで、痛み信号が脳へ行くのを未然に防いでいることを意味します。

そのため、頭痛が本格化する前の「予兆期」に五苓散を飲むことが、極めて効果的だといわれています。

(参照:Clinical Response to Premonitory-Phase Goreisan Therapy in Migraine with Weather- and Barometric Pressure-Related Headache

気象病での漢方薬② 苓桂朮甘湯

気象病の主な悩みが頭痛ではなく、天候が悪化するときの「フワフワするようなめまい」「立ちくらみ」、あるいはそれに伴う動悸である場合によく使われるのが「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)」です。

五苓散が全身の水分を尿として出す力が強いのに対し、苓桂朮甘湯は上半身に溜まった水分の偏りと、自律神経の乱れを治すことに特化していますね。

苓桂朮甘湯は以下の4つの生薬で構成されています。

  • 茯苓(ぶくりょう):主薬として、胃腸や上半身に停滞した水分を取り除きます。また、中枢神経への鎮静作用があり、めまいや不安感を強力に鎮めます。
  • 桂枝(けいし):血管を広げて血行を良くするとともに、上半身に向かって異常に突き上がる気(自律神経の過興奮)を下に引き下げる作用があります。これにより頭の鬱血を改善し、めまいを解消します。
  • 白朮(びゃくじゅつ):胃腸の消化吸収機能を高め、水分代謝を根本から促します。茯苓と協力して余分な水分の吸収と排泄を助けます。
  • 甘草(かんぞう):他の生薬の働きを調和させます。交感神経の緊張による首や肩のこわばりを和らげ、脳への血流を間接的に改善します。

気圧が下がると、内耳のリンパ液が膨張するだけでなく、自律神経の異常なシグナルによって脳の血流が一時的に低下したり偏ったりしてめまいが起こります。

苓桂朮甘湯は、胃腸周りの水分停滞を改善し、桂枝の力で上半身に偏った血流や神経の過興奮をスッと下へ降ろしてくれます。

景色がグルグル回るよりも、足元がフワフワするようなめまいや神経過敏でお悩みの方に、とても優れた効果を発揮するといわれていますね。

気象病での漢方薬③ 呉茱萸湯

気象病の症状が慢性化して「慢性連日性頭痛(CDH)」のような複雑な状態になったり、患者さんの体質が五苓散などに合わなかったりする場合は、別の漢方薬が選ばれます。

その代表例が「呉茱萸湯」(ごしゅゆとう)です

2021年から2022年にかけて行われた調査では、43名の慢性連日性頭痛の患者さんに対して、西洋薬に加えて患者さんの状態に合わせた漢方薬を組み合わせる治療の有効性が確認されています。

特に、呉茱萸湯は、気圧が下がると「激しい頭痛」とともに「強烈な吐き気や嘔吐」「手足の極端な冷え」「肩こり」を伴うような、いわゆる「冷え性」で体力が低下している方で非常に高い効果を示します。

呉茱萸湯は以下の4つの生薬で構成されています。

  • 呉茱萸(ごしゅゆ):主薬として体の深部体温を強力に上げ、冷えを改善します。脳血管の異常な拡張を抑えて強い鎮痛作用を発揮し、さらに中枢性の制吐作用で激しい吐き気を鎮めます。
  • 人参(にんじん):胃腸の働きを高め、生命エネルギーである「気」を補います。体力が落ちて自律神経が乱れやすい状態を底上げします。
  • 生姜(しょうきょう):胃腸を温めて消化管の運動機能を回復させ、吐き気を抑えます。末梢血管の血流も良くします。
  • 大棗(たいそう):胃腸の機能を整え、精神を安定させます。筋肉の緊張を和らげる働きもあります。

気圧の低下が引き金となって交感神経が異常に興奮し、手足の血管が極端に縮んで冷えきってしまい、胃腸の血流も落ちて嘔吐してしまう。

そんな深刻な「自律神経のドミノ倒し」を起こしている方に対して、呉茱萸湯は体の芯から温め、脳の血流を調整することで、西洋の痛み止めや吐き気止めだけでは対応しきれない劇的な改善をもたらすと考えられています。

(参照:The Efficacy of Japanese Herbal Kampo Medicine as an Acute and Prophylactic Medication to Treat Chronic Daily Headache and Medication Overuse Headache:-Single Arm Retrospective Study

気象病での漢方薬➃ 葛根湯

葛根湯(かっこんとう)と聞くと、風邪のひき始めに飲むお薬というイメージが強いのではないでしょうか。

しかし実は、気象変化(特に寒さや気圧の低下)をトリガーとする「緊張型頭痛」や、後頭部から首、背中にかけての強烈な筋肉のこわばりを伴う気象病に対して、とても有効な治療薬なのです。

葛根湯は以下の7つの生薬で構成されています。

  • 葛根(かっこん):首の後ろから背中にかけての筋肉の緊張を特異的に緩め、血行を良くします。
  • 麻黄(まおう):気管支を広げ、交感神経を適度に刺激して発汗を促し、体表の循環を劇的に改善して寒気を追い出します。
  • 桂枝(けいし):麻黄と協力して体表の血管を広げ、血行を促進して体を温めます。
  • 芍薬(しゃくやく):筋肉の異常な収縮や痙攣を鎮め、痛みを和らげます。
  • 生姜(しょうきょう):胃腸を温めて消化を助け、発汗をサポートします。
  • 大棗(たいそう):胃腸の機能を整え、過度な発汗や刺激を防ぎます。
  • 甘草(かんぞう):芍薬と一緒に働くことで、筋肉の急激な痙攣と痛みを即効的に鎮めます。

気圧が下がるのを内耳が感知し、自律神経が過剰に興奮すると、無意識のうちに首から肩にかけての筋肉が持続的に収縮してしまいます。これが血流障害を引き起こし、痛みの物質が蓄積して頭痛を引き起こすのです。

葛根湯は、体を温めて体表の血流を強制的に良くし、葛根や芍薬の力で筋肉の過度な緊張を直接的に解きほぐしてくれます。そして、物理的な血行不良からくる頭痛を根本から断ち切ることができるわけです。

まとめ

気象病と一口に言っても、人によって現れる症状や根本的な原因はさまざまです。最新の研究データからも、画一的な処方ではなく、患者さん一人ひとりの状態(証)に合わせた漢方薬を選ぶ「精密医療」が重要であることがわかっています。

「たかがお天気」と我慢せずに、ご自身の症状に合った漢方薬を見つけることで、雨の日も晴れやかな気持ちで過ごせるようになるかもしれませんね。気になる症状がある方は、ぜひ一度専門の医師や薬剤師に相談してみてください。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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