日本でも新型コロナが着実に増加している中で、心配なのが「変異株」の存在です。昨年夏はBA.5株が主流ですが、今年の夏はBA.5株よりもさらに変異した「XBB株」が主流となってきています。XBB株にもいろいろな系統がありますが、一体どんな変異を持っているのでしょうか。
現時点でわかっている「XBB株」「XBB1.16株」の症状や重症度や特徴について解説していきます。
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オミクロン変異株「XBB株」「XBB1.16株」とは?
XBBとは「BJ.1株とBM.1.1.1株の組み替え体」です。オミクロン株の特徴の時に紹介しましたが、2つのウイルスが1つの細胞に同時に感染した時、細胞の中で2つのウイルスの遺伝子が混ざりあって全く新しいウイルスが誕生します。これが、「組み換え体」です。
もともとのBJ.1株はBA.2.10株(ステルスオミクロンがBA.2株です)の亜系統、BM.1.1.1株はBA.2.75.3株の亜系統株(BA.2.75株は「ケンタウルス」としても有名になりましたね)なので、その組み換え体のXBB株も「BA.2株」「BA.2.75株」にある程度近しい性質を持つことが予想されます。
ただし、XBB株のスパイクタンパク質の受容体結合部位の中の「R346T、N460K、F486S」などのアミノ酸変異があり、特に中和抗体からの逃避能が高くなっている点が大きな特徴のウイルスです。(後述します)
また、XBB(読み方:エックスビービー)というのが煩雑なためか「グリフォン」と呼称されることもあります。
さらに、組み合わさったXBB株にも「XBB1.9.1株」や「XBB1.5株」「XBB1.16株」などさまざまな種類があります。(ここまでくると違いがよくわからなくなってきますね)
その中で注目されるのが、2023年4月インドにおいて感染が急激に増加した、新型コロナウイルス「XBB.1.5株」の子孫株である「XBB1.16株」です。
XBB1.5株では従来のXBB株よりもヒト細胞への「hACE2 結合」が強化され、さらに伝搬性が高くなっているのが特徴とされてきたわけですが、「XBB1.16株」では「XBB1.5株」よりも高い伝搬性をもつといわれています。(実行再生産数で1.13倍)
さらに、XBB1.16株はXBB1.5株と同等に、BA.2株やBA.5株の感染で誘導される中和抗体に対して高い抵抗性をもつといわれているので、例えば「去年新型コロナにかかったら、もう絶対に感染しない」ということはありません。
新型コロナの再感染については、新型コロナの再感染はいつから?コロナ再感染の重症化や間隔・リスクについて解説を参照してください。
(参照:BioRxiv「Enhanced transmissibility of XBB.1.5 is contributed by both strong ACE2 binding and antibody evasion」)
(参照:SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 52)
(参照:東京大学医科学研究所「SARS-CoV-2オミクロンXBB.1.16株の ウイルス学的特性の解明」)
オミクロン変異株「XBB株」の現在の主流は?
日本では、現在XBB株の流行が急速に拡大しています。7月7日に行われた厚生労働省の発表によると、
- XBB1.16株:44%
- XBB株:38%
- XBB1.5株:10%
- XBB株:7%
とほとんどの変異株の種類をXBB系統で占めている状況にになりますね。5月8日の東京都モニタリング会議資料では4月70%程度、3月では40%、2月では5%程度であったので、XBB株のここ最近の急増ぶりがかがえます。
2023年の夏はXBB株に対して十分に対策していくことになりそうです。
(参照:CDC「COVID Data Tracker」)
(参照:第122回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年7月7日)))
オミクロン変異株「XBB株」の症状は?
XBB株の流行が去年みられたシンガポールの保健局「MOH」では、新型コロナの症状として
- 発熱
- 咳
- 喉の痛み
- 鼻水
- 味覚嗅覚障害
などをあげており「肺炎や急性呼吸器疾患に似ている」としています。しかもこれらは、XBB株が優勢になった後から症状を変更していないので、従来のオミクロンBA.5株と同様の症状と考えてよいでしょう。XBB株の潜伏期間もBA.5株と同等の2~4日くらいであろうと推定されます。
5月下旬からコロナの患者さんも急増し、6月現在12月~1月と同等に多くのコロナ患者さんを診ている見からすると、他の症状としては
- 関節痛・筋肉痛(しばしば後遺症として筋肉痛がのこることもあります)
- 倦怠感(まれに立ち上がれないほどの倦怠感をいわれることもあります)
- 頭痛(ここ最近よく言われます)
- 息切れ・呼吸困難
- 痰
などがよく見られるところですね。発熱の程度は39度くらい高くのどの所見もない方もいる一方、37度後半で鼻水やのどの痛みが主体なタイプ、逆に下気道が中心で呼吸困難を呈するタイプもいます。
XBB.1.16株の臨床学的特徴を解析したインドの論文によると、XBB.1.16株の症状は「発熱64.8%、咳43.4%、鼻漏が34.2%」となっており、今までのオミクロン株の症状と変わらないとしています。(ちなみにインドではのどの痛みはもともと感じにくい傾向にあり、当初から7%と低く、今回も4%しかのどの痛みを感じていません)
このように新型コロナは他のウイルス感染と比較して非常に多彩な症状であることが特徴といえますね。
また「自分はコロナではない」と思っている方に限って「陽性だった」という例もよくあります。自己判断で行わず、お手持ちの抗原検査キットの活用(奥までしっかり採取しないと陽性になりません)や医療機関受診をし、診断を確定していただくようお願いします。
詳しくは下記も参照してください。
- オミクロン変異株「BA5株」の特徴について【症状・重症化・潜伏期間】
- のどの痛みはコロナ?のどが痛い時の原因やケアについて解説
- 痰や咳はコロナから?痰のからむ咳の原因や対処法について解説
- 鼻水はコロナから?風邪とコロナ・花粉症の見分け方について解説
- だるいのはコロナ?だるさや倦怠感について解説【原因・治し方】
(参照:シンガポールMOH「GENERAL INFORMATION ABOUT COVID-19」)
(参照:Chasing SARS-CoV-2 XBB.1.16 Recombinant Lineage in India and the Clinical Profile of XBB.1.16 Cases in Maharashtra, India)
オミクロン変異株「XBB株」「XBB.1.16株」の重症度は?
XBB株の重症度は「従来の新型コロナ感染症よりも重症度は上昇していない」といえます。シンガポールMOHからの発表によると、「XBB株の症例はBA.5症例と比較して、入院のリスクが30%低いと推定」としています。
また、XBB.1.16株に関してもWHOでは「XBB1.16株系統は現在流通している他のXBB系統と同じくらいである」としていますね。
しかし、「既存の中和抗体薬が効果がない可能性が高い」ので注意が必要です。
また、シンガポールMOHからの発表によると、XBB株が拡大した9月22日~10月22日までの期間での死亡率は
- 50歳未満の死亡率:ワクチン接種の有無に関わらず0.01%未満
- 50-59歳の死亡率:ワクチン接種なし0.05%、ワクチン接種あり0.01%未満
- 60-69歳の死亡率:ワクチン接種なし0.24%、ワクチン接種あり0.01%
- 70-79歳の死亡率:ワクチン接種なし0.44%、ワクチン接種あり0.09%
- 80歳以上の死亡率:ワクチン接種なし2.2%、ワクチン接種あり0.55%
となっており、年齢とワクチン接種の有無によって大きく変わってきますので、ご注意ください。
XBB株についてもアメリカのニュースでは「感染が多い地域でのマスク着用」「ワクチン接種」「ブースター接種」の3つを対抗策としてあげています。
XB.B1.16株の特徴について解析したインドからの報告では、入院率は25.7%。(ほとんどは基礎疾患からの入院)入院症例の64.8%は保存的治療を受け、33.8%の症例は酸素補充療法が必要でした。インドでの死亡率は2.1%であり、その75%が65歳以上の高齢者となっています。インドではまだまだ新型コロナは非常に致死率の高い疾患なのですね。
インドでのワクチン接種は2回接種が80.9%、追加接種が11.8%という状況であり、大半がアストラゼネカ製のCovishieldとなっています。
(参照:Gov.sg「Corrections regarding XBB wave in Singapore」)
(参照:WHO「XBB.1.16 Updated Risk Assessment, 05 June 2023」)
(参照:Severity of SARS-CoV-2 Omicron XBB subvariants in Singapore)
(参照:Chasing SARS-CoV-2 XBB.1.16 Recombinant Lineage in India and the Clinical Profile of XBB.1.16 Cases in Maharashtra, India)
オミクロン変異株「XBB株」「XBB.1.16株」への再感染率は?
XBB株の安心できない点は「再感染率」の高さです。シンガポールでは再感染は新規症例全体の約17%を占めており、「過去に新型コロナにかかっているから大丈夫」とはいえません。
また、再感染例にはオミクロン株から1-3か月後に再感染した例も含まれており、「直近でコロナにかかったから再感染しない」とも言えません。
実際、シンガポールのデータによると、人口10万人あたりの10月8日~10月14日での新規感染者・再感染者数の内訳は
- 新規感染者数(コロナ未感染):163人
- デルタ株以前にかかった方:147人
- オミクロン株感染から1-3か月経過:0.7人
- オミクロン株感染から4-6か月経過:26.4人
- オミクロン株感染から7-10か月経過:42.4人
となっています。また、査読前論文からも「BQ.1株とXBB株は以前の免疫から逃れる性質が高い」としています。
特に現在日本で主流になっているXBB1.16株では、XBB1.5株と同等に「今までの免疫から逃れる性質が高くなっている」ことがいわれています。
いずれにせよ「自分はコロナにかかったら、もうかからないだろう」と過度に考えず、感染前後で行動を極端に変えないことが大切ですね。
新型コロナの再感染については、新型コロナの再感染はいつから?コロナ再感染の重症化や間隔・リスクについて解説を参照してください。
(参照:Ministry of Health「UPDATE ON COVID-19 SITUATION AND MEASURES TO PROTECT HEALTHCARE CAPACITY」)
(参照:Biorxiv「Imprinted SARS-CoV-2 humoral immunity induces convergent Omicron RBD evolution」)
(参照:東京大学医科学研究所「SARS-CoV-2オミクロンXBB.1.16株の ウイルス学的特性の解明」)
オミクロン変異株「XBB株」のまとめ
いかがでしたか?今回はオミクロン変異株「XBB株」「XBB.1.5株」について解説していきました。まとめると
- XBB株は、BA.5系統に分類されているが、実際はBJ.1株とBM.1.1.1株が同じ細胞の中で組み合わされた「組み換え株」である。
- アメリカで急増しているXBB.1.5株やインドで流行し日本でも拡大しているXBB1.16株もXBB株の性質を受け継いでいる。
- XBB株は重症化する可能性は少ない株であるが、ワクチン接種の有無や年齢によって大きく異なる。
- XBB株は再感染率の高さが非常に高いのが特徴であり、ウイルス学的にみてももともとの免疫能から逃れる性質があることがわかっている。
といえます。なるべくかからないことが一番ですが、どんなに気をつけてもかかってしまうこともあります。早めに医療機関にアクセスするようにしていただき、抗原検査キット(奥に入れて採取しないと偽陰性になりやすいです)や市販薬などを活用しながら、対策していきましょう。
もちろん、当院にもいつでもご相談ください。公式LINEアカウントやオンライン医療相談なども随時行っています。どうぞ不安になっている方、メッセージをください。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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更新履歴
- 7月28日:XBB.1.16株に関して、インドの論文をもとに、症状の内訳や入院率などをアップデート。感染症アドバイザリーボード資料を基に日本の状況もアップデート
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